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 永遠の祈り(12月29日シアター・ドラマシティ)
 この作品においても最初に指摘しておきたいのは、やはり脚本に関してである。第一印
象として受けるのは大きな山場が無かったことであり、平凡で印象の薄い作品であったと
言わざるを得ない。
 上演時間は2時間強であり、大劇場2本立ての場合の芝居よりも長い。しかし内容的に
観れば、むしろ希薄であると言っても差し支えないだろう。2幕ものとした場合には1幕
の終わりをどの場面にするかが問題となるが、このストーリー展開であれば適切な場面で
あったと言うことが出来る。この点に関しては異論ないのだが、問題は1幕と2幕の時間
配分である。両者の時間差が極端に開いてはまずいと思うが、この作品においては1幕を
もっと短くした方が良かったと思う。
 1幕の要点はルイ17世としてパリに出て行くまでであるが、こちらに関しては冗長と
思えるほど丁寧に描かれている。それに反して2幕最大の山場とも言える、偽者であるこ
とを告白するまでの心の変化は、余りにもあっさりとしている印象を受けた。やはり1幕
をもっと短くし、2幕でのジェラールの心情をもっと丁寧に表現するべきだったと思う。
大劇場での2本立て公演における1幕芝居であったなら、恐らくそのような時間配分にし
たのではないかと思うのだが・・・
 西洋史には疎いので時代背景についての詳しいことは知らないのだが、仮にマダム・ロ
ワイヤルの真の弟であったとしても、それはルイ17世となる資格を有するだけのもので
あり、直ちにルイ17世となることがありうるのだろうか。またルイ17世となった場合
にはどの程度の権限を有することになるのか、間接的な表現で良いから誰かの台詞に入れ
て欲しかった。そうでないとルイ17世とは命懸けで偽者を演じるだけの価値があるのか
どうかが、全く不明のまま終わってしまうので。

 個々の出演者に関しては、まずピエール役の涼紫央さんが気になった。死を目前にした
病人にしては元気すぎるのである。咳き込んだり台詞を言ったりする場面では病人である
ことを意識していたようだが、大股での歩き方は健康人そのものである。決して演技が下
手な人ではないし、病人として登場するのもそれ程長い時間ではないのだから、あらゆる
動作にもっと神経を集中して欲しかった。これからの有望株であるので、敢て苦言を呈す
る次第である。
 ジェラールの湖月さんに関しては、ルイ17世となることを決意してからの表現は良い
のだが、最初に見ず知らずのピエールを助ける純朴な青年の表現に工夫が欲しかった。湖
月さんは男役としてもきつい目をしている方だと思うが、ラダメス将軍のように力強さを
表現する場合にはその目が良く働いている。その反面今回のジェラールのような役の場合、
意識して役を作らないと素朴さが出てこない恐れがある。最初に登場するジェラールが素
朴であればあるほど、その後の野望も引き立つことになるので、これまた苦言を呈するこ
ととなってしまった。なおマダム・ロワイヤルに謁見してからの演技は、湖月さんの良さ
が良く表現されていたと思う。
 アンヌの檀れいさんの場合も、もっと田舎娘としての素朴さが強調されても良かったと
思う。全体を通して受けた印象としては、「愛のソナタ」におけるゾフィーとダブって見
えたことがあげられる。勿論両者の間には村娘と貴族の令嬢と言う大きな隔たりがあるが、
パリで暴漢に襲われたところを主人公に助けられる場面は、「愛のソナタ」の再演を見て
いるようであった。「銀ちゃんの恋」東京公演における「噂の玉美」ほどの奇抜なメイク
は必要ないが、もっと田舎指数(なんて言葉、あるのかな?)の高いアンヌを演じて欲し
かった。マダム・ロワイヤル邸での場面では、ジェラールを思う一途さは伝わってくるの
だが、場違いな所に踏み込んだ田舎娘の戸惑いも表現して欲しかった。檀ちゃんもトップ
娘役としてベテランの域に入りつつあるので、より難易度の高い演技に挑戦して貰いたい
のである。
 際立って存在感を示したのは、一樹千尋さんのロザルジェである。やはり専科の方の悪
役には迫力があり、平凡とも言えるストーリー展開を良く引き締めていた。同じ悪役でも
柚希礼音さんのコンスタンは線が細く、悪役としてはまだまだ力量不足の印象を受けた。
しかし柚希さんも正統派の男役として延びて行くであろう人だから、今回のような悪役を
やっておくことは、今後の役作りに有効であることと思われる。
 この公演で一番美味しい役を貰ったのは、百花沙里さんではないだろうか。出番はそれ
程多くはなかったが、フィナーレにおける輪っかドレスでの登場は、他の出演者が地味な
衣装であるだけに一際目立っていた。
 下級生では王太子役の銀河亜未さんが目を引いた。高度な演技力を必要とする役では無
かったが、楽しそうに演じていたのが好印象をもたらした原因かと思われる。男役として
はまだ未知数な存在であるが、次回の公演では注目して観ることとしたい。

 新聞の劇評かと記憶しているが、宝塚の舞台としては舞台装置に豪華さが見られないと
言うような記事を見たことがある。しかし私としては装置も衣装も何ら問題は無かったと
思っている。豪華さを追求すればどうしても費用は増大する。今回のように極めて短期間
の公演で外部の劇場を使うとなれば、経費を切り詰めることは絶対に必要なことであろう。
徒に豪華な舞台を造れば良いと言うものではない。
 最後に「永遠の祈り」と言うタイトルについて。これはアンヌの心を表したものかと思
われるが、今一つしっくりとこないものがある。あまり宝塚的では無いかもしれないが、
「野望の扉を開いて」と言うタイトルではいかがなものであろうか。
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