虹色戦記クリスティア―皓月の章―
〜たなぼた!? な未知なる遭遇1〜
地獄が終わった。
 太陽がうっとうしく思う、7月の帰り道。ただ、少女の心だけは、いつもより晴れ晴れしている。
 鼻歌まじりに歩くその少女は、時折スキップを見せながら、防波堤の道を楽しそうに歩いている。
「そんなに楽しいか?」
「もちろん。テストから開放されて、こんな楽しいことはないわ!」
 隣を歩いていたもう1人の少女に尋ねられ、正直な想いを口にする。
「そういうなっちゃんこそ、そうなんじゃないの?」
「気楽になったことは否定しないが、春菜(はるな)ほど浮かれはしないな」
 答えて、楽しい気分に水をさす現実を、いたずらっぽく続けた。
「でも、テストは夏休み前に返ってくるぞ〜ぉ」
「いわないで〜……」
 青菜に塩のごとく、一転して暗〜い気分に支配される。さわやかに感じていた空気が、急に蒸し暑くなったようにも感じた。自分の真っ白の答案用紙のことを思うと、気がめいってくる。
「昨日の晩、流れ星にお願いしたのに……流れ星のバカー!」
 梅雨の雲が残る青い空に向かってそんなこと叫ばれても、流れ星だって困ってしまう。
 人目もはばからず、小さい子供のようなコトをする友達に呆れながら、
「少しは勉強しろよ、受験生」
 ポンポンと肩を叩いて、そんな言葉を贈った。
「なっちゃんだって、してないじゃん」
 ムッとしたように、薄情な幼馴染み――夏生(なつき)に鋭い視線を送る春菜。自分は確かに宿題提出率史上最低を自負しているが、視線で捉えた少女のほうこそ出席率が圧倒的最下位というサボリ常習犯である。自分だけ責められるのは納得いかない。
「わたしは、ちゃんとテストで結果を出してるからいーのだ」
 こんな調子なのに、5教科の総得点で、400点以上をキープしているのが不思議である。
「絶対、カンニングしてるでしょー!」
「人聞きの悪い。単に頭の出来が、春菜と違うだけだね」
「ムッキー!」
 お互いに言いたいことはいろいろあるだろうが、端から見れば目くそ鼻くそ。どちらもある意味問題児なのは違いがない。
「でも、あたしはなっちゃんには出来ないモノを持ってるもんね」
「へぇ〜、そんなモノがあったとは驚きだね」
 得意そうな春菜に対し、大げさに驚いてみせる夏生。もう、春菜が言おうとしてることが解っているみたいだ。
「あるのよ。それはね……皆勤賞よ!」
「なんとかは風邪ひかないっていう、アレだな!」
「そう! だからあたしは皆勤……あれ?」
 間髪いれずに突っ込まれた勢いで話しつづけたが、何かがひっかかる。春菜は、今の夏生のセリフを頭の中で反復してみる。
「なんとか、は、風邪……あぁ! ちょっと、どーゆー意味よ、なっちゃん!」
「言葉通りの意味」
 かなり遅い春奈の反応は、まさにその意味を証明しているかのようだった。
 そして、さらにそれを彷彿とさせる春奈のセリフが続く。
「なんとか、とは何よ! ちゃんと名前を呼んでよね!」
「……………………」
 いい加減、長い付き合いだから慣れたものの、もう少し言葉を理解しようとはできないものだろうか?
 こんな春菜を見ていると、彼女の将来が心配になる以上に、自分はまだまだ大丈夫だという自信がわいてくるから不思議なものだ。
 そんな、いつも通りの平凡な生活の一場面――

 柳原春菜(やなぎはら はるな)、15歳。
 不知火夏生(しらぬい なつき)、もうすぐ15歳。
 2人は幼稚園時代からの付き合いだ。
★>>>>>Next Paragraphたなぼた!? な未知なる遭遇2

[虹色戦記クリスティア]選択へ→
[月の小部屋]TOPへ→