トップ >一人歩き >古道を行く >木曾街道 春まだ浅き奈良井の宿

木曾街道 春まだ浅き「奈良井の宿」  


最近、信州がマイブーム。
心の洗濯をするには、打ってつけの場所のように思えます。
諏訪でイベントがあるからと言う友人達のお誘いがあったり、そしてまた滅多に見られなくなったという諏訪湖の氷結したところを見たかったけど、所用に紛れてバタバタとしているうちに、その時期を逃してしまった。
それでも、やはりちょっと出かけてみたい。

名古屋のホテルで寝過ごしてしまい、それでも気楽な一人旅ゆえ時間はたっぷりあると、私の乗ったのは、長野行きのワイドビュー特急「しなの」7号。

この時期の事だから今回は指定席を取ったけど、やはり大正解。
自由席車両の停まる位置はスキーを楽しむのであろう若い人達が沢山集まっていて、ひょっとしたに立ち席になっていたかも知れないような案配でした。

名古屋駅では朝ご飯のつもりでおにぎりを買って置いたけど、美味しいという評判を聞いて食べてみたかった駅構内のきしめんを朝ご飯代わりに啜りこむと、そそくさと列車に乗り込みました。

座席に座って人心地付くと、行き先をもう一度リサーチしようとリュックの中へ手を突っ込む。

ゲゲッ!
しまった!
地図付きのガイドブックを家に忘れてきたみたい。(ため息)

約一時間半ほど列車に揺られると、「木曽福島」に到着します。
ここで特急を降りて普通列車に乗り換えるのですが、次の普通列車が車では約一時間も待たなければいけない。

ホームから周りを見渡すとまだまだ雪がいっぱい残っていて、駅から見る町の様子はいかにも風情ありげで興味を引かれる。

列車から降りた数人の客はさっさと出口に向かってしまい、ホームに残されたのは私と学生らしい若い女の子だけになりました。

ガイドブックさえ持ってきていればちょっと辺りの散策もしてみたいが、私の一番恐れるのは「迷子」という二文字。
仕方ないから、この場ではおとなしくホームを行ったり来たりしながら時間をつぶしておりました。あ〜あ.。o○

手に提げていたペットボトルのお茶が空っぽになり、3本目のタバコをもみ消す頃になって、出口に通じる階段から姦しい話し声が聞こえてくる。
程なく5、6人のおばさん達が階段を上ってきた。

ん?
そろそろかな?
携帯に目にやるとアナログ時計が10時20分頃を指している。
ちょうど頃合いになったような。

ベンチの上に放り出してあったリュックを掴むと、「ワンマン」と書かれた立ち位置まで移動して、そこで列車の来るのを待つ事にしました。
名古屋方面行きのホームに立つと日差しがポカポカと射してきていて暖かいけれど、松本方面行きに立つと陰になっている上、風がやたらに寒い。
ジャケットの上までファスナーをしっかり上げて、両方の手でポケットのカイロを握りしめる。

駅のホームがどんどんにぎやかになり、それがピークに達した頃になってアナウンスの声が流れ、やっと普通列車が到着。
はぁ〜っ!
退屈だったぁ!

列車が止まっても、車両のドアが開かない。

あれ?

・・・・・・

あっ、そうか!

ドアの横にあるボタンを押してドアを開けると、やっと暖かいところへ入った気分。

「木曽福島」から4駅先に「奈良井」という小さな駅があります。

「奈良井」は中山道の「木曾十一宿」の一つに上げられ、中山道で古くから栄えた宿場町として
その町並みは大事に保存され、「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されています。
そしてまた、平沢と並んで木曾漆器の生産地としても良く知られており、旧宿場町からちょっと離れたところには、その作業所や材料になる木材の加工所があちらこちらに点在しております。

列車がホームに滑り込んでいき、それに合わせてドアの前に立ってもドアが開かない。
あっ、そうだった!
この路線では、自分で列車のドアの開け閉めをしなきゃいけないの。
面倒だけど、中の暖気が逃げなくて良いシステムですね。

自分で列車のドアを開けると、ちょっと重い目の引き戸を開けるような感触。

ホームに降りて周りを見回すと、ここで降りたのは私一人だけ。
テレビ番組の紀行物を自らが生でやってるようで、ちょっとばかり嬉しくなる。
欲を言えば、「カメラさん」「照明さん」「音声さん」がいれば・・・(笑)

遠くの方で金属のこすれ合うような音がする。
木曽川を挟んだ向こうの製材所で男の人が一人シャベルを使って雪かきをしているけど、その音はどうもそこから聞こえてきているらしい。
そろそろ溶け始めていた根雪が前夜の冷え込みで凍り付いてしまい、プラスチック製の雪かき道具では対処しきれなくなっているみたいでした。

ホームから陸橋を越えて駅舎に向かい、引き戸を開けて中に入ると改札がない。
チケットは上諏訪まで買っているので、そのまま外へ通じるドアを開けて駅舎をあとにしました。
とりあえず、次に来る列車の時間だけはチェック。

次は12時48分発?
これはちょっと慌ただしい。

じゃあ、その次の14時9分発のに間に合えばいいか・・・・・・・

実はこの時刻表、間違って名古屋行きのを見ていたんですよ。
これは大失敗でしたわ(涙)

「奈良井」駅を出て左を向くといきなりタイムトリップをしたような感覚に襲われます。

そこ、ここに時々停まっている軽自動車や軽トラックが、今が21世紀である事をかろうじて知らせていてくれるような。
何とも不思議なたたずまい。

街の中には人影はまったく見えず、そこに佇んでいると途中の曲がり角から「木枯らし紋次郎」でも歩いてきそうな・・・・

山間の小さな集落の中から聞こえてくるのは、「水場」の水がわき出すチョロチョロという音か、雪解け水が水路を流れる音のみでした。

こんなに静かな所って初めて!!

とりあえず、まずは端から端まで歩いてみる事にする。
中山道の中では大きな宿場町と言われているこの町も、ちょっと早足で歩くと15分もしないうちに一番端っこまで行ってしまいます。

「奈良井」の南端には「鎮神社」という大きなお宮があり、その前を行き過ぎていくと、鳥居峠という街道の中の一つの難所にさしかかります。

「鎮神社」はその昔、疫病に苦しむ奈良井の人々が下総香取神社より御身体を迎えて病を鎮めたことから、その名が起こったそうです。

鳥居峠の登り口に位置しているため、旅の道中の安全祈願に参詣する人も多かったようです。

ご神体は「フツヌシノミコト」で、知恵と疫病払いの神様として知られています。

鳥居の真っ正面の所に立ちはだかるように生えているのは、この神社のご神木であるとても大きな杉の大木でした。

中に入っていくと、雪が溶けてはまた凍り付くと言う事を何度も繰り返されているのか、境内は見事なアイスバーン状態。
少々のぬかるみならば平気で歩けるような靴を履いてきたけど、これにはお手上げ。
ツルツル滑って歩けない。
滑るのが怖くて雪の上を歩こうとすると、膝までズポッとはまり込んで、ここでも歩くのは無理。

スケート靴を持ってきた方がなんぼかマシか?
マジにそう思いました。
もしこのような季節にここを訪れるなら、アイゼンは必携と見て置いた方が良いかも知れません(笑)

奈良井の町並みを見て歩いていると、そこかしこから水の滴る音が聞こえてきます。
奈良井の宿場には、今でもこのような「水場」が保存会によって保存されています。
昔は薮原の宿から鳥居峠を越えてきた旅人が、この「水場」の水で喉を潤していたと言われています。

「鎮神社」に隣接しているこの「水場」の所には、「高札場」が往時のままに復元されています。
高札というと、時代劇などではお尋ね者の似顔絵が貼られていたり、領主や代官の御触書が貼られているのを想像してしまいがちですが、この高札場には中山道での人足の賃料が書き出されていたり、求人案内なども貼られていたそうです。





次ページへ