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 薔薇の封印(2月29日東京宝塚劇場)

 紫吹さんのサヨナラ公演と言うこともあって話題となった作品ではあるが、 やはり脚本に不満の残る作品であった。 互いに関連性のある4話形式と言うのは悪くない発想なのだが、 単に4つの異なった時代を寄せ集めただけであり、 肝心の関連性に欠ける作品であったと言わざるを得ない。 しかも結末は何が何だか分からないうちに終わってしまったので、 より一層印象の薄い作品となってしまった。
 副題の「ヴァンパイア・レクイエム」にしても作品との関連は薄いし、 「踊るヴァンパイア」と言うキャッチフレーズにも十分対応しているとは思えない。 ダンスシーン自体は多いかもしれないが、何れもストーリーに隠れてしまい、 強く印象付けるような設定とはなっていなかった。 これならばいっそのこと各話完結のオムニバス形式とし、 それぞれの最後にミニフィナーレのような場面を設け、 ショーの代わりとなるようなダンスシーンにした方が良かったと思う。

 最初に舞台を観て気になったのは、五つのバラの付いた十字架である。 雑誌の写真やCS放送で見た時には気付かなかったのだが、 実際に現物を見て赤いバラの位置が気になった。 もし赤いバラが十文字の交点の右下にあったとすれば、 そこは人間の心臓の位置に当たるので、深紅のバラにふさわしい位置だと思うのだが。 五つのバラ(宝石)にはそれぞれ意味付けがなされていたが、 物語の中で宝石が意味しているものが表に出ることは無かった。 となれば現在の肝臓の位置よりも、絶対に心臓の位置の方が優っているはずである。 心臓よりも肝臓に拘ったのは、脚本の小池氏が飲兵衛だったと言うことであろうか。

 第1話ではリディアの衣装と化粧が気になっていたのだが、 それ程『オバサン』っぽい感じはしなかったので安心した。 と言うのも、グラフ誌2月号の DressPress に載っていたリディアの写真からは、 限りなくオバサンに近い印象が滲み出ていたからだ。 何と言ってもリディアは一番「若い」ヴァンパイアなのだから、 オバサンにはなって欲しく無かったのである。
 第1話ではとても気になった台詞があった。 フランシスを見失った追跡隊の隊長殿、あの場面で「退却!」は無いぜえ。 「退却」と言うのは『負けて』逃げることなのだから、 この場合には「撤退」もしくは「引揚」と言って欲しかったなあ。

 第2話のハイライトは、何と言っても不死身のフランシスであろう。
  ♪フランシ〜スの場合は〜〜〜ダンスで鍛えたか〜ら死なない〜〜〜♪
うーむ、そうか。ダンスで鍛えれば良いのか。勉強になったわい。 しかしそこまでやるのなら、私は声を大にして小池クンに言いたい! ルイは世界中から名ダンサーを探していると言うのに、 日本が世界に誇る名ダンサーを登場させないのは何故かね?・・・と。 日本の誇るNo1ダンサーと言えば、 それが「こぶとりじいさん」であることに異論を唱える者はいないであろう。 いやいや小池クン、決して「小太り」じいさんではないから注意してくれよ。
 ダンスと言えば第3話になってから登場の五峰さん、ここでも登場させて欲しかった。 決してこぶとりじいさんになれとは言わないが・・・ そう言えばくらら嬢も第2話ではお休みである。 くらら嬢のこぶとりじいさんも、可愛らしいおじいさんになって面白いかもしれない。
 第2話でもう一つ気になったのは、ユーヒさん演じるフィリップ。 紫城ルイ、いや太陽王ルイの弟でありながら、全く日の当たらない立場となっている。 己の運命を変えるには、やはり思い切った行動が必要である。 前途を洋々たる進路としたいのであれば、大空ユーヒのままではいけない。 大空アサヒと改名して望んだならば、必ずや明るい世界が待っていたことであろう。

 第3話は一体なんだったのだろう。 突撃隊と親衛隊が対立していたのは事実に沿っていて良いのだが、 身元不明のミハイルが親衛隊の幹部になることはあり得ない。 それに兵が小銃と拳銃の両方を所持することもあり得ないことである。 責任が演出者と衣装係のどちらにあるのかは知らないが、 もっとしっかりと勉強してもらいたいものである。
 ポーラはシャンデリアの場面が人気があるようだが、 私としては「おもちゃの兵隊」姿の方がキュートで良かった。 「ガイズ〜」の時はロングスカートだったが、断然今回の方が良い。 しかし左手で敬礼をする軍隊は無いし、「大将になるには」二等兵から始まることは無い。 どこの国でも下士官階級から教育機関に入隊するのが一般的である。 公平ちゃんも海軍兵学校にいたのであれば、 若い演出家たちにしっかりと指導して貰いたいものである。
 フランシスはロシアの亡命貴族と言う設定だったが、 この時代でもまだ貴族階級が残っていたのだろうか。 ロシア革命以前からの貴族であったとするのも、年月の経過が長すぎる気がする。 しかし私も詳しいことは知らないので、深くは追求しない。
 フランシスへのヴァンパイア調査で、ニンニク や十字架は 余りにも陳腐過ぎる。 折角若返った「ドクトル」が登場するのだから、 やはりあの大きな注射器を持たせるべきであったろう (意味不明な人は、「LUNA」のビデオを見てね!)。

 第4話の目玉は、やはり皆さんに人気のある「冷凍カプセル」であろうか。
 しかし不死身であるはずのフランシスがあっさりと捕まってしまったのは、 余りにも不自然すぎていただけない。 フランシスを捕えるのに超音波云々と言っていたような気がするが、 これはヴァンパイアをこうもりに見立てていたと言うことであろうか。
 カプセルの外からの声は聞こえるが、中からの声は聞こえないというのも?である。 しかし中からの声が届かないのであれば、 フランシスはジェスチャーで自分の意思を伝えるべきであったろう。 いっそのこと日替わりで毎日問題を出し、ジェニファーに当てさせるのも面白いだろう。 正解が出ずに翌日まで公演が続いても困るので、制限時間は5分程度としておけば良い。
 カプセル内のフランシスの衣装は捕われた時のままであったが、 ドクトルの実験対象となっているのだから、衣装は替えるべきであったろう。 勿論あの冷凍カプセルにふさわしい衣装と言えば、 「つきのしらたまさん」以外には考えられない。

 最後は分けの分からない結末となってしまったが、 「悪しきヴァンパイア」についても大きな疑問が・・・ 世界征服を狙うのであれば、昔の方がずっと簡単だったはずである。 封印される前に実現していてもおかしくは無いのだが・・・

 個人的に見ていくと、五峰さんのダンスは流石に切れ味が鋭い。 紫吹さんとももっと踊る場面を作って欲しかった。
 美原さんもこの公演で退団すると言うのに、出番が少ないのが不満であった。 第2話のモンテスパン夫人は彼女の持ち味が出ていて良かったが、 他に目ぼしい役が無かったのは脚本家の怠慢と言うべきであろうか。
 同じく退団者では花城アリアさんが気になったが、 最後のエトワールではもっと長く歌って欲しかった。 最近では抜群の歌唱力を持っているので、 下級生ではあってもその長所を生かせるような作品にして欲しかったのである。
 娘役も板に付いてきた紫城るいさんは、サラの役が印象的だった。 長身で男役を経験しているだけあって、他の娘役には無い独特の雰囲気を持っている。 劇団が上手く使って行けば、今までに無い新しいタイプの娘役となることであろう。 ただし夏河ゆらU世となる可能性もあるので、今後も注目して見ていくこととしよう。

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