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"Grande Merlot" nel Campo di Vernaccia"(ヴェルナッチャの里の偉大なるロッソ)

"Gisele`97"

”ヴィンテージ‘97”に於ける評価
ガンベロ・ロッソ誌 ★★★
ヴェロネッリ誌 91/100



"ジセラ夫人"


"「ジセル」が眠るバリック"


”ヴェルナッチャのテイスティング”


”一面に広がるワイン・ヤード


”ヴィンニャの向こうのサン・ジミニャーノ”

                             Gisele`97
                                (ジセル)


      LA RAMPA DI FUGNANO(ラ・ランパ・ディ・フニャーノ)
     Harbert e Gisela Ehlenbold(ハーバート、ジセラ・エレンボルド)
                   Loc,Fugnano 53037 San Gimignano(Siena)
                       Tel/Fax:+39(0)577−941655



 ヴェルナッチャの里の偉大なるロッソ

 イタリアはトスカーナ、十数本の塔が高々と聳える、芸術と観光の中世都市、San Gimignano(サン・ジミニャーノ)が誇るDOCGワイン「Vernaccia di San Gimignano(ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ)」。1966年にイタリアで最初にDOC制定された、古典イタリア原産品種「ヴェルナッチャ」による、特徴的なナッツの香りと爽やかなテイストが多くのファンを虜にしている白ワインであり、2年の樽内熟成を要する「Riserva(リセルヴァ)」の良いものになると、下手な赤ワインに負けぬポテンシャルとコクをも漂わす。

 かの現代イタリア語の父ダンテ・アリギエーリがこよなく愛していたとも云われ、「ソアーヴェ」や「ガヴィ」のように、世界に最も知られているイタリアの白ワインのひとつとして、その栄華を誇るワインである。

 そんな、銘ワイン産地「サン・ジミニャーノ」において、あの有名なイタリア・ワイン・ガイド誌「ガンベロ・ロッソ」の「2000年度」版が、この地区最初の記念すべき「3ビッキエ―リ・ワイン」に、2本の赤ワインを掲げたことは、本国イタリアにおいてもそれはそれはビック・ニュースとして流れた。

 「97年」という、稀に見る当たり年にゆえに起こり得た「大収穫」の功績であるのも事実とは言え、確実にそのレヴェルを上げている大地に生まれた2本のワイン、「Vincenzo Cesani(ヴィンチェンゾ・チェーザニ)」氏の、サンジョベーゼ、コロリーノ種による「LUENZO(ルエンツオ)`97」、そして、今回ご紹介する「La Rampa di Fugnano(ラ・ランパ・ディ・フニャーノ)」ワイナリーのスーパー・メルロー種「GISELE(ジセル)`97」が世に放ったセンセーショナルなそのデビューは、正にトスカーナの赤ワイン史に刻まれる錚々たるものであった。

 1980年代後半、コンピューター販売をしていたハーバート史と、私立学熟の経営を行っていたジセラ女史のアレンボルド夫妻(スイス人)は、すっかり成長した二人の子育てから開放された余暇に、かねてからの念願であったワイン生産を手掛ける試みを胸に抱く。毎年休暇に訪れていたという、この美しき中世都市「サン・ジミニャーノ」のとある経営不振のワイナリーを購入したのが1990年。始めは軽い気持ちで、母国での生活は続けながら、運営やその生産などは現地の人に任せて行うつもりであったと語る夫妻だが、その意志に反して、良い人材の確保に手惑うこととなり、度々足を運び続けてなければならずにいた90年代初頭、「それなら何で、我々で全てやってしまわないのか」との決断に至り、スイスでの全てを切り捨てて、自らワイン生産に投じる田舎生活に明け暮れることとなる。

 「全てが新しい出来事、そして勉強であった」と、語るハーバート氏だが、それまでに経験のなく辛い「畑作業」がやればやるほど「面白い」ものへと変わってゆき、毎年収穫後の自作ワインを味わう度に、「漠然」としていた願望が「手中にある夢」への育ってゆくのを目のあたりに見たという。

 「自分達で造るからには、自分達の望むワインを造りたい」との意志から、当時流行っていた「ブレンド」をさけ、ヴェルナッチャ、サンジョベーゼ、メルロー、トレッビアーノ種の各種を単独醸造し、援助的な協力を惜しまぬ「エノロゴ・グループ(醸造技術者)」に恵まれたこともあってか、次第にその評価を上げつつあったさなかに生まれた一本のメルロー種ワイン「GISELE(ジセル)`97」。

 その低く保たれた収穫量からなる、コンパクトに仕上がった集中力が見事で、比較的香りの薄いメルロー種にありながら、立ち込める気品の趣きはまさに驚き。その濃く締まった黒い色合いから滲み出す熟したフルーツの甘さとスパイス香のアンサンブルは、降り注ぐ太陽の日差しと良質の新材バリック(小樽)の絶妙なマッチを魅せつけ、そして、消えゆくことを知らずに広がり続ける長い長い余韻が語りつけるものは、完璧にまとまった発酵作業と「母なる」素材の賜物。

 比較的「無名」であったワイナリーが突然放ったワインにしてはあまりにも「凄い」一本。「ガンベロ・ロッソ誌」のみならず、「ヴェロネッリ誌」「ワイン・スペクター誌」などにおいても、最上級の評価を与えられ、現在、イタリア全土に生まれつつあるその他「スーパー・メルロー」、オルネッライアの「マッセート」やトゥア・リタの「レディガッフィ」などに引けを取らぬ、いや、それどころか、"97"においては、おそらく最高のものであろう、「爆発的な美味さ」を誇る台地の恵み「GISELE(ジセル)」。一躍、とある小さなワイナリー「La Rampa di Fugnano(ラ・ランパ・ディ・フニャーノ)」を、トスカーナを代表するスター・ワイナリーへと押し上げる形に至るのである。

 セカンド・ワインとも言えるサンジョベーゼ種の赤ワイン「Bombereto(ボンべレート)」や、ヴェルナッチャ「Alata(アラータ)」、そのリセルヴァ「Privato(プリヴァート)」など、充実した内容の白ワインも手堅く纏まっていて、やはりスイス人の有名内面派画家「フレイ・バルデッガー女史がデザインを担当した素敵なラベル達も見事な演出。

 「品質にこだわりながらも、この愛しきサン・ジミニャーノの大地を守っていきたい。」と語る、もはやすっかり「イタリア」に馴染んだ感のあるジセラ女史の言葉通り、現在は「無農薬栽培」へと移行しつつもある、彼らのヴィンニャ(葡萄の苗)達。近くに市街の中世塔を眺め艶やかに下りつける勾配に、ヴェルナッチャのヴィンニャがざわめいている。森を抜ければ、目前に悠々と現れる重要観光都市「サン・ジミニャーノ」を饗楽する世界各国からの人々が、6月の暑い日差しの中に戯れているその姿が陽炎の中に浮き上がるかと思えば、華やかな人並みの中に高々に木霊する笑い声や喧騒が、小鳥のさえずりのごとく街を包み込み、そして彩っている。

 とある街の詩人のひとことが頭に蘇る。

 「Quel suono che percepi nel vento trascorrevole e la tua voce.(素早く掻き消えてゆく風の中に聞こえてくる物音は君自身の声なのさ)」

 分かるような気がする。そういえば、彼もこの美しくも尊大な芸術の街「サン・ジミニャーノ」に惹かれて住み着くこととなった多くの外国人アーティストの一人なのである。そして彼らが造り上げる作品の数々は、まるで空へ飛び上がってゆくかのように自由奔放で、自然の色合いに暖かさが浮きにじむ「情緒」が描き出す魅惑の世界。きっとこの街にはあるのだろう。人を惹き付け、そして離さない「魔力」めいた何かが・・・。

 あたり一面に咲き誇るラベンダーの花々が何かもの惜しげに風に揺れる姿が印象的であった。  


ヴィンテージ\ガイド・ブック ガンベロ・ロッソ誌 ヴェロネッリ誌 エスプレッソ誌
IGT ジセル‘1999 ★★ ★★(90/100) 17/20(20位)
IGT ボンベレート‘1999 ★★ ★★(88/100) 14/20
DOCG アラータ‘2000 ★★(86/100) 12,5/20
DOCG プリヴァート‘1999 - 15,5/20

            ”グルメ・ジャーナル、2001年10月号”掲載

                    2001年6月17日 土居 昇用