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 ドリーム・オン!(5月29日東京厚生年金会館)

 OG公演では定番となりつつある、鳳蘭さんを主体とした公演である。 しかしこの公演では出演者が17名と少ないこともあってか、 宝塚らしい華やかさには欠けていたと言わざるを得ない。 舞台装置も質素なものであったが、 これは予算の制約があったためであろうか。 あるいは公演先の設備を考慮してどこででも同じ演出で出来るよう、 特別な装置を必要としない舞台作りを進めたと言うことなのかもしれない。 全体の印象としてはエンカレッジコンサート(生の舞台は観ていないが)に近いもので、 ダンスシーンやMCがより多く含まれた公演だと思って良いだろう。
 まだ公演が始まったばかりのためかもしれないが、 東京公演にしては2階席の空席が多いのに驚いた。 恐らく観客の多くはこの作品を観に行くと言うよりも、 特定の個人が目当てで足を運ぶのではないだろうか。 となるとどうしても出演者が少ない場合には、 観客の数が減ってしまうのは止むを得ないことだろう。 モットもこれはこの公演に限ったことではなく、 宝塚歌劇団現役生の公演でも同じような傾向は見られるし、 他の劇団等の公演においても同様ではないかと思われる。 名前の知られた作品ならそのタイトルだけである程度の集客力が期待出来るが、 この公演のように「レビュー」と言うのは実際に観るまで内容を確認することが出来ないので、 行こうか行くまいか迷っている人も多いのではないだろうか。
 
 使われていた曲は殆どが宝塚の作品かと思われるが、 鳳さんが主役なのでかなり古い歌も多かったようである。 鳳さん以外にはそれ程古い人は出演していなかったのだが、 それでも観客層は比較的年配者が多かったように見受けられた。 歌が主体となるとどうしても知ってる歌でないと退屈しがちとなる。 となると観客は必然的に宝塚ファンに限られてしまうと思われるので、 やはり集客力は出演者個人の力量に頼ることになってしまう恐れがある。 この公演では現役生の全国ツアーでは行っていないと思われる会場もあるが、 そこでどの程度入るかに興味が持たれる。 ただし地方の中小都市では大都市に比べて娯楽が少ないので、 演目の一部をその土地柄に合わせて変更すれば、 宝塚ファンでなくても楽しめるようになるだろう。 質素な舞台であるが故にそのような変更は容易であると思われ、 出演者もアドリブ的な変更にも容易に対処できると思われるので、 それぞれの地方色を生かした公演となることを期待したい。
 特定の個人に注目して舞台を観ようとする場合には、 出演者が少ないことは逆に大きな利点となっている。 現役生の公演では出演者が多いので、 下級生の場合にはどこにいるのか探すのが大変である。 特にショーでは殆どの場合衣装が同じものであり、 それに動きが加わるのでなお更探し難くなる。 しかしこの公演ではトップ経験者を除けば男役が7人、 娘役は6人しかいないので容易に見つけ出すことが出来る。 現役時代には苦労して探し当てた途端に袖に引っ込んでしまい、 悔しい思いをした人も多いのではないかと思うが、 この公演ではずっと舞台上のご贔屓を追い続けることが出来るので、 そんな人にとってはかえって格好の公演であると言えるかもしれない。
 個人的には退団後の舞台を初めて観ることになる愛田芽久さんに注目していたのだが、 現役時代より少し細身になった感じで頑張っていたので安心した。 また真織由季さんや名前を改めた妃宮麗子(玲子)さんも、 現役時代と変わらぬ歌声を披露してくれた。
 
 この公演では当初は匠ひびきさんが出演する予定であったが、 体調を崩したので代わりに紫城るいさんと朝澄けいさんが出演している。 トップ経験者が男役3娘役1から男役2娘役2となったので、 構成はかなり変更を余儀なくされたのではないかと推測する。 しかし舞台を観た感じではその流れに違和感を感じることもなく、 代役で出演していると言う印象は全くなかった。 代役が決まってからの稽古時間がどれくらい取れたのかは知らないが、 やはり基本がしっかりしているのでこなすことが出来たのだろう。
 現役生の公演のような華やかさが無いのは止むを得ないが、 出演者はもう少し多い方が良かったと思う。 舞台装置や演出等は現状のままでも差し支えないので、 多少人数を増やしても著しく経費が増えることは無いものと思う。 出演者の招集にも困難なことは無いと思われるので、 次の公演があったら考慮してもらいたいものである。
 
 ※6月12日追記(6月10日小出郷文化会館)
 
 東京公演で若干客席が寂しかったので少しでも客席を埋めようかと思い立ち、 最も近い会場である隣県の新潟県の小出まで行ってきました。 例の悪名高い市町村合併で現在では魚沼市となっていますが、 私としては魚沼よりも小出の方が馴染み深い名前です。 隣接して南魚沼市も存在しますが、 コシヒカリの影響で「魚沼」の名前自体は全国的に知られていることと思います。
 会場への交通の便は悪いようなので前売りは入手せず、 当日の天候次第で行くか止めるかを決めることにしていました。 幸い午前中に県内の雨は上がり、三国山脈を抜けると青空も見えていました。 時間には余裕があったので小出駅から40分程かけて歩いていきましたが、 日曜午後であるにもかかわらず、 市内の商店街は閑散としたものでした。 初めて行く所では単に会場までの往復だけでなく、 ちょっと寄り道して歩いてみると色々と目に入ってくるものがあります。 旅と言うと大袈裟になりますが、 折角出かけていくのだからその過程も有効に使っては如何でしょうか。
 開演1時間前から当日券の発売が始まりましたが、 チケットが数枚余っている人がいてこちらから購入しました。 かなり左寄りの席でしたが5列目ということで、 双眼鏡無しでも十分に鑑賞することが出来ました。 席数が1100程の中ホールで舞台との距離が近いので、 銀橋を挟んでの大劇場の最前列と同じくらいの距離でしょうか。 座席の方も1階席はほぼ満席、2階席も後部に幾分か空席がある程度で、 思ったより入りが良いので驚きました。 長岡・新潟に続き同じ県内で3回目の公演となるので、 観客を集めるのに苦労すると思っていたのですが・・・
 
 基本的な構成は東京と同じだと思いますが、 鳳さんのトークではその土地ならではの話題を絡ませていきます。 こうした場面は鳳さんの得意とするところでもあり、 宝塚の枠を超えた『エンターテイメント』であると言う印象をより一層強くしました。 現役生の全国ツアーでも土地柄に合わせたMCはありますが、 やはり鳳さんとはキャリアの違いに著しいものがあります。
 客席降りでの「奥様お手をどうぞ」は鳳さんの定番となりつつあるようですが、 こういう場面は地方の方が意外性もあって面白いですね。 多分舞台の上から誰にしようか目星を付けているのでしょうけれど、 地元の人で宝塚とは縁の無さそうな人が選ばれていたようです。 初めての経験で戸惑いもあったでしょうけれど、 田舎の人は方言交じりで真面目に対応するので、 それがまた場内に笑いの渦を引き起こしていました。 勿論その笑いは嘲笑ではなく、 楽しさに溢れたものです。
 前方の席なので肉眼でも十分でしたが、 やはり折角持参したので双眼鏡は使いたくなります。 8倍の倍率なので本当に目の前にいるようであり、 弩アップになるので目が合うとドキッとしますね。 大劇場でも一番前の席で双眼鏡を使う人がいるようですから、 見られる方は慣れているのかもしれませんが。 ただし距離が近くなると舞台上で移動した時に角速度が大きくなるので、 動きを追いながら見るのはなかなか難しいですね。
 近くで見ると星奈優里と紫城るいさんの個性の違いも良く分かりました。 紫城さんは男役をやっていただけあって力強さが感じられましたが、 色気ではやはり星奈さんに軍配が上がるようです。 雪組時代に「JFK」で演じたことのあるマリリン・モンロー姿で登場しましたが、 当時よりも色気が増しているように感じられました。 ただし麻路さきさんと二人で歌い踊った「ごらんなさんい」は、 流石に苦しかったようですが・・・
 お目当ての愛田芽久さんは上手での出演が多かったように思いますが、 距離が近いので下手からでも十分におう事が出来ました。 角度が浅くなると前の人の陰に入ってしまう欠点はありますが、 これは止むを得ないですね。 下手で良かったのは唯一ダルマ姿で登場するラインダンスの時、 愛田さんが一番下手なので間近で見られたことでしょうか。 現役時代には子役が多くて色っぽい役は殆ど無かったと思いますが、 ぐんと色気が増していたので驚くと共にちょっぴり嬉しかったですね。 少し無理をして出かけて行った公演ですが、 来て良かった、と思える公演でした。

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