虹色戦記クリスティア―皓月の章―
〜たなぼた!? な未知なる遭遇2〜
期末テストだったので、いつもより帰宅時間は早い。しかし、春菜と夏生はすぐ家には帰らず、そんな時間を利用して、公園でくつろぐことにする。
 夏の公園は木陰のベンチが人気だ。小さな公園の片隅に、そんな優待ベンチがある。まだ時間が早いこともあって、公園に人影はなかった。2人は、真っ直ぐ目指した場所へと向かうことができた。
「どっこいしょ〜っと」
 思いきり気合を溜めて腰を下ろす春菜。
「オヤジくさいって」
 夏生は普通に座り、足を組む。
「なっちゃんも行儀悪いよ」
 パタパタと、セーラー服のすそを揺らし、顔をあおぐ春菜。
「下着見えるぞ」
 ハンカチを取りだし、額の汗を拭き取る夏生。
「な〜に気取ってんのよ。……大丈夫だもん、誰もいないし」
 といいつつ、一度周囲を改めてから、再開。
「ほー。誰もいなければ、ここで脱いでも平気ってか?」
 体を背もたれに預け、力を抜く。
「そんなこと言ってないもーん」
 ふと、その動作をやめる。
「そういえば、新しい水着買ったんだよね〜。今度、プール行かない?」
「お、いいねぇ。わたしも買ったんだ、新しいの」
 公園の脇を乗用車が走り抜けてゆく。
 ジトっとした空気が、2人の間を通りすぎていった。
 タイヤの音が聞こえなくなる頃、
「いつにしよっか?」
「夏休み入ってからだな」
 どこかで、クラクションの音が鳴っている。
 それが気に入らなかったのか、カラスの鳴き声も。
 遠くの学校のチャイムも聞こえてきた。
「じゃ〜……なっちゃんの誕生日。お祝いもかねて」
「おごり、ってことか?」
 公園の砂地にハトが舞い降りてくる。
 近くの小学生たちが、平穏を破るように遊具を揺らし始めた。
 そろそろ、公園にも人影が現れる時間になっていた。
「そんなこと言ってないもん」
「まぁ、どっちにしても……」
 2人と同じくらいの少女が、あたりを気にしながら歩いている。
 突然入ってきた自転車が、そのまま公園を通過していった。
 ハトが驚いて、どこかに行ってしまう。
「8月5日ってことでいいな?」
「おごらないからね」
「わかったって」
 張りのない会話をしながら、公園で動くモノをなんとなく目で追う。
「あたしが大金持ちになったら、いくらでもおごってあげる」
「どうやってだ?」
 夏生は、少し驚いたふうに隣の少女の顔を覗きこんだ。
 春菜は、なんとなく得意そうだ。
「どうやってって……なっちゃんの分も、あたしが払ってあげるって……」
「いや、そっちじゃないぞ、聞きたいのは」
 相手が冗談で言っているのなら、夏生も冗談で返したいところだ。が、彼女の顔を見ていると、冗談で言っていると思えなかった。長い付き合いだからこそだ。
 ベンチに座りなおす夏生。
「どうやって、大金持ちなんぞになるのかと聞いているのだよ」
 なんだか、へんな口調になってしまった。
 聞かれた春菜は、とても不思議そうな顔をしている。そんなことも解からないのか、というふうに。
「いーい? お金持ちになるには、みんながあたしにお金をくれるようしむければいいのよ」
 いきなり、無理難題を軽々しく口にする。
 そこで突っ込みたいところだったが、とりあえず話が終わるまで聞いてみようと、夏生は黙って幼馴染みを見つめた。
「お金をもらうには、みんなが尊敬するようなことをするしかないでしょ? つまり、あたしは世界を救えばいいわけよね」
 さらなる超難問が登場してきた。
「整理すると、世界が滅ぶような大事件が起きて、そんな時『あなたに力を与えます』的な人が現れて、あたしはスゴイ力を手に入れる。そして、世界を救ったあたしは、みんなから崇め奉られ、お金もガッポガッポと……」
 少し離れたところにいた少女が、こちらを不思議そうに眺めていた。
 春菜は、その後も自分がいかにして世界を救うのか、得意そうに話しつづける。
 なんというか……完全に他力本願な夢……そう、まさに夢だ。現実を生きているモノにとって、そのような計画を立てる人間は、唯一ここに一人いるだけだろう。春菜と付き合って以来、ここまでこの少女が哀れに見えたことはなかった。
「どう? 理解できた?」
 夏生は、なんと言っていいのかわからず、とりあえず首を横に振ってみた。
「えー、まだわかんないの? つまりー……」
「いやいや、もういいから」
 さらなる夢の続きを語ろうとする春菜を、制する。これ以上、周囲に恥をさらけだしてほしくなかったのだ。春菜を想ってというより、自分が恥ずかしい。
「あのさ」
 不満そうにしている春菜に、こう切り出した。
「そういうことは、自分の胸の内にしまっといたほうがいいと思う」
「なんで? マネする人が出るからとか?」
「いや……入院、したくないだろ?」
「???」
 両手を相手の肩に置き、瞳と瞳で伝えようとしたのだが、やはりこの少女には伝わらなかった。
 本気で首をかしげる春菜を見て、夏生は諦め、ベンチの正面へと向き直り……
「あのぉ……」
 目の前に、先ほどからこっちを見ていた少女が立っていた。
 長い金髪がユラユラと風に揺れ、白いワンピースは良いとこのお嬢様を思わせる。自分たちと同じくらいの年代であろうが、顔立ちが良く、もっと年上にも見える。
「なーに?」
 正直なところ、夏生は無視しようかと思っていた。さっきからずっと2人のやり取りを見ていたであろうこの少女。なにか面倒なことになりそうな予感がしたのだ。
 しかし、空気も何も読めない春菜は、なにげなく言葉を返してしまうのだ。
「えぇ、先ほどから、お2人の話をきいていまして……いえ、決して故意ではなく、偶然なのですが……少し、興味が湧いたので、こうしてお声がけさせていただいたんです」
 言葉がやたら丁寧だ。
 と、このセリフに、春菜が突然反応する。
「まさか! あたしの計画を邪魔しようとする悪の手先ね!?」
 スキだらけのファイティングポーズで、その少女を威嚇しにかかった。
 もう、好きにして。
 夏生は、深くため息をつき、うなだれてしまった。
「いえいえ、違うんです」
 この少女も素直というか、春菜の奇想天外なセリフに対し、両手を振ってアピールしている。もしかして、この子も同類なのでは……?
「実はですね……」
 両手を前であわせ、かしこまって、
「その気があるのでしたら、あなたに力を与えます。その代わり、手を貸していただきたいのですが……」
「……………………」
「……………………」
 しばし、公園ではしゃぐ園児たちの声だけしか聞こえなかった。
 ただ、同じ沈黙でも、2人の表情は明らかに違っている。
「き…………きたぁぁぁぁぁ! ついに! ついに、この時が来たのよ! あたしはこれから、世界のヒーローになるわ!! 見ていてね、お星様! あたしは、きっと世界征服をなしとげます!」
 目的が変わってるぞ、と突っ込むこともできずに、夏生は呆然と歓喜の幼馴染みをみつめていた。
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