『部屋とYシャツと私』

「曽根。それ着て帰れ」
岡町が示した白い紙包みを開くと、なんのへんてつもないワイシャツが二枚入っていた。
「それだったら、学校でも文句は言われない」
確かに規定のシャツとほぼ同型なので、曽根は一枚とって袖をとおしてみた。岡町はそれに押しかぶせるように、
「涼しいだろ。はやく乾く素材だから」
「……まあ、そうかな」
首を傾げた曽根の、切り揃えた髪がさらりと流れる。岡町はわざとそっぽを向いて、
「やるよ。オマエ暑がりだから、そういうのがいいと思って」
「なぜ二枚も?」
「洗いがえだよ」
「ふうん」
うなずきながら曽根がまた脱ごうとするので、岡町はその腕を押さえた。
「だから着てけ。痕、ついてるから」
「そのために、わざとつけたのか?」
真顔で問われて、岡町は赤くなった。
「そうでもしないと何処でも脱ぐだろう。見せびらかす気か? 何が《勝負に負けたら脱ぐのが基本》だよ。冬でも学ランの下にランニングしか着ないで。あっという間に裸になっちまうだろうが!」
曽根もその白い頬を、うっすらと染めた。
「……少しでも、岡町に早く来て欲しいんだ」
「オマエの大バカヤロォ……」
殴る真似をする岡町を曽根がうけて、そのまま二人とも布団に倒れ込む。
熱く見つめあい、もう一度顔を重ねようとした瞬間。
「にょー」
鞄の中から小さな声がして、曽根はハッと飛び起きた。
「そろそろ帰らないと。ロムが腹をすかせてる」
「なら、まっすぐ帰るな? 銭湯やゲーセンに寄ったりしないな?」
「心配なら、家までついてくるか?」
「オマエって奴は、どこまでも……」
岡町が拳に息をふきかけると、曽根はもらったシャツに袖を通しながら、
「ロムにだって、最後まで見せたことないから」
「え」
眼鏡をかけなおし、曽根ははにかんだ顔で岡町の耳に口唇を寄せた。
「岡町、だけだよ」

(2004.9脱稿/2005.1改稿・初出『おかそね』合同誌)

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Written by Narihara Akira
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