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  Raccolto(収穫)

    「葡萄6年、オリーヴ12年」

 それぞれの新苗が、実を生す為に必要とされる年月を表す、農作業者の口からよくこぼれる、一種の口癖です。実際のところ、葡萄は3年、オリーヴは4-5年ほどからそれなりの実を生すものですが、生来のあるべきパワーを十分に引き出すためには、ほぼこの口癖とおりの期間を必要とするものですので、まんざら大げさではないという事になります。
 さて、そんな葡萄の成すワインについて語るとき、25−50歳の樹齢を持つ長寿の木々から収穫される時には、やはりそれだけの年輪が誇る”熟した生産力”みたいな物を祀り上げるために、「Vigna di 50 anni」といった、謳い文句がついて回ったりするものです。ところが一方、話をオリーヴに切り替えてみると、平気で数世代、時には数世紀を乗り越える木々たちの存在が見受けられるため、一切の謳い文句が必要とされていないみたいです。
 そんな風に、ゆっくりと、そして何処までも成長してゆくオリーヴの木々が世代から世代へと語り続けているものとは何でしょう。伝統の美の継承でしょうか、あるいは、失われべからぬ伝説からなるオトギ話かもしれません。でも、おそらくそれはもっと、基本的なもの、つまり、血の中に流れ続ける魂めいた”愛情”なのでしょう。

 決して、良質のオリーヴ・オイルを造りだすのに、年期が一番大事な要素と言っているわけではありません。地質と品種、栽培方針の正しい選択、理想的な気候、天候等など、様々な要因がありますが、やはり一番大事なことは、収穫、そして搾油でしょう。
 まず、正しい収穫量を決める暫定作業が、晩冬の間に行われます。葡萄と同じで、一本の木が生み出すパワー(当然、木が大きくなれば比率は上がりますが)というものはおおよそ決まっていて、例えば全く暫定作業を行わずボウボウに生い茂る全ての実(1000と想定しましょう)を搾油したものと、暫定によって生る実の数を制限したもの(250と想定)を搾油したものでは、250/1000,つまり4倍の濃縮度の差があるわけで、理論的には、前者は後者を4倍に薄めた味気のないものに仕上がるということになり、これが一般に言われる”収穫量を下げる”理由になります。

 そして、収穫の時期ですが、品種、又はその年の天候によって変わってきます。しかしこの場合、最も収穫時期の変化を生み出すものは、そのオイルの地方性であって、つまりどういうオイルを生産しているのかという”目的”によるところが大きいと言えるでしょう。もう少し根を下げて説明してみると、オリーヴの熟し方が地方によって違うというのではなく、収穫を行う時期、言い換えて見れば、どれだけの熟成段階で摘み取りをするかが違ってくるということです。一番解り易い例が、有名な”トスカーナ”と”リグーリア”のものの差で、まさに両極とも言える対照的な違いのため、よく引き合いに出されます。深くエメラルドに光輝き、弾けんばかりの芳香がその鮮烈な印象をいっそう引き立てる、トスカーナ(シエナーアレッツオ)のオイルは典型的な早摘みタイプで、フレッシュ感が漂い、まだ熟しきっていず、酸味の抑えられた(0.5%)実が手でもぎ取られ摘まれるのに対して、薄い色と淡白な味、香りが、調理される素材の味を引き立てると有名な、リグーリアのオイルは、すっかり熟しきって自然落下するのを、地に張り巡らされたネットで受け止める(あくまで伝統的方法で、変わりつつありますが)、比較的酸味の高い(0.8%)ものです。このように、その地方性による”方向性”の違いが、収穫時期の違いを生み出していると言えるのです。
 さて、収穫について、大分話を進めましたが、ここで最も重要な作業、収穫、搾油間の連携について述べないわけにはいきません。基本的にオリーヴの実というものは葡萄の実同様、木について熟していく過程の中でも酸化してゆくものですが、収穫後はその酸化のスピードが倍増します。故に、せっかくよい品質のオリーヴを収穫しても、麻袋の中に積み込まれ、搾油するまでに数日以上経ってしまうと、まず、酸味が増す事により、”エキストラ・ヴェルジネ”の最大酸味規定(1%未満)を超えてしまう危険性があり、尚且つ、実が痛むことによる不快な悪臭を残ってしまうがために、廃却せざるを得ないハメになる可能性すらあるものなのです。そこで、理想的には収穫後24時間以内、最大でも48時間以内には、次なる搾油過程に移さなければならないということになるため、収穫、そして実の積み込み作業を迅速に行う為の人件費(手摘みなら尚更)が莫大な出資になってしまうという問題があり、付け加えて、ワインと違い業者に委ねるケースの多いオイル搾油、只でさえ数少ないフラントイオ(搾油所)には、近所、つまり同地域である為に同じ時期に収穫を行う人達の果てしない順番待ちの列が出来てしまうこととなり、それはそれは混沌としたカオスを生み出してしまうものなのです。、こうして、良質のオリーヴ・オイルを造るのに必要とされる根気、体力、経費といったものの度合いが計り知れぬものであるために、最上のオリーヴ・オイルというものは、それなりの価格を背負う価値と必要性があるのです。