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 2 章  〜新たなる旅立ち〜
 ヴェスターランド世界が平和友好条約の成立とともに平和への新たなる一歩を踏み出した日の次の日。全世界は聖フラート自由都市同盟を実質支配するフラート救世聖教の総大主教が世紀末の3999年に起こる世界の破滅を救う救世主の魂を召喚する光の儀式に成功したという途方もない宣伝を聞かされる事になった。
 この宣伝には続きがあり、救世主を世界に遣わしたフラート救世聖教こそこの世に平和と地上天国を実現するものであり。ヴェスターランド全てを精神的に支配するものとしてフラート救世聖教の総大主教こそ真の支配者であり守護者であるとして、以後法王となることを宣言したのである。
 この宣言に対して聖フラート自由都市同盟の民とヴェスターランド世界の一部の民は狂喜したものの、ヴェスターランド世界を実質的に支配する「ブレードニア帝国」・「ファーイース群島国家連合」・「シード・ハイランド連合王国」・「ノーザン・ハイランド共和国」・「聖ホワイトタイガー連合騎士団」・「フォーリア自由諸侯連合」・「バーラト共和国連邦」やその他の貴族諸侯、さらには三大魔法教団と四聖教すら体よく黙殺したのであった。
 ただ、フラート救世教の言う光の儀式の現象自体は広く目撃されていたために、フラート救世教の宣伝を鵜呑みにはしないまでも、何らかの業績を残す英雄がどこかに現れるのであろうという期待がヴェスターランド世界にじわじわと広がっていったのは事実であった。色々な意味でさまざまな人々にとっても、新たなる旅立ちの始まりの年が鼓動を早めはじめた。
  
グローリーブ

 ラグナロック島唯一の都市グローリーブは、島中央部の大きく逆Vの字に切り込まれた湾の東部の海岸に、港湾地区と少し小高い丘にある大聖堂を中心とした地区と商業地区及びヴェスターランドに存在するほとんどの国の騎士団の分団もしくは外交使節の駐在する地区と、一般市民の居住する地区の合計5つの地区から構成されている。
 グローリーブの大きな特徴は中立地帯であり、太平洋のほぼ中心に位置するために交易の重要な中継地であることである。グローリーブの統治権は古代より、聖エクセア教団の枢機卿の1人がヴェスターランドに存在する全ての国と貴族諸侯の総代理者たる高等弁務官として派遣される慣例から、高等弁務官が持っている。
 中立地帯という特殊な場所であるのと、自由な商業活動の中心地ということもあり。港湾地区と商業地区と一般市民の居住する地区の三つには自治組織があり。高等弁務官行政府の統治の下で比較的自由な社会制度となっている。
 ただし、治安の維持には中立地帯ということで各国が気を配っており。治安維持の警察組織としてグローリーブ聖堂騎士団が各国の軍や騎士団から選抜されて組織され、非常に厳しい規律ただしい集団として知られている。
 ラグナロック島は古代人の遺跡と上級試練の洞窟カーリアスのある西島地区、グローリーブと上級試練の洞窟のリナーク及びフューリエンと遺跡の洞窟群がある東島地区と北の入り江の二つと東の入り江の二つの計四つの小島からなる。北半球と南半球を分ける赤道のほぼ中央に位置するために、気候としては常夏であるが、海面から比較的高い台地状の地形であり、高山もあるために、一日で春夏秋冬の四季が体験できる場所でもある。特に東島地区でも、氷の洞窟フューリエンのある高山地帯は常夏の島であるはずのラグナロック島でも特に寒く、大地は永久凍土になっている。

 「グローリーブへようこそ、クルセイダーズよ」
 「聖下、お久しぶりでございます」
 グローリーブの港が遠望される、ここグローリーブ大聖堂の正面に広がる高等弁務官府の重厚な建物がある広場では、高等弁務官ヨハネス・バウロズ枢機卿が、シード・ハイランド連合王国からの国費による公式の証の巡礼団、通称クルセイダーズ(栄光の巡礼騎士団)を出迎えていた。
 グローリーブ大聖堂は、グローリーブの港からややリナーク寄りの通称、神々の聖なる噴水(サンファウンテン)と呼ばれる小高く平らな丘の上に古代のはじめ頃に建造され、幾度かの大改修をほどこされ現代に至っている。グローリーブ大聖堂は、神々の聖なる庭と呼ばれる600ノール(600メートル)四方の絶対中立の聖域の中心に1辺約100ノールの正八角形をした形の大聖堂である。ちなみに神々の庭でケンカ沙汰に及んだ場合は、身分と理由を問わず双方共に死罪という厳しい掟がある。
 今回のシード・ハイランド連合王国のクルセイダーズの団長ジークフリード千騎長と高等弁務官ヨハネス・バウロズ枢機卿の交わす挨拶と引き続き行われている儀礼交換を見ながら王太子付き騎士見習のチール・リンデンバウムが双子の兄弟の同じく王太子付き騎士見習のトール・リンデンバウムにささやく
「大聖堂って、タートルロックみたいだね」
「そうだね、イル兄とたんけんしてみようよ」
耳ざとく聞きつけた双子のお目付け役でもある、先日の叙勲の儀で上級騎士となったトキ・サザージュが
「お2人とも王太子殿下に対しておそれ多くもイル兄とは何事か、証の巡礼とはいえ宿題はきっちり片付けていただきますぞ」
と双子の肩を抱きかかえるようにして耳元で静かに力強くささやく。
『ううっ…いたんだよお、かてーきょーしっ』
『はううっ…きかれちゃったよお』
内心の叫びと共にしおれる双子であった。
 双子の内心の嘆きはともあれ儀礼交換が進み、広場の外には大規模なクルセイダーズを一目見ようと黒山の人だかりができている。やはり人々の関心は今回のシード・ハイランド連合王国クルセイダーズの団長である、トライスターのジークフリード千騎長に集中している。
「あれが銀髪のジークだよ」
「やっぱり迫力がちがう」
「しきたりとはいえ、トライスターそれもダイヤモンドトライスターなのに上級騎士のままというのは惜しいのう」
年老いた商人風の男が感慨深げに言うと
「そうでもなかろう、アルペンハイムラント君主で跡取のいないリッテンハイム侯爵だの帝国のムンディアルグ公爵だのが養子や娘婿として狙っとるそうだからな」
と別の中年の商人がさもありなんという風に口を出す。
「ほーっ、ムンディアルグ公爵って顔の不自由な嫁かず後家の長女と三女がいることで有名な殿様かよ」
と貴族を揶揄する事を喜びとしている吟遊詩人風の男が茶々を入れると、さらに別の若い吟遊詩人の派手なファッションの男が
「美女の次女は証が立てられないってんで勘当したらよ」
とおどけて言うと、遊び人風の青年が
「ああ、もう17年くらいになるかな、聖女ジークヒルデの奇跡だからな、ムンディアルグ公爵もさぞかし、しまったと思ってるだろうな」
と冷笑交じりに続ける。
「おいっ、そういえばあそこでガキ2人抱え込んでる美少年ってそうだろ」
目ざとく双子を抱え込んでいるトキ・サザージュを見つけた若い吟遊詩人風の男が指差すと
「まちがいない、美形で名高い帝国の名門貴族だったサザージュ伯爵の孫だろ、人形みたいな顔してるぜ、流石に血は争えないな」
と吟遊詩人風の男が感嘆の声をあげる。
そのとき双子を抱え込んでいるトキ・サザージュに向かって白い儀礼用の甲冑を身にまとった若い騎士が近づいて声をかけはじめる。
「おやっ、あれは最近千騎長になったばかりのモードキア伯爵の三男じゃないか、しかもクリエイト勲章まで授与されたっていうじゃないか」
ファインの姿を認めた中年の商人が驚いたように言うと
「クリエイト勲章って、新たな家を興すことを許可する大勲章じゃねーかよ」
と若い吟遊詩人の派手なファッションの男が大声を出す。
「若いのに千騎長とは大したもんだが、クリエイト勲章までもらってるのか。先が楽しみといか末恐ろしいというのか…流石にモードキア伯爵の血筋だけのことはあるのう」
と年老いた商人風の男がファインを感嘆のまなざしで見つめる。
「こっちも血は争えねーか、じいさんのヒオ公爵といえば、シード・ハイランド一、今年92歳だってのに下手すりゃヴェスターランドで一、二を争う剣の使い手っちゅう化けモンだからな」
「銀髪のジークの師匠だしな」
「くわばら、くわばら」
下々の口さがない噂話の輪は広がる事はあっても、なかなか収まらないようである。
   
  
叙任式

 シード・ハイランド連合王国の王都ヘックスの中央に聳えるヘックスホースシュー城の正面にある、城とほぼ同じ大きさを誇る六角形のアトラスコロッセオ(栄光の競技場)と呼ばれる堅牢な石造りの野外スタジアムでは、春分祭の出陣の儀のあった次の日の恒例の春の叙勲の儀が行われていた。
 ヴェスターランドにおいて、大国や小国または貴族諸侯を問わず、その領域内の住人または部下から試練の洞窟の証を得て公認された者を騎士に叙任したり。勲功ある者を褒賞する儀式が年一回から数回行われることが通例となっており。各国の国威発揚とミエを張るイベントともなっている。
 特にシード・ハイランド連合王国の場合は、国王が幻獣王であることが広く知られており、年一度の春分祭の出陣の儀の幻獣達の行進を見ようとする見物客が他国からも多数訪れる事もあり。近隣の貴族諸侯が部下自慢のお披露目を多くの人間の前でしたいというミエ張りの格好の舞台であるゆえに、この日はシード・ハイランド連合王国の叙勲と叙任式だけではなく。毎度の事ながら、30以上の近隣の独立貴族諸侯と騎士団の叙任の儀式が合同で行われるという盛大なイベントになっている。
 くわえて中世には当時のヴェスターランドの覇者ローディア帝国すら幻獣王に敬意を表し。春の叙勲の儀にあわせて帝国貴族と騎士の叙任と褒賞をアトラスコロッセオ(栄光の競技場)で共同で行ったほどである。それだけにシード・ハイランド連合王国のアトラスコロッセオで叙されることは権威があり、貴族と騎士達の憧れになっている。
 ヴァスター暦3993年の春分祭の春の叙勲の儀は平和友好条約の締結がブレードニア帝国首都で行われている事もあり、例年に比べてシード・ハイランド連合王国以外の貴族諸侯の参加が少なくなっているものの、代理の貴族や騎士の数がいつになく多く。一般庶民の見物客も戦乱が遠のいた事もあり。ヴェスターランド中から集まり、収容人員の10万人を大幅に越える12万人を超えて身動きがままならぬほどの盛況である。
 早朝から貴族達と幻獣の立会いのための入場行進があり。アトラスコロッセオ(栄光の競技場)中央に叙勲台と忠誠石が据え付けられ叙勲の儀が始められる。昼前までに20を越える国と騎士団の100名近い叙勲が進行し、叙勲の儀も終盤を迎え始める。
「聖ローエングラム騎士団、騎士見習フォルケン・サージェス・バルトハウザー、16歳の成人の日の騎士の聖なるイニシェーションのファイヤーエンブレムの儀を通過により、卿を下級騎士に叙するものとする」
聖ローエングラム騎士団聖騎士長ウェンツ・キルヒアイス上級聖騎士の通りのよいテノールが響くと、続いてベルナジッド供奉卿の重厚な声が 
「フォルケン・サージェス・バルトハウザー下級騎士、忠誠石の前へ出でよ」
と名前を呼ばわる。やや緊張の趣で16歳のフォルケン・サージェス・バルトハウザー下級騎士が幻獣王であるイークオ12世を中心に居並ぶ30あまりの国と騎士団の長と貴族諸侯達及び騎士達の前に進み出。忠誠石と呼ばれる、台形状の黒い御影石の前でひざまずく。少し離れた場所には立会いをする幻獣の代表としてホワイトエレファント数頭とキングドワーフが叙勲の儀の様子を見守っている。
 そして型どおりであるがフォルケン・サージェス・バルトハウザー下級騎士が宣誓をすると
王太子イルヒアイス24世が叙任の宝剣プラチナグラディオスソードを掲げて進み出る。そして聖ローエングラム騎士団総長ダン・ブランシュ男爵に手渡す。手馴れた見事な剣さばきで拔剣すると、叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをフォルケン・サージェス・バルトハウザー下級騎士の右肩に軽く当てると
「そなたの忠誠の証をしかと聞き届け、今フォルケン・サージェス・バルトハウザーの下級騎士叙任を宣言するものとする」
と高らかに宣言すると叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをさやに収めて王太子イルヒアイス24世に差し戻す。
続いて
「トリスタンハイムラントはコニャック村のバーガンディ荘園長が長女、ミッシェル・レイモンドール。貴女の三つの準公認の洞窟の証の公認を認め、下級騎士貴婦人の称号を授与し、レイモンドール家より独立せしめ、ミッシェル下級騎士夫人の名乗りを許すものとする。さらにフォイエルバッハ伯爵家リバーレインボー城のロワールの間詰の資格を与え、年額300Gの給金を下賜するものとする」
とフォイエルバッハ家に仕える重臣アデレード准男爵が下級騎士貴婦人の叙任証書を宣告する。
続いてベルナジッド供奉卿の重厚な声が 
「ミッシェル下級騎士夫人、忠誠石の前へ出でよ」
と名前を呼ばわる。18歳のミッシェル下級騎士夫人が先ほどのフォルケン・サージェス・バルトハウザー下級騎士同様に緊張の趣で忠誠石と呼ばれる、台形状の黒い御影石の前に進み出てスカートの裾を整えながらひざまずく。
 そして型どおりであるが宣誓をすると
再び王太子イルヒアイス24世が叙任の宝剣プラチナグラディオスソードを掲げて進み出る。そしてフォイエルバッハ伯爵に手渡す。こちらも年季の入った剣さばきで拔剣すると、叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをミッシェル下級騎士夫人の右肩に軽く当てると
「そなたの忠誠の証をしかと聞き届け、今ミッシェル下級騎士夫人の下級騎士叙任を宣言するものとする」
と高らかに宣言すると叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをさやに収めて王太子イルヒアイス24世に差し戻す。
引き続き
「シードハイランド連合王国はサウスタートルロック屯田兵総旗長、コンラート・モーデル、卿のミョーギン洞窟の証の公認を認め、モーデル家を中級騎士に叙する。今後はコンラート・サージェス・モーデルの名乗りを許すものとす。さらにコーン侯爵家麾下のマーシャルガーデン(元帥の花園連隊)リッターに配属し、連合王国百騎長待遇とせしむ」
大蔵卿ネイザン子爵が留守中の王国宰相コーン侯爵に代わって叙任証書を読み上げる
続いてベルナジッド供奉卿の重厚な声が 
「コンラート・サージェス・モーデル中級騎士、忠誠石の前へ出でよ」
と名前を呼ばわる。32歳のコンラート・サージェス・モーデル中級騎士が慣れた様子で忠誠石と呼ばれる、台形状の黒い御影石の前に進み出てひざまずく。
 そして型どおりであるが宣誓をすると
再び王太子イルヒアイス24世が叙任の宝剣プラチナグラディオスソードを掲げて進み出る。そして今度は父親であるイークオ12世に手渡す。連合王国国王の威厳ある重厚な剣さばきで拔剣すると、叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをコンラート・サージェス・モーデル中級騎士の右肩に軽く当てると
「そなたの忠誠の証をしかと聞き届け、今コンラート・サージェス・モーデルの中級騎士叙任を宣言するものとする」
と高らかに宣言すると叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをさやに収めて息子の王太子イルヒアイス24世に差し戻す。
このあと大蔵卿ネイザン子爵に代わってリンデンバウム伯爵が
「シードハイランド連合王国はサウスミョーギン領郡リンデンバウム伯爵家麾下中級騎士トキ・サージェス・サザージュ、16歳の成年に達したことと卿のこれまでの忠義を鑑み中級騎士より上級騎士に昇任させ、正式に王太子付き侍従武官とせしむ」
と昇任証書を朗々と読み上げる。
再びベルナジッド供奉卿の重厚な声が 
「トキ・サージェス・サザージュ上級騎士、忠誠石の前へ出でよ」
と名前を呼ばわる。16歳になったトキ・サージェス・サザージュ上級騎士が正確な歩調で忠誠石と呼ばれる、台形状の黒い御影石の前に進み出てひざまずく。
 そして型どおりであるが宣誓をすると
王太子イルヒアイス24世がトキ・サージェス・サザージュ上級騎士を横目で見つつ、叙任の宝剣プラチナグラディオスソードを掲げて進み出る。父親であるイークオ12世に慣れた調子で手渡す。連合王国国王の威厳ある重厚な剣さばきで再び拔剣すると、叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをトキ・サージェス・サザージュ上級騎士の右肩に軽く当てると
「そなたの忠誠の証をしかと聞き届け、今トキ・サージェス・サザージュの中級騎士から上級騎士への昇任を宣言するものとする」
と高らかに宣言すると叙任の宝剣プラチナグラディオスソードをさやに収めて、再度息子の王太子イルヒアイス24世に差し戻す。
ここで国王イークオ12世が右手を肩の位置まで上げると、トキ・サージェス・サザージュ上級騎士の両親であるサザージュ上級騎士とサザージュ貴婦人が国王の前へ進み出てくる。ベルナジッド供奉卿がネイザン子爵から通常の叙任証書とは異なる黒の羊皮紙を手渡される。打ち合わせがなされているためか、昇任が終了したトキ・サージェス・サザージュ上級騎士が下がらずにそのまま控えている。両親がトキ・サージェス・サザージュ上級騎士を背にして前に立ち国王と忠誠石の前で優雅にひざまずく。
ベルナジッド供奉卿の重厚な声が手にした黒の羊皮紙の内容を読み上げる。
「シード・ハイランド連合王国上級騎士サザージュ家に対し、ブレードニア帝国皇帝より帝国騎士の称号を授与し、年額3000Gの給付金をシード・ハイランド連合王国国王に代納するものとする」
ここまでの読み上げにより貴族諸侯と見物客からどよめきの声が上がるが、イークオ12世の右手がさらに上がったためにすぐに静かになる。
引き続きベルナジッド供奉卿の重厚な声が
「サザージュ一門の上級騎士3名に対し、従来の個人騎士号の名乗りを承認し、サザージュ家に対して新たにシード・ハイランド連合王国准男爵に叙任し、フォース・サザージュの家名名乗りを許すものとする。配属は従来どおりリンデンバウム伯爵家麾下領地代官長とし、連合王国大蔵卿上席書記官を兼任せしむ」と貴族爵位叙任証書を一気に読み上げる。
このあとイークオ12世みずからトキ・サザージュの父親の名前とフォース・サザージュの名乗りを呼び。トキ・サザージュの父親が家族を代表して忠誠石の前で宣誓と、お礼言上を国王に奏上する。あとは型どおり宝剣プラチナグラディオスソードによる儀式と国王の宣言が終了する。
そしていよいよ叙勲の儀のクライマックスが訪れるのである。
 
     
前 夜

タートルロックの方角からまばゆい光が飛来したシード・ハイランド連合王国王都ヘックスの王城ヘックスホースシュー城は真夜中にも関わらず、貴族諸侯と騎士達が王城の大広間に集結し、大勢の兵士達が城の周囲を警戒して慌しく動き回っていた。
 春分祭の出陣の儀があったばかりだけに国中の貴族と騎士達が集まっていたのである。そこへ光の襲来である。ローディア帝国首都プロージットで平和のための条約が全世界規模で結ばれようとしていても、非常時の備えと国を守らんとする意志はゆるぎないものがあることの証明が真夜中の大集結であった。
 ヘックスホースシュー城の大広間にはしばらくして国王イークオ12世が現れ、集まった貴族諸侯と騎士達に国王自身の無事を伝え、光の襲来はシード・ハイランド連合王国に対するタートルロックからの祝福であり。世界平和に対する瑞兆であり。この現象を利用した詐欺師やあらぬ名誉を申し立てる不届き者が現れた場合は厳重に処罰することを宣言し、明日の叙勲の儀に備えて休養するように申し渡し。集まった貴族諸侯と騎士達が解散して表面的には混乱は収拾されていたのであるが、後にこの日はヴェスターランドとシード・ハイランド連合王国にとって歴史に刻まれる栄光の記録の第一歩の日となるのは後世の人々のみが知ることである。