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 映美くららディナーショー
  〜マイ・スイート・メモリー(8月17日宝塚ホテル琥珀の間)

 ディナーショーと言うものに出席するのは初めてのことである。 何しろ初めての経験なので色々と情報を仕入れて行ったが、 宝塚の場合には「ディナー&ショー」であり、食事とショーとは完全に別れている。 外国映画で良く見られるような、 食事をしながらショーを楽しむ、と言うものではなかった。 会場の広さと出席者の数を考えれば、やはり分離することになるのだろう。
 出席者は300人弱といったところであろうか。 チケットは即日完売とのことであったが、開催が発表されたのも遅かったし、 くららさんの若さを考えれば劇団としても予想以上の大成功だったのではあるまいか。 これに刺激されて娘役のディナーショーが増えるようなことにでもなれば、 勿怪の幸いと言うことになる。
 娘役とは言えやはり宝塚、男性客は1割に満たなかったものと思われる。 私のテーブルは11人中3人と多かったが、女性だけのテーブルも多数見られた。 かなりの年配者も見られたが、劇場で見られる観客層と比較しとみると、 全体の客層としては若いように見受けられた。 服装も普段着のような人もいて、 あまり「ディナー」と言う仰々しさは感じられなかった。
 
 ディナー&ショーでは、 ディナーの時の時間配分に問題があるような気がする。 会場の大きさの割に人数が多いので、 どうしても料理を出すのが間に合わなくなってしまう。 複数で来ている人は仲間同士で会話も弾むが、 単独で出席している者はなかなか会話のきっかけがつかめない。 必然的に黙々と食べるだけの行動になってしまい、 食べ終えれば次の料理が来るまで時間を持て余すことになる。 この空白の時間と言うものは、何とも言えぬ気まずいものである。
 料理自体は、23,000円と言う金額を考えれば悪くなかったと思う。 勿論『量』の問題は無視しての話であるが。
 最初は「魚介類のガスパッチョ仕立て」・・・名前を聞いても分からない。 おうちを聞いても分からない。ニャンニャンニャニャン、 とりあえず鱧と帆立が旨かった。
 次は「鱸の香草パン粉付け焼き マスタード風味のブールブランソース」・・・ うっ、なんて長い名前なんだ! 立派な名前に期待したのだが、出てきたのは1切れだけ。 肉厚で味は悪くはなかったが、やはりこれでは物足りない気がする。
 メインは「和牛フィレ肉のトゥルヌード マデラ酒風味のソース」。 ふむふむ、付け合わせも含めて美味しく頂きました。 でもやっぱり・・・もっと食べたい・・・
 特製デザートは「ブラマンジェのフルーツ添え オレンジ風味のヨーグルトソース」。 確かに色々な果物が少しずつ添えてあるけれど、 人によって好き嫌いがありそうな気がする。 デザートは3種類くらい用意しておいて、 ディナーが始まる前に選択させておく方法もあると思うのだが・・・ 受付の時に「カニは食べられますか」と聞かれていた人がいたから、 デザートの選択くらいは容易にできるはずである。
 最後は可愛らしい(小さい)カップでコーヒーを飲み、 時間通りにディナータイムは終了。 まずはめでたしめでたし。
 
 ショーは 「ノバ・ボサ・ノバ」の縮小版で開幕したが、 くららさんは主役なので当然ソール。 ボーロは身長から判断すると美鳳あやさんか。 その他にはオーロやシスター・マーマ、ルーア神父等お馴染みの顔ぶれが登場、 一息入れてから「くずい〜」の姿で客席からくららさん登場。 運の良い何名かは、手渡しで直接写真をもらうことが出来た。 その後も「ノバ〜」の場面が続いたが、 くららさんはやはり娘役なのでソールだけでなく、エストレーラにも扮していた。 ただし早替りの時間が取れなかったのか、 「オレレオーレレ」のピンクの衣装での登場がなかったのは残念である。
 「ノバ〜」が終了したら着替えのためにくららさんは袖に下がり、 残った何人かで同期ならではの暴露話に花を咲かせた。 暴露とは言ってもそこは宝塚、その限界線はちゃんとわきまえているから心配はない。 用意が出来たところで「くらくら7変化」の開始、 くららさんが出演した作品の中から思い出の場面を選んで上演する趣向。
 最初は星組時代の「美麗猫」だが、第8場雌猫の衣装そのもののようである。 この歳になってまたこの衣装を着るとは思わなかった、と言っていたが、 まだ「この歳になって」と言うほどの歳ではない! 話が逸れるが、この時のもう1匹の雌猫は拓麻早希さん、 この頃から娘役もやっていたとは気付かなかった。
 時間もないので全部の作品を取り上げるのは無理であるが、 私の印象に残っているのは「ガイズ&ドールズ」でのサラの救世軍の衣装。 帽子はフィナーレでのベレー帽だが、 あの赤いベレー帽、くららさんには本当に良く似合っている。 「大海賊」ではまだ上ずっていたのではないかと思われるが、 「ガイズ〜」ではしっかりと足を地に付けて演じられており、 くららさんとしても思い出深い作品だったのではないだろうか。
 知らない歌もあったけれど、最後は「キューティーハニー」で締めとなる・・・ えっ?キューティーハニー???
 どんな関係があるのかは知らないが、 サブタイトルの「くらくら7変化」も「ハニー7変化」から来ているようで、 最後は「ハニーフラッシュ」ならぬ「くらりんフラッシュ」での決めポーズとなった。 キューティーハニーにあやかってかなり色っぽい衣装ではあったが、 やはりまだまだお色気は不足気味であった。
 お次はゲストコーナーで、この日は一年上の北翔海莉さん。 一年違うだけだが新人公演で主役を経験したこともあるせいか、 くららさんの同期の男役よりは落ち着いていて安心して見ていられた。
 ソロの歌に続いてくららさんとのデュエット曲もあり、 その後は二人でのおしゃべりタイム。 ちなみに現在の「くらりん」と言う愛称は月組に来てから北翔さんが付けた名前だそうで、 宝塚おとめによれば当初は「くらら、もま、まいこ」となっている。
 最後は再びくららさんの歌が中心となるが、 和風の衣装が無かったのはちょっぴり寂しい気もした。 しかし早替わりの時間も限られているので、これは仕方のないことだろう。 洋装ばかりではあったが、最後のウエディングドレス風の白い衣装は爽やかで良かった。 これも若さの特権であると言えるのかもしれない。
 
 ショー全体を通して感じたことは、 良く言えば手作りの味が出ていて親しみが持てたこと、 悪く言えば学芸会風であり、プロらしさが薄かったこと。 これはくららさんにとって初めての経験でもあり、 舞台人としての経験が浅いことも影響していると思われるが、 どのように感じるかは観客それぞれで異なることだろう。
 ディナーショー慣れした上級生や卒業生に比べれば、 素人っぽさが出てしまうのは止むを得ないことだろう。 しかしそれは決して悪いことではない。 大劇場とは違って狭い空間であるから、 一所懸命にやっていれば自ずとその気持ちは伝わってくる。 技術的な優劣よりも、その気持ちの方が大切なことであると私は考える。 中にはつまらなかったと思う人もいるだろうが、 私にとっては十分に満足できるものであった。
 観客にとって最も重要なのは、宝塚ホテル「琥珀の間」と言う限られた空間において、 「マイ・スイート・メモリー」と言う限られた時間を、 くららさんと共に過ごせたことではないだろうか。 2日間を通してその時間を共有できたのは600人にも満たない人間であり、 その中の一人としてその場に存在することが出来たことこそ、 最大の至福の時間であったのではないだろうか。

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