『罪な男』


「三成様ってさー、マジ、罪な男って奴だよな!」
「そういうところ、ありますよね」
「刑部さん、すげー生殺しなんじゃね? 俺のこと探しに出てくれた時も、ほったらかしにされちゃったわけじゃん? マジでいいんすか、それでっていう。それとも刑部さんって、そういうの超越しちゃってんの? さすがの解脱状態?」
「そんなことはないですよ。さすがに、三成様が長くご不在の時は」
「綺麗な小姓さんとか、馬廻衆の人とか、来させてやってんの」
「そういうことはないですよ」
「じゃ、自分でしてんの?」
「そうみたいです」
「あーあ、やっぱ刑部さんも、完全に三成様一筋になっちゃてんのかぁ。だったら三成様も、もうちょっとガンガンいって欲しいよな!」
「そうですよね。あんなに仲睦まじいなら、毎晩でもおかしくありませんし」
「まー、刑部さんの身体のこと考えてんだろうけど、三成様だって、そんなトシじゃねーじゃん? 刑部さん、焦れってぇよな。三成様らしいっちゃらしいけど、そんなに欲がねえのも、なんてぇかさぁ!」


三成はその場へ出ていけなかった。
いつもなら、左近達の立ち話を叱責して、持ち場へ戻らせるところなのに、むしろ物陰にひそんで、腕で顔を押さえていた。
頬が赤いのが、自分でわかる。
身体の奥が疼く。
《刑部が……自分で……!》
三成は急ぎその場を離れ、吉継が使っている湯屋へ向かった。
番をしている小姓に声をかける。
「身を清めたい。半刻、いや四半刻でいい、人払いしてくれ」
「どうぞ、ご随意に」
三成は急いで服を脱いだ。ここは病人の吉継のために、近くの温泉から湯がひかれているので、常に湯煙がたっている。下半身に湯をかけ、壁際につくりつけられた腰掛けへ座ると、三成は己のものに掌を伸ばした。
既にすっかり熱くなっている。
《ぎょうぶ……》
一人の時の吉継が、どこを、どんな風に触れるのか。
想像だけで、三成は欲情してしまっていた。
自室へ戻って鎮めることも考えたが、昼のうちは誰がくるかもわからない。湯屋ならば探しに来る者も少なかろうと考えて、ここへやってきた。
己のものをさすりながら、三成はため息をつく。
《あの、口吸いの好きな刑部が、ひとりで……》
口唇を重ねると、吉継の身体はふっと柔らかくなる。そのまま甘えてくる時もあり、すこし羞じらう風をみせたり、なにか堪えているような様子も見せる。どれもたまらなく可憐で、三成の胸は高鳴る。「われは淫乱の性ゆえ」などと、かすれた声で呟きながら、更にくちづけをねだってくるのも愛らしい。こんなにも自分を求めてくれるかと思うと、たまらない気持ちになる。たまに吉継が、ふっと顔をほころばせると、眩しすぎて目をそらしてしまうぐらいだ。自分の下でどんなに乱れようと、蔑む気持ちなど起こらない。むしろ、もっともっと喜びを与えたくなる。
吉継の紅い舌を吸い上げ、自分の舌でからめて味わうと、待ち焦がれていたかのように、もたれかかってくる。感覚が麻痺する病に冒されていながら、三成が触れると身を震わせるのだ。愛おしくならなかったら、嘘だろう。
みつなりぃ、と甘え声を出す頃には、熱い秘孔はキュウキュウと締めつけている。少しでも焦らすと、腰を揺らして「早う」と催促する。その具合の良さに頭の芯まで痺れ、この快楽をもうしばらく味わっていたいと思いながら、共にのぼりつめたくて腰の動きを早める。淫らな水音がさらに二人の熱を煽り、最後には――。
「ぎょうぶ……!」
達しようとした時、人の気配に気づいて、三成は思わず手の動きをとめた。
黒い羽織姿の吉継が、目を丸くして三成を見ている。
弁解の余地もない姿だったが、吉継は何も言わず、するりと着物を脱いで包帯だけの姿になると、輿を降ろして三成の前に、よろりと立った。
「われが欲しいか」
「欲しい」
三成は即答していた。
吉継の瞳は潤んでいた。三成の痴態を見て、彼もまた欲情しているのだ。
「われもよ」
三成の腰をまたぐと、濡れて赤黒くひかっているものを秘孔にあて、ゆっくり飲み込んでいく。
「ああっ」
三成は喘いだ。熱い秘肉に包まれて、そのまま暴発してしまいそうだった。
だが。
「ぬし、こんな明るいうちから……われが、おるのに……」
恨みがましい囁きに、思わず三成は首を振った。
「私が欲しいのは貴様だけだ」
「なら、なぜよ」
腰をくねらせ、三成をさらに締めつけながら、
「一人でせねばならぬほどの欲が、ぬしにあるなどと、われですら驚くわ」
「違う、刑部、私は」
吉継は三成の首に腕をかけ、口の脇にくちびるを押しつけると、
「われを思ってしていたと? だがな、病に朽ちかけた身の、もっとも穢れた場所よ。遠慮せず、いくらでも欲を吐き出せば良い。ぬしの精でたっぷり濡らされた方が、乾かずにすんで、長持ちしよ」
「貴様はどこも、穢れてなど……!」
三成は吉継の腰を抱え、激しく揺すり始めた。
深く犯され、良いところを突かれて、吉継の喉からも甘い喘ぎが漏れはじめた。
「ああ、ああ、みつなり!」
二人とも泣き声に近い声をあげながら、何度も何度ものぼりつめた。
声を殺すことすら、忘れていた。


《燃えた……》
吉継を抱きしめながら、小姓に人払いを命じておいてよかった、と三成は思った。
あとで着替えを持ってこさせないといけないだろうが、それまで身体を冷やさぬよう、湯につかっていてもらえばいい。いや、あるじが湯殿に入ったのだから、一式を続きの間に用意して控えているとは思うが。
「刑部? 大丈夫か」
吉継は首を振った。
しかたなく三成は、吉継の身体を抱え上げた。
「あ、漏れ……」
吉継はうめいた。三成のものが抜き出されると、その秘孔から白濁が滴りおちる。三成は吉継を抱くようにして運び、洗い場にある細い湯栓の一つを開いた。吉継の腰に湯があたるようにすると、その刺激で、残っていた物も流れ落ちる。包帯をほどき、湯をかけて肌をもう一度清めてから、手を添えて、ともに湯船に入る。
「無理をさせた」
膝にのせるようにして、腰から脚をもみほぐしてゆく。ふるふると首をふる吉継の頬に、三成はそっと口づけて、
「どうした。つらいか。あまり触れない方が良いか」
「みつなり」
吉継は目を伏せたまま、
「なぜ、ひとりで、しておった」
「私の留守に、刑部がどうしているのか、ふと考えてしまっただけだ」
「ぬし、存外、いやらしい男よなァ」
「そういわれても仕方がないが、堪えきれなくなって、つい……しかし、貴様、ひとりの時は、本当はどんな風にしているんだ?」
吉継はそっぽをむいて、
「別に。特に不自由もしておらぬゆえ」
「ひとりではしない、か」
可愛い、と思いながら、その横顔を見つめていると、
「そんなことが知りたいか。ぬしとて、元々、ひとりではするまい?」
「ああ。いや、子どもの頃は……紀之介のことを考えながら、しなくもなかった」
「われと寝る前の話であろ」
「紀之介のいない晩に、ふと、きざす時もあったし」
「さよか」
「刑部」
「ん」
「私は物足りないか」
「やれ、足るほどに頂戴したわ」
「そうか」
「のぼせるゆえ、いつまでも、ここへつけておくでないわ」
「ああ、すまない」
三成が立ち上がろうとすると、吉継は上目遣いで、
「ぬしがひとりでしているところを見てしまったからには、われがしているころも見せ、などとはいうまいな?」
あ、と三成は声を出しそうになった。
見せてもいい、と思っているのだ。
つまり、吉継も燃えたのだ。普段と違う相手の様子に興奮してしまったのだ。不機嫌なのは、まだ、余韻を味わっていたくて。
三成は吉継の首筋に頬を埋め、
「見たいが、見たら、こらえきれないからな」
「こらえきれなかったら、どうする」
「刑部が湯あたりしたので、介抱していました、という」
「ぬし」
三成は吉継を抱きしめながら、
「明るいうちから湯屋でするのも悪くないが、やはり、床を敷いて初めからしたい。淫乱な私は、いやか?」
吉継は、三成の腕の上に自分の腕をかさね、
「われも、とこが、よい……」


その瞬間、全身を突き上げるような喜びを感じながら、三成の頭の隅をよぎったのは、噂話の切れ端と「私より刑部の方が、よほど罪な男だ」ということで――。


(2016.1脱稿)

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Written by Narihara Akira
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