『犬も食わない』


十万円握りしめて飛び出した。後はお気に入りの本とタブレットと着替え。飛び込みで泊まれるゲストハウスを電車内で探す。朝食とランドリーつき、連泊で格安。一週間で予約した。宿に着くと荷解きもせずにこんこんと眠った。夕食を食べに出たら、電話ボックスを見つけたので友人にかけた。「どこにいるの」彼女は言った。「うちにも電話がきたよ、探してるよ?」「ポーズだけだよ。前もそんなこと言って、私を見つけられなかった」「電車の音がしてる、江ノ電沿線? 今度きかれたら言うよ」「いいよ。そのヒントで見つけられるならたいしたもんだ」電話を切る。あいつはこない。こなくていい。どのみち帰る。やりなおすつもりは、まだある。


(2020.6脱稿、300字トラベルアンソロジー『ANYWHERE!』寄稿作品。ベタうちなのはレイアウト制限のため。このアンソロの売り上げの一部は、日本赤十字社に寄付されます。

《その他創作のページ》へ戻る

《推理小説系創作のページ》へ戻る

copyright 2021.
Narihara Akira