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 飛翔無限・他(1月17日大劇場)
 先ずは90周年記念と言うことで話題になっている「飛翔無限」であるが、正直な感想
としては深く印象に残る物は無かった。日本舞踊を専門的にやっている人にとっては見応
えがあったのかも知れないが、一般の人を対象とした作品としては配慮に欠けたものでは
無いだろうか。
 元々日本舞踊は広い舞台で大勢の観客を対象としたものではないと考えられるが、如何
に春日野氏と言えども一人で舞っただけでは舞台を埋めることは出来なかったようである。
1階席では印象も異なるかと思うが、2階席から観ているとやたらと床等周囲の空間が目
立つだけであった。合唱隊を配しただけの質素な舞台装置もそれなりに意義はあるが、舞
に必要な空間だけを残して飾り付けを施し、観客の視線を集中させるような舞台装置にす
るべきであったと思う。
 春日野氏の舞にしても、若衆の舞では足元が不安定な感じに見受けられた。歌劇団の重
鎮なので重要な公演に出演させることは分かるのだが、新たな観客を集めるためには発想
の変換も必要なのではないだろうか。観客に見せるための作品と言うよりも、むしろ歌劇
団自身の節目を付けるための作品であると言うような印象を強く受けた。

 休憩を入れずに上演された次の「天使の季節」は、言うなればお祭り気分の作品であり、
単純に楽しむのなら適当な作品であると思う。ストーリー自体は単純であるし、観客に何
かを訴えると言う作品ではない。しかし深く考えることなく笑える作品として、宝塚にも
このような作品があっても良いと思う。
 春野さんの二役は作者の植田氏の狙いを良く理解し、適切に演じられていた。一つだけ
難を挙げるならば、国王の時の歩き方が気になった。必ずしも現実性を帯びる必要はない
のだが、大股でどすどす歩くのは頂けない。二人の仲間との会話ではアドリブ部分がかな
りあるようで、その流れからしてこの日に限らず内輪ネタが多いように見受けられた。本
来ならファンで無ければ分からないような内輪ネタは極力避けるべきだと思うが、これも
記念作品と言うことで大目に見ることとしよう。
 ふづきさんの役は割りと一本調子で行けるためか、この作品では好演していたと思う。
欲を言うならば、もっと羽目を外しても良かったかと思う。
 他の出演者ものびのびと演じていたし、喜劇としてのテンポも良かったと思う。ただし
王子を探し回るドタバタの場面は冗長に感じられたので、もっとメリハリを付けた方が引
き締まった舞台になるものと思われる。

 最後の「アプローズ・タカラズカ!」は、前記2作の流れの延長としては華やかさに乏
しかった。芝居が異例とも思えるような軽い作品だったのだから、ショーはそれを上回る
ような明るい作品にして欲しかった。
 特に気になったのは「裏街の堕天使」のシリーズで、全体の流れからして浮いた存在と
なっており、何故このような作品を持ってきたのか理解しがたい。この作品は3人の作者
による合作となっているが、誰もが全体の流れを考慮することなく、各人が自分好みの作
品を作ってしまったのだろうか。他のパートと色を変えてアクセントとする見方も無いで
はないが、記念作品としては適切とは思えない。
 特別出演は月組コンビだったが、18場の「90thプレゼント」では花組生との絡みは無い
ので、出演時間をもっと長くすべきであった。拍手の状態から判断しても紫吹さん目当て
の客は相当数いたようであり、これは前売り状況を見ても一目瞭然である。楽日を除けば
完売しているのは、何れかの組の特別出演のある公演に限られているようである。贔屓の
組で無くても特出のトップコンビ目当てで来る人が多いことは予想出来た筈であるから、
ファンサービスとしてもっと時間を振り当てるべきであった。
 特出の場面でかなりの人数の客席降りがあったが、2階席からでは全く状況が分からな
かった。B席だったのでなおさらかもしれないが、S席でも同様だったのではあるまいか。
客席降りは受けを狙うには手軽な方法であるが、それと同時に不満の種にも成り得ること
をしっかりと認識しておく必要があろう。
 フィナーレで特出コンビをエトワールとしたのは面白い発想であり、成功したと言って
良いが、再登場の仕方にはもっと工夫が欲しかった。

 プログラムから脚本が消えて久しいが、今回は更に不満な点に関して。芝居では多くの
人に固有名が付けられているが、逆に分かり難くなってしまった人もいる。主キャストの
ように説明が付けられていれば良いが、例えば鈴懸さんの「ポモドーロ」だけではどの人
物なのか分からない。劇中で名前を呼ばれたことも無かったはずであるから、慣れた人で
無ければどの登場人物が「ポモドーロ」なのか分からないだろう。固有名をもらうことは
出演者としては嬉しいことかと思うが、この場合には単に「看護婦」とした方がずっと分
かり易い。女官でも女官A・Bで何ら差し支えないと思う。以前にもやたらと固有名が付
けられた作品があったが、誰がどの役なのかさっぱり分からない作品であった。それぞれ
のグループ毎に並んでいるのならある程度推測することも出来るが、宝塚の場合には役に
関係なく香盤順に書かれてしまうので推測も困難となる。もっと配役を把握し易い編集を
して欲しいものである。
 プログラムの後ろには英文での紹介があるが、「飛翔無限」を「Endless Flight」とし
たのには違和感を覚えた。間違いとは言えないかもしれないが、余りにも直訳過ぎており、
細かいニュアンスは異なっていると言わざるを得ない。逆に英語でのタイトルを和訳した
とすれば、「終わり無き飛行」とでもなるのではあるまいか。「飛翔」と「飛行」とでは
明らかに異なるが、「飛翔」に相当する適当な英単語があるかどうかについては、私には
分からない。しかし適当な直訳が見つからないのであれば、むしろ意訳とすべきであると
思うのだが、如何なものであろうか。
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