Dragon Queen 〜最終話〜

(後編)

 

 

 

「・・・ぅ・・・ん・・・あれ? 此処何処だ!? 私・・・何やって・・・」

「大丈夫。・・・もう『終わった』よ。(カガリ)。」

自分を抱く、優しい人の声が聞こえる。

「・・・アスラン・・・?」

その穏やかな翡翠の瞳が、優しく自分を見つめている。

微笑む(カガリ)が、アスランの頬に手を伸ばすと、温かな感触が伝わる。

「よかった・・・お前・・・無事で・・・生きていて・・・」

(カガリ)はゆっくり腕を伸ばし、アスランの首に手を回し、抱きしめあう。

 

 

 

 

・・・だが・・・

 

 

 

 

何故か視線を感じ、(カガリ)が後ろをそっと見回すと・・・

 

 

 

知らない少年と少女達が、微笑みながら自分を見つめている。

 

たちまち(カガリ)の顔が真っ赤になる。

「な、な、な、何だ!? お前達!誰だ!?」

「俺の大事な友達だよ。(カガリ)。」

アスランの声に(カガリ)は真っ赤になり、慌ててアスランの腕の中から飛び起きる。

 

 

そんな(カガリ)の様子に、皆に笑いが・・・笑顔が戻った。

 

 

 

 

「・・・それにしても・・・メチャメチャだなー・・・これ・・・」

(カガリ)が辺りを見回しながら、呟く。

 

『王都』――『小野(オノ)(ゴロ)』は『王宮』を含め、建物が殆どといっていいほど、崩れ去っている。

 



「皆は!? 街の民は皆無事なのか!?」

焦る(カガリ)羅玖簾(ラクス)が柔和な微笑みで優しく答える。

「大丈夫ですわ・・・皆さん、避難なさって、ご無事です。」

「そうか・・・。」

そういって立ち上がると、(カガリ)の元に、懐かしい声が聞こえてきた。

 

(カガリ)様ぁー!」

「姫様!!」

 

笑顔で手を振る(カガリ)

 

 

 

その後姿に、シンがポツリと漏らす。

「・・・あ〜ぁ・・・でも、こんなにメチャメチャになって・・・これじゃ暫く、大変だよな〜。」

 

ぼやくシンに対し、(カガリ)は何でもないように言ってのけた。

 

 

 

 

「大丈夫だ! ―――『街』は壊れても、『人』は残ったんだから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

(カガリ)の見上げる空は、いつしか、美しい朝焼けが広がり始めていた。

 

 

 

 

 





*        *        *

 

 

 

 

 






着々と復興作業が進む『
小野(オノ)(ゴロ)』―――

 

 

一早く立て直された『王宮』は、嘗てないほど質素で、官吏や兵達が心配したが、(カガリ)は「それでいいんだ」と答えた。

 

 

 

 

 

*        *        *

 

 

 

 

 

 

―――春の柔らかい温かな風が流れ込んでくる、『王宮』の渡り廊下―――

 

その先に続く『離れ』の部屋の、南向きの大きく開かれた障子にもたれかかる様にして、紺色の髪をした青年が、柔らかな風に誘われるようにして、澄み切った空を見上げていた。

 

 

「なんだ。こんなところにいたのか。」

その後ろ姿を見つけた金の髪をなびかせた少女が、嬉しそうに駆け寄り、青年に声を掛ける。

「西国では今年は天候に恵まれそうだ、ってイザークから便りがあったぞ。・・・それからシンも何か、可愛い彼女が出来たって・・・「簾手(ステ)()」ちゃんとか言ってたな・・・あとキラと羅玖簾(ラクス)も薬草がよく取れて―――って……何だ?」

 

 

 

青年は黙って、話続ける少女を手招きすると、指した。

 

 

 

 

「うわぁ・・・」

 

 

 

 

青い空の下、咲き誇り、舞い散る『桜』―――

 

 

「この木・・・無事だったんだ・・・。」

 

少女が嬉しそうな声をあげる。

 

 

 

「・・・なぁ・・・覚えているか・・・?」

青年が声を掛ける。

「・・・ん? 何を?」

キョトンとする少女に、青年は答えた。

「・・・何時だったかな・・・お前と初めてあの湖で出会って・・・お前が『お弁当』持ってきてくれて・・・一緒に桜の下で食べたこと・・・」

「あぁ・・・ちょっと下手くそで、今、考えると恥ずかしいばっかりだな///」

 

軽く頬を染める少女に、青年は優しく話し出した。

「・・・そして・・・俺は君に、あそこで俺の『巫女(はなよめ)』にしたんだったな・・・。」

「そ、そうだったっけか??///」

 

「今でも・・・あの時と『同じ気持ち』でいいか?」

「・・・え・・・?」

 

再びキョトンとする少女に、青年は胸懐から大事そうに取り出した袋から、一つの指輪を出すと、それを少女の左手の薬指にはめた。

 

「これ・・・お母様の。・・・お前に預けた・・・」

「・・・人間界では・・・こうするんだろ・・・『花嫁との契り』って・・・」

顔を赤らめながら、ぎこちなく話す青年に、少女は顔を更に赤らめ言った。

「お、お前・・・こ、心の準備もしてないのに、と、突然、こんなところで、こういう渡し方ってないんじゃないか!?」

「・・・悪かったな・・・」

お互い染めあがった頬の顔を見合うと、急に可笑しそうに二人は笑いあった。

 

 

 

 

 

 

「綺麗だな・・・」

 

 

舞い散る花びらに酔いしれながら、愛しそうに指輪に触れて、呟く少女の横顔に、青年はまた何か言いにくそうに、頬を赤らめていった。

「なぁ・・・もう一つ『頼み』があるんだが・・・いいか?」

「あぁ・・・何だ?」

「・・・その・・・」

「何だよ! 男だったらさっさと言え!」

少女が声をあげると、青年は小さく言った。

「・・・『膝枕』・・・」

「・・・は?・・・」

「だから・・・『膝枕』・・・して欲しい・・・んだが・・・」

視線を逸らして、赤らめた頬をしながら、懸命に言う青年に少女は笑うと、その場に座った。

「どうだ。これでいいか?」

青年は少女の膝に頭を乗せると、その柔らかさと温かさに、千年の孤独が癒されるような心地良さを感じていた。

 

「じゃあ、私が何時も乳母(マーナ)にしてもらっていたみたいに、昔話してやるぞ♪」

「・・・いいよ・・・このままで・・・」

「ダーメだ! 少しはお前が甘えろよ。いいな!」

命令口調は10年前と変わりない。

思わず漏らす青年の笑みも気づかず、少女は語り始めた。

 

 

 

「―――それは、昔々の『お話』です。

 

   この地は花が咲き乱れ、人も動物も、それはそれは仲良く幸せに暮しておりました。

 

   ところがです…

 

   ある時、『災い』をもたらすという、『暗黒の竜』が現れ、幸せだったこの国を、メチャメチャに壊そうとしていました。

   人々は笑顔を失い、美しかった花も枯れはて、悲しみと苦しみの地となってしまったのです。

   しかし、一人の巫女が懸命に『神』に祈りました。



   『どうか、この地をお救いください―――私の命と引き換えに…』

 

   巫女の祈りは天へと通じ、『暗黒の竜』を倒すべく、眩しく輝くような『黄金色の竜』を、『神』は『巫女の魂』と引き変えに
      お使いにくださりました。

   

それから何百年という長い長い時間、『黄金色の竜』と、『暗黒の竜』は戦い続け、そして『暗黒の竜』は、『黄金色の竜』の
      力によってこの地に封印されたのです。

   

しかし、『黄金色の竜』も力を使い果たし、この地でお倒れになってしまったのです。

  

   『黄金色の竜』は、最後に人々にこう告げたのです。

 

   ―――『封印』は消して破るべからず…

そして、もしもに備え、我が魂を四方に砕き、この国を守るべく、『四神竜』を守護に使わす…

 

   そうして『黄金色の竜』の身体が消え入ると、四つの珠が四方に散り、今でもこの国を『守護』してくださる『神』として、
      奉られているのです。

   そして、この王宮には、二度と『暗黒の竜』が、目覚めないように、王宮の『誰も入ることの出来ない地下』に封印されたのです―――

 

   しかしです・・・『暗黒の竜』は再び目覚め、暴れまわりました。

 

   四神竜も必死に戦いましたが、どんどん傷ついていきました。

 

   ―――彼らを助けたい!

 

      一人の巫女が、神に祈りました。

      

『神よ・・・本当にあなたがいるのでしたら。・・・この国を救ってください。

     

      私の命を引き換えにしてでも!』―――・・・・・・

 

 

「・・・って・・・その後どうなったんだっけな・・・? 四神竜が『黒竜』やっつけて、勝ったんだよな・・・? あれ? どうだっけ?」

 

 

青年は、キョトンしながら一人考え込む少女の自問に、僅かに笑みを零し、心の中で呟く。

 

 

 

 

―――(カガリ)・・・それは『金竜(きみ)』自身だよ・・・

 

   

 

四神竜(おれたち)』を助け、『金竜(きみ)自身(じしん)』が愛するこの国を守ったんだ・・・

 

  

 

   そう―――『金竜(カガリ)

 

 

 

   君こそこの国を…民を…想い導く、『真のこの国の女王』にふさわしく

 

 

そして―――『四神(おれ)(たち)』をも導いてくれた『(ドラゴン)女王(クイーン)』だったんだよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

青年は、そう心の中で呟きながら、目を細め、穏やかで包み込むようなう優しい眼差しを、外に向ける。

 

 

 

桜はその花びらを、惜しむことなく柔らかな風に乗せて、その一瞬の美しさを競うように舞い散る―――

 

 

 

 

―――そう、次の春がくれば、また桜は舞い散るだろう・・・

   

でも、この翡翠の瞳に、今、映る美しい桜は、このたった一瞬だけのもの…

 

『限られた命』だからこそ、その美しさ…愛しさが今ではハッキリと感じられる―――

 

 

 

誰よりも愛しい少女の膝の上で微笑みを零すと、青年は散りゆく桜の花びらを眺める。

 

 

 

 

 

―――この穏やかな…優しい時が、『命』のある限り、続きますように…

 

 

 

何時までも

 

   

 

 

 

何時までも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その過ぎゆく時の、一瞬一瞬を慈しむようにして、紺色の髪の青年は静かに瞼を閉じると、愛する人の傍で、この上ない安らかで幸せな眠りに落ちていった・・・。

 

 

 

 

 

 

・・・Fin

 

   

 

(♪ Image:『語り継ぐこと』/元 ちとせ)

                            『千年の孤独』/ EPO  )