ミカさんが来てから数ヶ月が過ぎ、今日もいつもどおり、何事もなく一日が終わると思っていた。


美央「今日は金曜、明日は土曜w この土日の休み、なにしよっかな〜・・・」

熾亜「ねぇ美央、一緒に映画見に行かない?」

美央「ナ〜イスアイディ〜アw そのあと、スイーツの食べ歩きなんてどぉ?」

熾亜「ぅ・・・太っちゃいそうね・・・」

美央「たまにはいいでしょ?」

熾亜「ま、いっか。 今月はまだお小遣いにも余裕があるしw」

美央「ミカさんも一緒にどぉ?」

ミカ「そうですね。ご一緒しますw」

美央「OK! そうこなくっちゃ!」


なんて、帰り道に3人で土日の予定を話しているときだった。
前から走ってきた男の人が美央にぶつかって、そのまま走り去っていく。


熾亜「なに?いまの・・・ 失礼な人ねぇ・・・」


走り去る男の右手に、光るモノが見えた気がした


熾亜「それじゃ美央、明日は映画に・・・  美央?」


美央は、お腹を押さえて地面に倒れていた。


熾亜「美央? どうしたの美央!」

美央「痛いよ・・・熾亜・・・」


あわてて美央を抱き起こす。
ふと美央のお腹に触れると、赤いドロっとした液体が手についた。


熾亜「これ・・・血?」

美央「熾亜・・・苦し・・・」


言いかけて、美央はガクリとうなだれた。


熾亜「美央! しっかりして、美央!!」


美央を揺すり、声をかける。


熾亜「目を開けてよ! 美央〜〜!!」


でも美央は、目を閉じたまま動かない・・・


熾亜「ミカさん!!」


すがる気持ちでミカさんを見ると、静かに首を横に振った。


熾亜「どうして!! 私は助けてくれたのに、なんで美央は・・・!」


言いかけたとき、私の頭をある言葉が横切った。

"アカシックレコード"・・・


熾亜「・・・これは、決まってたことなの?」

ミカ「・・・はい。」

熾亜「どうしてもダメ?」

ミカ「すみません・・・私自身がアカシックレコードを狂わせるわけには・・・」

熾亜「もういいよ!」


ミカさんの言葉を遮って、再び美央に声をかける。


熾亜「美央、ほら起きてよ・・・一緒に映画も観に行くんでしょ?
   スイーツの食べ歩きもするんだよね・・・? ねぇ美央、美央ってば!!
   やだよ美央・・・こんなのヤだよ!!」


一瞬、周囲が明るく輝いた気がした。


ミカ「これは・・・まさか熾亜さん・・・?」

熾亜「美央〜〜!!」

ミカ「熾亜さん!!」


ミカさんが止めに入る。


ミカ「・・・救急隊の人が困ってます。 そこを・・・どいてください。」

熾亜「・・・私・・・なにも・・・美央・・・グスッ」

ミカ「この先はまかせて・・・家に帰りましょう。」

熾亜「・・・ひっく・・・」


私は自分の部屋に入ると、着替えることも忘れて呆然と立ち尽くした。


ミカ「熾亜さん・・・」

熾亜「もういい・・・」

ミカ「え?」

熾亜「もういいよ! ミカさんなんて!!」

ミカ「!?」

熾亜「アカシックレコードが何? 歴史がどうだっていうの! そんなの、私には関係ない!!」

ミカ「でも熾亜さん・・・」

熾亜「何も聞きたくない!! ミカさんなんてどっか行っちゃえ!!」


直後、何かが割れて落ちる音がした。


ミカ「・・・そうですね・・・そうさせてもらいます。」

熾亜「え?」


ミカさんの反応に、不意に血の気が引く。


ミカ「もう、私が傍にいる理由も、なくなったみたいですから。」

熾亜「何、言って・・・」


ふと視線を落とすと、ミカさんにもらったブレスレットが砕けて床に落ちていた。


熾亜「・・・これって・・・」

ミカ「熾亜さんの生命活動は安定状態になりました。私が受けた使命は、いま完了しました。
   これからすぐに、次の使命のために天界へ戻ります。さようなら、熾亜さん。」


それだけ言うと、ミカさんは見えなくなってしまった。


熾亜「え? ちょっと待って!」


呼び止め、ミカさんのいた辺りを手で探ってみても、なんの反応もない。


熾亜「冗談! どこか行っちゃえなんて冗談だからっ!」


・・・私の声がむなしく部屋に響き渡った。


熾亜「ホントに・・・帰っちゃった? 私、バカみたい・・・」


親しい人を二人も一度に失い、自分の愚かさ・無力さを悔やむ。

この事件はTVにも取り上げられ、私は目撃者として各方面から質問攻めに遭った。
結果、その3日後に犯人は逮捕。
事件翌日、美央の運び込まれた病院を訪ねたけど、面会謝絶だって言われて、仕方なく引き返した。
ミカさんも"急な転校"という名目で、姿を見せなくなった。
それからは、勉強にも身が入らなくて、ただ呆然と過ごす毎日。

そして、1週間くらい経った日の朝・・・


熾亜「はぁ・・・今日も学校かぁ・・・」


私の憂鬱は消えていなかった。


??「朝から元気ないね、熾亜。」

熾亜「そりゃそうよ・・・だって美央が・・・って、え?」


聞きなれた声に、私は驚く。


美央「おはよ、熾亜。」

熾亜「美・・・央? 生きてたの?」

美央「勝手に殺さないでよ、もう・・・」

熾亜「よかった・・・!」


無意識に全力で美央に飛びついた。


熾亜「ホントによかったよぉ、 美央〜!」

美央「あははは・・・心配かけちゃったね。」

熾亜「病院行っても面会謝絶だったし・・・私、もうダメだとばっかり・・・!」

美央「運が・・・よかったみたいね。」

??「・・・アカシックレコードで、決められていたことですから。」

熾亜「そっか、決まってたんだ・・・ って・・・」


後ろからもう一つ、聞き慣れた言葉。
振り返るとそこには紛れもない「中学生版の」ミカさんが立っていた。


熾亜「ミカさん!! どーしたの?」

ミカ「次の任務のために来ました。」

熾亜「そうなんだ・・・それより、美央は生きてるって、なんで教えてくれなかったの!
   私、気が気じゃなかったんだよ?」

ミカ「アカシックレコードに記録された未来を、人間に教えるわけにはいきませんから・・・」

熾亜「それはそーかもだけど・・・チョットくらいいいじゃない!」

ミカ「ダメです。」

熾亜「む〜、ケチぃ・・・」

ミカ「ケチで結構です。」

熾亜「まぁいいわ。 それで、次の任務って何なの?」

ミカ「ここでは・・・少しこちらに来てもらえますか?」

熾亜「うん。 ごめん美央、ちょっと待ってて。」


私は、ミカさんに招かれるままに美央から少し離れる。


ミカ「・・・美央さんが倒れたとき、周囲がほんの一瞬、まばゆく輝きました。」

熾亜「あれ・・・気のせいじゃなかったのね。」

ミカ「天界で調べた結果・・・熾亜さん、あなたに要因があることがわかりました。」

熾亜「・・・私に?」

ミカ「熾亜さんを救うために私が送り込んだ力が熾亜さんの中で安定し、熾亜さんは生命を維持しています。
   しかし、あのときの感情の高ぶりによって、その力が予期しない作用を及ぼしました。」

熾亜「予期しない作用・・・?」

ミカ「単刀直入に言います。 熾亜さんは天使として覚醒し始めています。」

熾亜「・・・」


あまりにも意外な一言。
私が生きるための力のせいで、私自身が天使になり始めてるなんて・・・


熾亜「天使になっちゃったら、どうなるの?」

ミカ「天使とは、人間よりはるかに高次元な存在です。この世界に留まることはできません。」

熾亜「ってことは、みんなとお別れかぁ・・・それはヤだなぁ・・・」

ミカ「ですから、私の今回の任務は・・・」

熾亜「任務は?」

ミカ「熾亜さんが天使の力を乱用しないように監視・抑制し、熾亜さんの天使化を止めることです。」

熾亜「できるの?」

ミカ「わかりません。」

熾亜「またそれぇ?」

ミカ「アカシックレコードには、記録されていない事態ですから。」

熾亜「・・・また狂ったの?」

ミカ「・・・そうみたいですね。」

熾亜「まぁいいわ。 なるようになるでしょ。」

ミカ「・・・前向きですね・・・」

美央「二人とも何話してるの? 任務とか、アカシックなんとかって・・・」

熾亜「ううん! なんでもないの、こっちの話!」

美央「ふぅん・・・別にいいけど。 それより、早くしないと遅れちゃうよ?」


言われて、チラっと時計を見る。


熾亜「げ、ヤッバぁ・・・ミカさん、美央! だ〜〜〜っしゅ!!」

ミカ「あ、ちょっと熾亜さん、待ってくださ〜い!」

美央「私も急がなきゃ! 熾亜、待て〜〜っ」


こうして、私とミカさんのチョット変わった日常が"また"始まった。


熾亜「でもさ・・・」

ミカ「はい?」

熾亜「ミカさんがこうやってみんなに干渉することも、そのアカシックレコードに書いてあるわけ?」

ミカ「書いてありませんよ? 私の地上での行動は、何一つ。」

熾亜「・・・それって、ミカさんが余計狂わせてるんじゃ・・・」

ミカ「え・・・?」


-End-


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