聖幽戯館〜自然と人間3〜
あの後、しばらくの間かくれんぼを続け、夕方になりが散歩に出るところでお開きとなった。
 あたりは、もうちょっとやりたそうにしていたが、暗くなると美樹では危ないということもあった。
 評判は悪くなかった。
『またやりましょう』を挨拶に、母神たちはいつも通りの活動に戻っていった。
 今、美樹は一人である。
 庭の枯草からのぞく石の上に腰掛け、両手で頬杖を作り地面を見つめている。
 何度目かの聖幽戯館での夜は、1つのプレッシャーを背負ってしまった。
 今まで、に母神の意識改革を頼まれてから、多少意図的なところもあったが自然体でやってこれた。母神たちのフレンドリーな性格も手伝っただろう。美樹も、ここでの生活が楽しく思えてきた頃だったのだが……。
「中途半端は許さない」
 その一言が、自分に与えられた使命の大きさを、改めて認識するキッカケとなっていた。
 は、美樹を試しているのだろう。しっかりやれば認めるが、いい加減なことをすれば…………。
 思わず自分の最期を想像してしまい、ブンブンと激しく首をゆすり振り払う。
 は無理しなくてもいいと言っていた。けど、このままの調子で、を納得させられるのかどうか自信がない。
 とにかく、人間のしてきたことをに謝ろうかと思ったのだが……人間のしてきたことは、美樹自身の問題じゃないとに言われてからというもの、人間と母神の関係を第三者目線で見ている自分に気付いた。
 人間のしてきたことを美樹が謝るというのは、国が犯した行為をなんの変哲もない一市民があやまるようなもの、だと。
 なら、どうするか。
 自分が、これまで聖幽戯館で学んだことを踏まえた思いを、そのまま伝えるしかない。
 に気を使って話すのではなく、自分が思っていることをそのまま。
 が言っていた『自然体』とは、このことだったんじゃないかと、今感じた。
「よし……ちゃんが帰ってきたら、思いきって話そう、うん!」
「…………何を?」
 ビクゥ!
 いつも2時間ほど散歩してくるが、もう帰ってきた。
「え、いや、その…………早かったね〜」
 心構えをしかけた時に相手が現れては、せっかくの決意もしぼんでしまう。不自然に取り繕うしかなかった。
「私は、いつも通り。もう8時になっている。美樹こそ、ずっとそこで座っていたの?」
「えぇ……もう8時なのかぁ……」
 聖幽戯館に来て、あまり時間を気にしなくなっていた。なにせ時計がないのだから。携帯も電池をなるべく消費しないよう、電源を切ったままで時計も見ていない。
 それでも、およその時間感覚はあると思っていたのだが……
 がでかけてから考えをまとめていたのだが、真剣な割に回転が遅かったせいで、2時間という時間があっという間にすぎていたのだった。
「それで、何を話すつもりだったんですか?」
「え、えーとね…………」
 ダメだ。
 さっきの動揺が尾を引いて、言葉が出てこない。
 これは時を改めたほうがよさそうだ。
「……………………」
「……………………?」
 小首をかしげる仕草が、なんとも可愛い。
 こんな可愛い姿をしているのに、管理してるのは魂とは……
「あ、そうだ!」
 それで思いついた。ひとまず、これで場をしのごう。
「ね、ちゃん。魂を集めるところ、見せてもらってもいい?」
「いいですが……美樹は、そういうものが苦手と言っていたはず」
 そう、美樹は幽霊の類は苦手だ。少なくともそう思っている。
「そうなんだけどね……よく考えたら、実際に会ったことないんだ。話に聞いて怖いなって思ってただけだし……」
 照れたように耳の上を指でかく。
 は、その動きを目で追っていた。
「…………いいですよ」
 なぜか少し言葉につまった。
「夜中だよね? 起きてたほうがいいかなぁ」
「時間になったら起こします。いつも通り寝ていてかまわない」
「そう…………」
(ホントは見てほしくないのかな?)
 そう思わせる対応、そして、気持ちを感じた。
 しかし、今まで理論に基づいた行動を取る母神を見てきた美樹は、自分をなるべく休ませようとするの配慮と理解した。
 少し肌寒い風が二人の頬をなでた。
「そろそろ中に入りましょう」
 言うが早いか、扉へと歩き出す
「うん、ずっと外にいて体が冷えちゃった」
 その偉大で小さな背中を追いかける美樹。
 聖幽戯館の蒼い光は、互いに想いが伝わるよう、いつまでも二人を照らしつづけていた……
〜自然と人間2〜Last Paragraph<<<<<★

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