Dragon Queen 〜最終話〜
(前編)
『金竜』は『蒼竜』に・・・そして他の3頭の竜達を、優しい目で見回ると、厳しい視線を『黒い竜』に向けた。
『・・・久しぶりだな・・・『黒竜』・・・』
『黒竜』は慇懃な視線で『金竜』に向かって言った。
『そうだな・・・『金竜』よ・・・幾百年だったか・・・幾千年だったか・・・忘れたぐらいだ・・・』
『あの時――ちゃんと止めを刺さなかったのが、私の過ちだな・・・。』
『金竜』は僅かに自虐的に言うと、余裕の笑みを浮かべる。
『ほぉ・・・だったら、今なら『黒竜』を倒せる・・・と?』
薄ら笑いを浮かべ、『黒竜』は問う。
『あの時でさえ、『黒竜』を封印することだけでも精一杯だったお前が、か?』
だが『金竜』は言い放った。
『あぁ。・・・しかし今は『四神竜』がいる!』
『金竜』はそう言って空に舞うと、『黒竜』に向け雷を放つ。
『グゥッ!』
『黒竜』は今まで見たこともない苦しみに悶えて、痺れが取れず、その場に崩れ落ちていた。
その間、『金竜』は四神竜の傷を癒すと、彼らに言った。
『『闇』は『光』あれば自然と生まれるもの。しかし『闇』を照らせば、おのずとその『闇』は消える・・・。私が『光の刃』を天から降す。その時『黒竜』の身体中の鱗がしばらく見えるはずだ。彼もまた、我らと同じ『逆鱗』を持つ。それは色の違う一箇所だ・・・そこが『急所』だ。そこを狙え!』
『しかし・・・この『黒竜』の結界を破るほどの『光の力』を使えば、『金竜』だって、残りの力は・・・』
『紫竜』の心配げな言葉に、目を細めると、『金竜』は答える。
『・・・確かに、遠き昔・・・『黒竜』との戦いでは、その力を使いきり、倒れた・・・。だが、今は私は一人ではない。・・・『四神竜』がいる。・・・任せたぞ・・・』
『わかった!』
『金竜』の言葉に『紅竜』が飛び立つ。
『まぁ、やってみる価値はありそうだな・・・』
そう言って『白竜』も飛び立つ。
『ありがとうございます。』
『紫竜』も続いて飛び立つ。
『・・・・・・。』
『蒼竜』は何も言えなかった。
だが、『金竜』の目が頷くのを見て、自分も精一杯頷き返した。
『では行くぞ!』
『金竜』の声に、四頭の竜は一斉に『黒竜』に立ち向かう。
『えぇいっ!・・・まだチョコマカとっ!!』
『黒竜』は四頭の竜達に、黒炎を噴出し、暴れだす。
『金竜』は天に向かって咆哮する。
『グヮァァァァーーーーッ(『金の刃』よ!我が力によって、いまひと再び『暗黒の力』を照らし、闇を払う光とならんことを!!)』
その咆哮に、天から眩しいほどの光が、まるで上空から、剣が落ちるかのようにして、真っ直ぐ『黒竜』めがけて突き刺さる。
『グァァァァーーーッ!』
『黒竜』の咆哮―――
そこに黒い炎のように『黒竜』の身体をまとっていた「黒い霧」が晴れ、その全身の黒い鱗が露になる。
その瞬間、『紅竜』が、『白竜』が、『紫竜』が、一斉に『黒竜』に飛び掛り、その身体を咥え、爪を食い込ませるようにして巻きつく。
そして―――その一点―――『黒い鱗』の中の「たった一枚」だけ、鈍く光る、『銀の鱗』―――
―――『今だ!『蒼竜』!』
『グォォォォォォーーーーッ!』
『蒼竜』は猛然と、その『銀の鱗』に牙を立て噛り付くと、そのまま鱗を引きちぎり、その真下にあった『命の源―――心臓』まで食いちぎった。
『グヮァァァーーー・・・・・・(馬鹿な・・・この私が・・・こうもあっけなく・・・)』
重々しい断末魔の咆哮をあげると、『黒竜』は地面にゆっくりと倒れ落ち、その身体が『灰』のように、風の中の塵となって消えていった・・・。
『・・・「やった」・・・のか?』
『紅竜』が覗き込む。
『あぁ・・・間違いなく今度は『倒したんだ』・・・お前達がな・・・』
『金竜』が答える。
『グォォォォォォーーーーン!(「やった・・・やったんだ!」俺達!)』
『紅竜』が喜びの咆哮をあげる。
『グルルル・・・(フンっ! 勝たねば『大府』の『守護竜』たる、俺達の威厳がなかろう!)』
冷静に呟く『白竜』だが、何処となしにその表情に笑みが零れている。
『クゥォォォォー――ン・・・(もう大丈夫だよ。羅玖簾・・・)』
『紫竜』の声を遠くに感じながら、羅玖簾は結界を解き、民達に伝えた。
「・・・もう大丈夫ですわ。・・・四神竜様方が、『黒い竜』を倒しました。もうこれからは何も恐れることもない、王都になりますでしょう・・・」
羅玖簾の微笑みに、民達は歓喜の声を上げて、『小野頃』に向かい、走り出した。
* * *
『・・・さて・・・我も戻るとしよう・・・』
地上の民たちの姿を優しい眼差しで見つめると、『金竜』は天へと昇ろうとした。
だが―――
『待ってくれ!』
『蒼竜』が『金竜』の動きを止めた。
『その身体は『篝』の身体ではないのですか!?』
『蒼竜』が必死に食い止める。
しばらくして『金竜』は『蒼竜』に向かって話し出した。
『いかにも・・・『阿簾琶』の名を持つものは『金竜』に変化できる身体をもっている。・・・しかし、この娘には、『阿簾琶』の名を持って生まれたものの、『変化』出来るだけの力を持つ『魂』を持てずにいた。・・・その為、早く天に今一度、『魂』を上げる『運命』を施そうとした。もし『黒竜』が目覚め災いを起こした場合、お前達『四神竜』と、我が直接『この身体』を借り、天罰を下そうとして・・・。・・・だが『蒼竜』!・・・お前が要らぬ『力』をこの娘に与えてしまったことで、『金竜』の力を封印されたまま、そなたの『巫女』となってしまった。・・・『蒼竜』ならわかるだろう。この娘自身の命は、とうに尽きていることを・・・。』
『・・・・・・・・・。』
『蒼竜』は返す言葉もなく、只『金竜』の話を聞いていた。
他の四神竜達と羅玖簾が、心配げに見守っている。
『この身体で、今こうして語っているこの『私の魂』は、天より『代理』として落とされたものだ・・・。この『篝』の身体に残る『記憶』を辿って、過去を語っているだけ・・・。 このまま娘――『金竜』は身体ごと、私が天へ返す。』
そう言って立ち去ろうとする『金竜』に、『蒼竜』は必死で身体ごと止めた。
『蒼竜!?』
『お前、何を―――』
言いかけた『紫竜』と『白竜』の言葉を遮り、『蒼竜』は話し出した。
『『金竜』――貴方は『篝』の身体を『代理』――つまり『借りている』ということになるのですね?』
『・・・いかにも・・・』
『ならば・・・篝の『魂』があれば、その『身体』は、また地上にいて、生き続けることは可能なのですね。』
『蒼竜』が何を言いたいのかわからない『金竜』―――そして『紫竜』達・・・
そんな彼らを前に、『蒼竜』はハッキリといった。
『ならば、俺の『魂』を・・・『永久の命』を、彼女に差し上げます。』
その場にいたものが、全員驚きの表情に変わる。
『永遠なんていらない・・・俺は篝が生きてくれればそれだけでいい・・・彼女はこの『大府』にとっても必要な人だ。・・・俺は…そのためなら…彼女の命の糧になっても…』
『蒼竜』は『金竜』の目を真っ直ぐ見据えて言った。
『だから、彼女の命を救えるのなら、俺は―――』
『・・・それでどうなるのだ・・・?』
『金竜』は『蒼竜』・・・そして、他の竜達を見回して言った。
『そもそも、この『金竜』の身体にもともとあった『魂』は、かつて『大府』を守護する為、『金竜』がその『魂』を四つに割り、竜達を生み出したのだ・・・。この『身体』に命を吹き返すのならば、お前達の『四つの魂』を一つにし、元に戻さなければ出来ないのだぞ。・・・もしそうなったあかつきには、竜達は―――その場で『滅びる』!』
『金竜』の言葉に、四神竜達は息を飲む。
『金竜』は尚も続ける。
『もし、『仮に』・・・だ。お前達の『神竜』としての『力』だけを一つの『魂』として集め、この『身体』に命を分け与えれば、そなた達は今までのように、永遠の命を過ごすことなく、『神竜』としての力もなくなり、『人』と同じように、限りある時間の中で『人』の身体のまま、生きなければならなくなるのだぞ。・・・そして・・・例えお前達がそうして『力を集めて出来た魂』が全てそろったところで、この娘は『金竜』に変化できるまでの『力』は生まれぬし、やはり人と同じ時間を生きるに過ぎない・・・。それでもお前は・・・お前達は「かまわぬ」というのか・・・?』
『金竜』の言葉に、『蒼竜』は俯く・・・
―――そうなのだ・・・
自分の勝手な想いだけで、他の仲間を犠牲には出来ない・・・
その時―――
『なぁ・・・俺達って、あの『黒竜』っていう竜から、『大府』を護る為に生まれたんだろ? んじゃ、もう『黒竜』がもういなくなったんだったら、別にこれからも『竜』として、ず〜〜〜っと守らなくてもいいんじゃないの?』
『紅竜』がアッサリと答える。
『ふんっ・・・もうあの場所で一人でいるのも、そろそろ飽きたしな・・・』
『『紅竜』・・・『白竜』・・・』
『蒼竜』が驚いたように、目を見開く。
『・・・僕も・・・もう大切な物は護れたから・・・今度は『蒼竜』の番だよ。』
「そうですわね。」
『紫竜』と羅玖簾も微笑む。
『紫竜』の命が人と変わりなくなれば、その『巫女』たる羅玖簾の命も、限りある物になってしまう・・・。
だが羅玖簾は『蒼竜』に向かって微笑みながら、頷いた。
『皆・・・』
『蒼竜』はそれ以上言葉に出来ず、涙を堪えるように、静かに呟いた。
『・・・・・・ありがとう・・・・・・』
その様子を見ていた『金竜』は、四神竜達に、人間の姿に戻るように言った。
『・・・覚悟は・・・いいのだな・・・?』
四人全員が一斉に頷く・・・力強く。
『金竜』はそれを見届けると、天に向かい叫んだ
『クォォォォォォーーーーン(我が魂、天に向いし時、この身体にかつて宿りし魂たちを呼び込み、その命を吹き返さんことを―――)』
次の瞬間、眩しい光が四人に降り注ぎ、その輪の中にいた、『金竜』の身体が光に包まれながら『篝』のものに変わっていくと、篝の胸の中から光の珠がゆっくりと抜け、天に上がる―――
そして、四人の身体も光の中、変化が訪れる。
「あっ!? あれ!?」
シンが自分の背を摩る。
「背中の『逆鱗』が・・・」
イザークが呟く。
「・・・消えていく・・・」
キラがその感覚を確かめるように背を摩る。
そして『蒼』『紅』『白』『紫』色の鱗が、一つの珠に集まると、篝の胸に収まっていく・・・。
やがて光が消えると共に、篝がふわりと地上に降りてくるのを、アスランは優しく受け止めた。
アスランは抱き締めた腕の中の篝の、温かみが戻りはじめ、薄く赤みがさしてきたその頬に、自分の溢れてくる涙をおさえ切れないまま、頬擦りをしながら呟いた。
「『ありがとう』……そして『お帰り』……篝……」
・・・to next final end.⇒