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 細雪(6月5日帝国劇場)

 これまでに何度も上演されている作品ですが、 主役である四姉妹が全員初めての出演となる公演です。 主要な男優陣は皆経験者であり、 演出家も経験者なのでどうしても注目は四姉妹の演技に向くことになります。 勿論、その中でも檀ちゃん演ずる三女・雪子に目が行ってしまうのは言うまでもありません。 初日の公演で2階席後部からの観劇でしたが、 宝塚のショーとは違って高所から観た場合のメリットはありませんでした。
 
 以前見た作品と比べてちょっと不満だったのは、 長女・次女の線が細いような気がしたことです。 特に長女の場合には憎らしいと思うほどのふてぶてさがあっても良かったのではないかと思います。 次女の場合にはもっと感情の起伏があった方が良かったと思いますが、 まだ初日の公演で初顔合わせでもありますから、 これから徐々にこなれていくことと思います。
 末っ子である四女は一番現代人の感覚に近い人間なので、 四姉妹の中では一番演じ易いのではないかと思います。 そんなこともあって個々の演技については大きな問題はないと思いますが、 一つの演技から次の演技への繋がりに不自然さがあるような気がしました。 映画やテレビドラマではカットシーンを繋ぐのでそれでも良いのですが、 舞台の場合にはそうは行きません。 また、映画では自分の登場場面以外では力を抜くことができますが、 舞台の場合には台詞や動作が無い場面でも、 舞台上で小道具にならないよう存在感を維持しなければなりません。 四女を演じている中越さんはまだ舞台経験が浅いようなので、 こちらもこれからどう変わっていくか、今後の観劇で注目したいと思います。
 
 さてさて、肝心の檀ちゃんも久し振りの本格的な舞台でもあり、 やはり100パーセント舞台勘が戻ってはいないように感じられました。 もちろん個々の演技は無難にこなしているし、 雪子独特の「ふ〜ん」も自分流に工夫していたと思いますが、 中越さん同様動作が無い時の存在感がまだ希薄な印象を受けました。 まだ初日なのに厳しい見方かもしれませんが、 まだまだ十分に実力が発揮されているとは思えませんので、 敢えて合格点は付けませんでした。 尤も休演日が一日だけの長丁場なので、 最初から全力で飛ばしていたら途中でばててしまうかも知れませんが・・・
 この作品では四姉妹の着物も話題の一つであり、 場面毎に沢山の着物が用意されています。 ポスターに使われている着物は終幕で着用されますが、 これは物語の進行とは無関係なものと考えてよく、 正に見せるためだけの着物と言うことが出来るようです。 過去のポスター等を見るとそれぞれ違っていますが、 公演毎に4人とも変えているのか、 それとも出演者毎に個性を生かせるよう変えているのかは分かりません。 何れにしてもこの作品の最大の見せ場とも言える場面でもあり、 ポスターでは見られない後姿を見せながら幕が下りてくるので、 内容的には結構重い作品であるにもかかわらず、 後味のすっきりとした印象が残しての幕切れであると言えるでしょう。
 檀ちゃんの着物では一幕三場での薄い桃色を主体とした着物、 二幕三場での人形展での空色の着物が良かったですね。 着物選びがどのように行われたのかは知り得ませんが、 これだけの着物を揃えるとなると衣装代が嵩むのではないかと余計な心配をしてしまいます。 まあ衣装替えが多いとは言え4人だけの話なので、 出演者の多い宝塚の場合よりは安く済むのかもしれませんが。
 
 台本はこれまでの上演と同じかと思いますが、 演出では若干変わった箇所も見られました。 出演者が変わればその個性を生かすために演出が変わっても差し支えない、 と言うよりも当然そうすべきなのかも知れませんが、 残念ながら今回はちょっと興を削ぐような変更もありました。
 二幕三場、人形展での雪子と御牧との出会いは一番好きな場面なのですが、 これまでの公演では御牧は和服姿だったのに、 今回は背広での登場となりました。 和服の時は非常に冷静な人間であると言う印象を受けたのですが、 今回の背広での後姿はリストラにあった中年サラリーマン、と言うのが第一印象でした。 その後の雪子との会話でも存在感が希薄な印象を受けましたが、 御牧の演者は既に何度も出演している方だけに、 どうしてこのようなシーンになってしまったのか疑問が残りました。
 この作品はこれまでにも何度か観ているのですが、 出演者が異なるとはいえ何度も見ていると思わぬ所に目が行ってしまうものです。 三幕を通じて蒔岡家が主要な舞台となっていますが、 正面に見える山水画の描かれている襖、 内側の2枚が向こう側になっていました。 襖の奥は控えの間のような感じでしたが、 人の流れや襖絵の様子から内側の2枚が手前に来るべきだと思いました。 まあ戦前の関西の裕福な家柄であり、 関東の田舎の民家とは違っているのかもしれませんが、 妙に気になって仕方ありませんでした。 もちろん今までどうなっていたのかは全く記憶にありません。
 
 公演が進むに連れて檀ちゃんも勘を取り戻していくことと思いますが、 ぜひ努力して欲しいのは最後の場でのお手玉。 2個のお手玉でぎこちなく遊んでいましたが、 楽日までに3個でも出来ように練習してもらいたい! と言うのは冗談ですが、 これまでの雪子はどうだったかなあ〜っ、 と思い返してみました。 もちろんはっきりとした記憶には残っていませんでしたが、 3個で遊んでいた人はいなかったような・・・

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