改訂版ミサイル行軍・解説
初めに
以前自衛隊に勤務していた頃、市販のミサイル行軍将棋を購入して改造し、
ゲームに没頭したことがある。
市販のままではあまりにも単純であり、ゲームとしての面白味に欠けていたからである。
当時の盤駒は紛失してしまったが、ルールなどのメモは残っていたので紹介することにした。
基本的に大きな変化はないが、駒の名称等一部は変えてある。
市販品との相違点
- 駒の編成と盤
駒の編成は15種31枚から20種39枚となり、競技盤は1列増えている。
削除した駒は元帥と原爆の2種、追加した駒はロケット等7種、名称の変更が2種ある。
- 駒の変更と性能
- APC
現在ではMICVと呼ばれる車両が主流になっているが、兵員輸送を主とした装軌式装甲車両である。
遠距離からでも総司令部占領可能な駒として作成した。
- 戦闘機
市販品のジェット機は自由に移動できる上に、殆どの駒に勝つ強力な駒である。
ジェット機の威力を軽減させる目的で作った駒で、地上軍への攻撃力は低い。
- ヘリコプタ
歩兵部隊の機動力を高めるために作った駒であるが、ジェット機や戦闘機と同じ動きとなるため、
各々の駒の正体を分かりにくくする効果も発生した。
- レインジャ
総司令部への奇襲攻撃を主目的とした駒で、他の一部の駒と共に斜めに移動可能とした。
ただしAPC同様それ程強い駒ではないので、そう簡単には総司令部を占領できない。
- レッドアイ
駒の名称は歩兵携行が可能な地対空ミサイルそのもので、対空防御を高めるために作成した。
- 斥候
行軍将棋の魅力の一つは、如何にして駒の正体を秘匿するかにある。斥候は極めて弱い駒であるが、
使い方次第で大きな働きが可能である。
- ロケット
既存のミサイルが戦略兵器であるのに対し、戦術的な地対地ミサイルとして作成した。
将官級の駒も撃破出来る強力な駒であるが、反面敵の攻撃を受けると壊滅する脆弱性も併せ持つ。
- 元帥と原爆
原爆は既にミサイルに装備されているわけであり、単独で動けない原爆は使い方も限られる。
総司令部から動けない元帥共々ゲームの興味をそぐので、この2種の駒は削除した。
- 駒名称の変更
以前ゲームした駒は市販品の改造なのでジェット機はそのまま残し、その迎撃用としてファイターを作成した。
今回は分かりやすいようにそれぞれ爆撃機・戦闘機と改めた。
狙撃兵はスパイの進化系とも言うべき駒で、中将にも勝つのでスナイパーと言う名称にした。
これも分かりやすいように狙撃兵と改名したが、旧行軍将棋の目玉の駒が懐かしい気もする。
タンクの名は戦車(特車?)とせずにそのまま残したが、これは単に私の好みによるものである。
ミサイル時代ならMBTと改名し、APCもMICV(ミクヴィーと呼ぶらしい)とすべきかもしれないが。
- ルールの変更と特徴
- 総司令部の占領
従来の将官・佐官に加え、APC・レインジャのような特殊な動きをする駒でも占領が可能となり、
ゲームがより複雑なものになった。
- 駒の動き
基本的には従来品を踏襲しているが、斜めに動ける駒の新設が面白いかと思う。航空兵力に関しては、
任意の地点(総司令部を除く)へ動けることを明記した。
- ミサイル
従来品のようなミサイル同士の相撃ちルールは無いので、先制攻撃で確実に敵の駒5枚を除去できる。
一見先手絶対有利に思えるかもしれないが、実戦経験からそうでもないことを後述する。
- ロケット
新設駒の中でも最も個性的な駒で、この駒の使い方次第で1局の勝敗が左右されると言っても良い。
行軍将棋はポーカーフェースを必要とするゲームであるが、ロケットの場合は特に必要である。
- 斥候
極めて弱い駒であり、負けるために存在するような駒であるが、それこそが最大の任務なのである。
斥候で将官級の駒を発見し、ロケットを静かに移動させて敵を射程に捕らえる。発射!撃破!
一度でもこの快感を知ったなら、もうこのゲームの虜になるであろう。
- 工兵による地雷除去
行軍将棋を指したことのある者なら、誰でも自分の地雷に邪魔された経験を持っているであろう。
そんな不満を解消するために作ったルールであるが、実戦で使った記憶は無い。
- ヘリボーン
これも本行軍将棋の特色の一つである。レインジャを搭載して総司令部の横に着地すれば、
次の回で占領することも可能なのである。強い駒と見せかけて弱い駒を運び、
敵のロケットを浪費させるのも戦術の一つである。
- オプション・ルール
- 駒の編成と強弱
駒の編成はこれが最善というものではない。ミサイルを1基減らし、大佐・レインジャ・
地雷等を増やすことも考えられる。駒の勝敗に関しても(特に新設した駒)最善とは思っておらず、
実戦を重ねることによって変更されるべきものと思っている。
- 航空部隊の動き
任意の地点に移動可能としているが、任意移動は自陣内及び敵陣と自陣との移動のみとし、
敵陣内では縦横斜めに1画ずつとする方法もある。
実戦の思い出
実際にこのゲームを指していたのは、もう20数年前のことになる。
その後は一度も指したことはないが、ゲームの状況は結構覚えているものである。
思い出すままにこのゲームの特徴を紹介したい。
先ずは問題のミサイルであるが、先制攻撃で5枚の駒を除去できることは大成果には違いない。
しかし行軍将棋の第一の目的は駒を取ることではなく、敵の総司令部を占領することにある。
そのためには単に駒を数多く残すのではなく、強い駒を残しておくことが重要なのである。
ミサイルを温存しておけばいつでも敵陣を攻撃できるので、敵にとっては大きな脅威が残ることとなる。
将官級の駒を発見すれば、たとえ1枚であってもミサイルで攻撃するだけの価値があるからだ。
また、行軍将棋においてはどの駒を除去したか、言い換えればどの駒が残っているかを知ることは、
作戦を進める上で極めて重要な要素である。
故に早い時期でのミサイルによる大量破壊は、案外期待した程の効果は得られないものである。
勿論温存したまま敵の攻撃を受け、何ら成果を挙げないまま破壊されては元も子もない。
自陣に入られたら使えないので、ミサイルを使う時期の判断は局面の展開次第なのである。
ロケットの場合は、ある程度敵の正体を掴まなければ使うわけにはいかない。
行軍将棋の魅力の一つに、弱い駒を強く見せる、あるいは逆に強い駒を弱く見せる、
ポーカーのような駆け引きの妙がある。敵の大将を発見しても、直ぐに射程に入るわけではない。
と言っていきなりロケットを進めて行っても、敵も用心して航空攻撃をかけてくるかもしれない。
それならこちらはその裏をかいて、砲兵をロケットに見せかけて1画ずつ進めていく。
こんな勝負の駆け引きも、ロケットの登場によってより高まったものと断言できる。
実際の対局では棋力に差があり、殆どの場合ハンディ戦であった。
その方法は将棋のように駒を落とすのではなく、大将もしくは大将と中将の2枚を、
最初から表にしておくのである。ミサイル攻撃を受ければ開戦早々大将を失うことになるが、
ミサイルの温存、ロケットの活用等によって、滅多に負けることはなかった。
終わりに
三省堂の大辞林によれば、行軍将棋は「児童用」とされている。
従来からの木製の駒の場合には、木目の違いによって裏にしても駒の正体が分かってしまう。
初期の行軍将棋はルールも単純であるし、これでは「児童用」と表現されても止むを得ないだろう。
私達が行っていたのは、複数の駒を購入して新設した駒と共に数セット分用意し、
その中からランダムに1セット分の駒を取り出してゲームに望む方法だった。
それでも何度か続けてゲームしていると、主要な駒は自然と覚えてしまったものである。
プラスチック製の駒になって隠匿性は増したが、パソコンこそが行軍将棋に最適の素材かもしれない。
駒の隠匿性は完璧であるし、審判は不要かつ完全に公平であるのだから。
残念ながら市販ソフトの思考力は貧弱であるが、どうしても大きな需要は見込めないので、
メーカーとしてもそれ程力を入れることが出来ないのであろう。
行軍将棋は児童用と紹介したが、その本質は極めて高度な推理力を必要とするゲームだと思っている。
ここで私が紹介したこのゲームを実際にやってもらえれば、直ぐに実感出来ることと思う。
ロケットで忍び寄るときの緊張感は、決して他のゲームでは得られないであろうから。
このゲームは特許申請はしていないので、自由に行って差し支えありません
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