遠い昔、広い草原の中に、ウサギがいました。
そのウサギは一人ぼっちで、いつも月を見上げていました。


「あぁ、今日もお月様はきれいだな。 明るくて、まぁるくて・・・」


ある晩、ウサギは不思議に思うことがありました。


「あんなきれいなお月様なのに、なんで黒い部分があるんだろう?」


一人で考えていてもわかりません。
ウサギは、まわりの草たちに聞いてみました。


「なんでお月様には黒いところがあるの?」


草たちは、風にゆられながら答えました。


「それはね、お月様があまりにもきれいだから、誰かがいじわるをしているんだよ」


「へぇ〜・・・」


ウサギはうなずきました。
でも、またわからないことがでてきました。


「誰がいじわるをしているの?」


ウサギが聞くと、草たちは困った顔でこう言いました。


「それは、ボクたちにはわからないなぁ」


「そっかぁ・・・」


草たちは、月にイジワルをしているのが誰なのか知りませんでした。
イジワルをしているのが誰か知りたいウサギは、優しく吹き寄せるそよ風に聞いてみました。


「風さん、風さん。」


「なんだい?」


ウサギの問いかけに、風はささやくように答えました。
ウサギは、質問を続けます。


「きれいなお月様にイジワルをしているのはだあれ?」


「イジワル?」


風は首をかしげています。


「うん。誰かがイジワルをしているから、お月様に黒いところがあるんでしょう?」


「ああ、あれのことかい? あれはね、お月様がイジワルをされているんじゃないんだよ」


風は、草たちが言ったことは間違いだと言い出しました。


「それじゃぁ、どうして黒いの?」


「あれはね、お月様には、とっても大きなカニがいて、そのカニがいるところが黒くみえるんだよ」


とても大きなカニを思い浮かべたウサギは、ちょっと月が怖くなってきました。


「なんでカニがお月様にいるの?」


ウサギが恐る恐る風に聞いてみると、風は肩をすくめながら答えました。


「そこまではわからないよ」


「そっかぁ・・・」


どうしてお月様に大きなカニがいるのか、風は知りませんでした。
なぜカニがいるのか知りたいウサギは、空をただよう雲に聞いてみました。


「月にカニが? はっはっは! 誰がそんなことを言ったんだい?」


ウサギの話を聞いたとたん、雲は大笑い。
それでも、ウサギは話を続けます。


「風さんに聞いたよ。」


「そうかいそうかい。でもね、あの黒いところにはカニがいるんじゃなくて、ウサギがいるんだよ。」


雲の言葉を聞いて、ウサギは驚きました。


「ウサギ? ボクの仲間がいるの?」


「そうだよ。お前さん一人ぼっちだろう? 月まで会いに行ったらどうだい?」


自分のほかにもウサギがいる。
そう聞いたウサギは、迷わずに答えました。


「うん、ボク、お月様に行ってみるよ!」


こうしてウサギは、月に行くことにしました。
でも、どうやって行ったらいいのかわかりません。
そこで、また雲に聞いてみました。


「月への行き方?さてねぇ・・・ワシが乗せていってあげることはできないしねぇ・・・」


雲に聞いてもダメでした。
それでも月に行きたいウサギは、また風に聞いてみました。


「月へ行きたいのかい? ごめんね、私では行き方はわからないよ」


風に聞いてもダメでした。
仕方なく、また草たちに尋ねてみました。


「地面から離れられないボクたちは、お月様に行く方法なんて知らないよ」


草たちに聞いてもダメでした。


「お月様にいるウサギは、どうやってあそこに行ったんだろう・・・」


途方に暮れて、ふと空を見上げると、流れ星が見えました。


「あ、流れ星・・・そうだ、お星様に聞いてみよう!」


ウサギは、空から落っこちてきた流れ星を探しました。
草原を走り、山を越えて、森を抜けて・・・
そしてたどり着いた湖で、流れ星は水浴びをしていました。


「やっと見つけた! お星様!」


ウサギの声に気づいた星は、少し面倒くさそうに振り向きながら、ウサギに話しかけました。


「誰かと思えば、ウサギさんかい」


ウサギは、星が話し終わるのを待たずに話し続けました。


「ボク、お月様まで行きたいんです。行き方を知りませんか?」


星は、少し驚いた表情で、でも、優しくウサギに聞き返します。


「行き方は知ってるけど、どうして、月に行きたいんだい?」


「お月様にボクの仲間がいて、どうしても会いたいんです!」


「ウサギさんのお仲間がねぇ・・・」


流れ星はしばらく考えた後、答えました。


「よし、わかった。ウサギさんを月まで連れて行ってあげよう。」


その答えを聞いたウサギは、大喜び。


「ほんとうですか? ありがとうございます!」


その姿を見た星は、水浴びをやめてウサギに近寄りました。


「しっかりと私につかまって。それじゃぁ、いくよ」


星につかまったウサギは、風を抜け、雲を超えて、空の上までひとっとび!
すぐに月に到着しました。


「お星様、ありがとうございました!」


「どういたしまして。お仲間、見つかるといいね」


「はい」


お星様は、どこかへ飛んでいきました。


「ボクの仲間、どこにいるんだろう?」


月へやってきたけれど、仲間の姿が見えません。


「おーい! おーい!」


ウサギは、叫びながら走り回りました。
しばらくすると、遠くのほうから、なにか音が聞こえてきました。


「なんの音だろう?」


ウサギは、音のするほうに近づいていきました。


ぺったん、ぺったん


音がハッキリ聞こえるようになると、そこに、もう1匹のうさぎがいるのがみえました。
月にいたうさぎは、その長い耳をゆらしながら、一生懸命に何かをしていました。
ウサギは、思わず叫びます。


「おーい! ボクの仲間ー!」


その声に気づいたか、月にいたうさぎは、ウサギのほうに振り向きます。


「あら、私と同じウサギさん?」


「そうだよ。君に会いたくて、お月様まで来たんだ。」


ずっと一人ぼっちだったウサギは、ついに仲間を見つけることができました。
ところが、やっと会えたのは嬉しいけれど、会って何をするかまでは考えていませんでした。
そこで、月にいたうさぎのやっていることを聞くことにしました。


「キミはここで何をしているの?」


「おもちをついていたのだけど、一人ではうまくできないの。
 手伝ってくれる?」


たしかに、おもちは一人ではうまくつけません。
やることを決めていなかったウサギは、すぐにうなずきました。


「うん、いいよ。一緒にやろう!」


月へ行ったウサギは、月にいたうさぎと一緒におもちをつき始めました。
そして、今でも、月で一緒におもちをついています。

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