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ついに


3月14日


 お天気続きで、私も雨女の汚名返上だわと思っていたのに、最後の最後に降られた!
 最終テストは、使用者の間で「幻のコース」と呼ばれる道。なぜ幻かといえば、犬も訓練生も全く初めての場所に車で連れていかれるからだ。初めての場所といえば銀座もそうなんだけど、こちらは銀座のような繁華街でもなければ、わくわくするような面白い場所でもない。何の変哲もない、そこそこ交通量のある通りの歩道上。前回は通りや交差点の名前さえ教えてもらえず、まさに幻のコースそのものだったけど、今回はとりあえず、各ポイントとなる交差点等の名前は教えてくれた。
 午前8時半、車で協会を出発。スタート地点で下ろされ、コースの道順を確認した後、いよいよ卒業を掛けた最後の30分の歩みが始まる。
 「ティンちゃん、よろしくね。もうすぐあなたのママになれるよ!」
 歩きながら思わずそんなことを言っていた。
 人通りこそ少ないけれど、銀座のコースよりも複雑な道順だし、歩道橋を見つけて渡ったりもしなければならない。でもティンクルの足取りに少しも不安な様子はない。パラパラと降り注ぐ雨にもかまわず、楽しそうにハーネスを鳴らして進む。ひたすら忠実に交差点で止まり、渡り、歩道橋を見つける。この子とならどこにだって行けそうな気がしてきた。
 歩道橋の上がり口も難なく見つけ、ゆっくりと渡る。最後のコーナーを過ぎたゴール地点。担当指導員と、固い握手を交わした。

 帰ってきてしばらくの待機の後、理事長、訓練部長、担当指導員の居並ぶ部屋に呼ばれ、卒業決定の言葉を受けた。
 ついにティンクルが、私のアイメイトになった。

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