桜舞う季節・・・さまざまな思いが交錯する、出会いと別れの時期。
それは、突然やってきた。

「お兄ちゃん!」

見たところ、歳は俺と同じか・・・少し下くらいの少女。
その少女が、真っ直ぐに俺を見ながらそう言ったのだ。

「・・・俺?」

「そうだよっ!」

ワケがわからない。
俺には妹なんていない。
物心ついた頃に母親が死んでからは、父親と二人暮らしなのだ。
その父親は、再婚が決まったとかでヤケに浮かれていたけど・・・

「・・・人違いじゃないか? 俺には妹なんて・・・」

「これから、なるの。」

「へ?」

「私達・・・兄妹にw」

はじめはピンと来なかった。
しかし、スグに一つの結論が脳裏に浮かぶ。
・・・父親の再婚相手の連れ子・・・
"これから兄妹になる"というのだから、それしか思いつかなかった。
父親からは再婚が決まったこと以外の詳しいことは何も聞かされていない。
ならば、この子に確認してみよう。

「・・・ひょっとしてキミさ・・・」

「キミじゃないよ〜・・・私は"ゆかり"」

「えっと、じゃぁ、ゆかりちゃん。」

「なぁに?」

「ゆかりちゃんは、俺の親父の再婚相手の・・・」

「そうだよw」

言い終わる前に答えが帰ってきた。

「お母さんから色々聞いてるよ。私のお父さんになる人にも子供がいるって。
 私の1コ上の、男の子・・・だから、私のお兄ちゃん♪」

ヤケに嬉しそうである。

「私ね、ず〜〜っとお母さんと二人っきりだったから、兄弟とか、お父さんとか・・・
 憧れてたんだぁ〜w」

「そ、そうなんだ・・・ところでさ・・・」

「なに?」

「親は・・・一緒じゃないのか?」

「お母さんは準備があるから、私だけでも早めに新しい家に慣れておいで〜って。」

「ってことは、一人?」

「そうだよ。」

「ま、いいか。 今は親父いないけど、とりあえず入れよ。」

「は〜ぃ、おじゃましまぁす♪」

・・・先が思いやられる。
だけど、新しい家族になる以上、仲良くしなくては・・・

「お兄ちゃ〜ん、一緒にゲームしよ〜?」

「ん? あぁ、も〜ちょい待ってくれ。すぐ宿題片付けるから。」

「は〜ぃ。」

ゆかりが積極的にコミュニケーションを取りに来てくれるおかげで、俺の不安は杞憂に終わった。
父子家庭で育った俺も、兄弟がいるという生活は楽しかった。

「お兄ちゃん、ちょっとわからないところがあるんだけど・・・」

「ん? どこだ?」

「ここがね・・・?」

「あぁ、これはカンタンだ。 この式を応用して・・・」

「なるほどぉ・・・」

ゆかりは、ことあるごとに俺のところに来た。
時に一緒に遊び、時に勉強を教え、お互いに慣れてきて本当に仲のいい兄妹のようになってから、
数日が経ったある日。
俺はいつものように自室で勉強していた。

「親父は今日も遅いかな・・・っと。 気晴らしに風呂でも入るか。」

キリのいいところで勉強を切り上げ、風呂場へ向かう。
・・・なぜ気づかなかったのだろうか。
今、この家にいる"俺以外"の存在に。

「!!?!?!?」

ドアをあけると、そこには一糸まとわぬ姿のゆかりが立っていた。
俺はおどろきのあまり、目を見開いたままで硬直していた。

「ぃ・・・・いやぁああぁぁぁぁぁああ!!!」

その叫び声で我に返る。

「は、早く出てってよぉ〜〜!!」

「ご・・・ごめんっ!!」

急いで風呂場のドアを閉め、自室に戻り、ベッドに座り込む。
・・・見てしまった・・・ナマで。
きれいな肌と、胸元のふくらみ・・・興奮がおさまらない。
仲がいいとはいえ、紛れもなく"異性"なのだとハッキリ認識させられてしまった俺は、
ゆかりに対して、今までとは違う感情が起こり始めた。
そんなとき、俺の部屋のドアがノックされる。
ドア越しでも誰なのかわかる。
今、この家には俺を含めて二人しかいないのだから。

「お兄ちゃん・・・?」

「あ、あぁ。さっきは、その・・・悪かったな。」

続きを聞くのが怖くて、話し始めた段階で言葉を遮るように謝罪する。

「ううん・・・カギかけなかった私も悪いんだし・・・お互い様、だよ。」

「そ・・・そっか。」

「ねぇ、お兄ちゃん?」

「な、何だ?」

「入っても・・・いい?」

「だ、ダメだっ!」

「え・・・?」

反射的に答えてしまった。
さっきからずっと、一糸まとわぬ姿のゆかりが、頭から離れない。
こんな状況で顔を合わせれるワケがない。

「・・・ぐす・・・ひっく・・・」

ドア越しに聞こえる、ゆかりのすすり泣き。
俺は、あわてて部屋のドアを開けた。
すると、足元でゆかりがうずくまって泣いていた。

「ゆ、ゆかり・・・?」

「う・・・ぐし・・・」

「なんで泣いて・・・? 俺に見られたの、そんなイヤだったのか・・・
 ホント、ごめん・・・この通りだから、そんなに泣かないでくれ・・・」

「違うの・・・」

「え?」

「せっかく仲良くなれたのに・・・嫌われちゃ・・・ぅく・・・」

「バカ言うな。」

「えっ?」

俺がそう言うと、ゆかりはおずおずと顔を上げた。。

「キライになんか・・・なるわけねぇだろ。 俺だって、兄妹ってのに憧れてたんだから・・・」

「お・・・」

「お・・・?」

「お兄ちゃんっ!!」

ゆかりは、いきなり俺に飛びつくと、俺の体に顔を押し当てて泣いた。
俺はどうしたものか迷ったが、とりあえず頭を撫でてやった。
しばらくそうしていると、落ち着きはじめたのか、少し収まってきた。

「・・・落ち着いたか?」

「・・・うん。」

ゆかりは俺の体から顔を離した。
まだ少し涙目だったけど・・・

「お兄ちゃん・・・?」

「ん?」

「私ね・・・お兄ちゃんに見られたこと・・・怒ってないよ?」

「そ、そうか・・・」

「お兄ちゃんになら・・・見られても平気だから。」

ゆかりは俺に笑顔を向けてくれた。
"俺になら見られても平気"・・・その言葉が妙に気にかかる。
もしかして俺は、ゆかりに好かれているのではないか?
覚悟を決め、ゆかりの気持ちを確認する意味も含めて、さっき気づいた感情を伝えようと決めた。

「ゆかり・・・実は、言わなきゃいけないことがあるんだ。」

「・・・なぁに?」

「うまく言葉にできないから、単刀直入に言う。 覚悟はいいか?」

「覚悟・・・?」

「あぁ。」

「・・・いいよ。」

「じゃぁ、言うぞ。・・・ゆかり、お前のことが・・・好きだ。」

「え・・・? えぇ!?」

あきらかに戸惑っているゆかり。

「お兄ちゃんが、私を・・・? そんな・・・」

マズかった・・・?
ゆかりは、俺に対してそこまでの気持ちは持ってなかったのか?
伝えずに、仲のいい兄妹で済ませておけばよかった。
そんな考えが浮かぶが、言ってしまったものは後には引けない。
しばらく続いた沈黙を破ったのはゆかりの方だった。

「え、えっとね、お兄ちゃん・・・」

「な・・・なんだ?」

「私も・・・その・・・同じ、気持ち・・・」

「・・・え?」

今度は俺が目を丸くする。
俺の見当違いでなければ、ゆかりも俺のことが好きだと言ってくれているのだ。
すぐには信じられず、確認してみる。

「ゆかり、俺が言ってるのは"妹として"じゃなくて、"女として"お前を好きだっていう・・・」

「・・・わかってるよ。だから、私も同じだって・・・」

「そ、そうか・・・ゴメン。」

なんということか・・・兄妹という関係でありながら、俺たちは両思いだったのだ。

「だからね・・・大好きなお兄ちゃんだから・・・見られても平気って・・・」

「お、お前なぁ・・・俺は平気じゃねぇっての・・・」

ゆかりが泣き始めてから消えつつあった、"ゆかりの姿"が、また鮮明に浮かび上がる。

「お兄ちゃん、カオ赤いよ・・・?」

「ほっとけ!」

「あ、でもお兄ちゃん?」

「ん?」

「・・・いつでも見せてあげるって意味じゃないからね?」

「わ、わかってるよっ!あれは事故みたいなモンなんだからっ!」

「そ・れ・か・ら・・・」

「・・・?」

「いつか、お兄ちゃんのハダカも見せてね。」

「はぁ!?」

「私だけ見られちゃって・・・不公平だもん。」

「バ、バカ! 見せろって言われてホイホイ見せるようなモンじゃ・・・」

「ん〜・・・やっぱそうかぁ・・・」

「あたりまえだっ!」

「じゃ、お兄ちゃんがお風呂入ってる時に"事故に見せかけて"覗こうっとw」

「・・・犯行予告か?それ。」

「私はいつでも狙ってるから、うっかりカギ閉め忘れたら知らないよ〜♪」

このとき俺は、カギの掛け忘れだけはするまいと思った。

・・・しかし数日後、カギが壊れて開かなくなり、力の限り蹴破ると、そこにはゆかりが立っていた。

「うふふw お兄ちゃんのハダカ、しかとこの目で見たり〜w」

バッチリ見られてしまった・・・

「おま・・・ホントにいつも狙ってたのか?」

「さぁ、どうでしょう? 偶然かもね〜♪
 なんにせよ、これでお相子ねw 今回も事故みたいなものだし〜w」

「まぁ・・・そういうことにしとくか。」

「そんなことより、いつまでそのカッコでいるの?早く何か着てよぉ・・・」

「てめっ! あんな見たがってたクセに見たとたんソレかっ! んのやろ〜!!」

俺は急いで下を履き、ゆかりに特攻する。

「きゃ〜w ヘンタイが追っかけてくる〜w」

「待てコラ〜〜!!」

・・・今日も兄妹は平和でしたとさ。


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