『Time Slips』

1.WONG/KEITH

抱きしめられ、首筋を吸われて甘い吐息を洩らすと、ウォンが低く囁いてきた。
「いいですか、キース様」
「……うん」
いいですかって、どういう意味だろう。気持ちがいいかどうかを尋ねてるのか、このまま続けていいかどうかをきいてるのか。
どっちにしても答はイエスだから、別にいいけど。
キースが情感に溺れてうっとりと見上げていると、ウォンは瞳の底を青くひからせて、
「今日はちょっと念入りにしますから、途中で止めて欲しかったら、《怖い》とか《もう駄目》とか、ちゃんと言って下さいね」
変なことを言い出す。
脅かすのが好きな男だな、そんなにひどくしないくせに、とキースは軽くうんざりしながら答えた。
「僕がそう言ったら、やめるのか?」
「ええ。すぐに止めます」
「じゃあ、言わない」
それより早く、続きを。
「なら、止めさせたい時、なんて言うおつもりです」
だから、やめさせたくなんか、ないんだったら。
早く。
久しぶりなんだから。
本当はもう、待ちきれない。
なんのために、こんな風にホテルで密会してると思ってるんだ。
軍とノアに別れて、ただ逢うことさえなかなかままならないのに。
「君の好きにしたらいい。僕は別に平気だ」
「泣いても手加減しませんからね」
ウォンは大きな掌で、キースの華奢な肩を撫でながら、
「《やめて》とか《許して》なんて貴方の口唇からきいたら、それこそ止められなくなってしまいそうですし」
「だから、言わない。思うとおりにすればいい。だいたい、この間の反撃をするんじゃなかったのか、君は?」
ウォンの声が、そこでぐっと低くなった。
「……そうですね。それでは、遠慮なく」

「本当に言いませんでしたね、キース様」
キースは口がきけないでいた。
全身ぐしょ濡れだった。汗と体液で。
頬も髪も、涙でたっぷり濡れていた。
つらいなんて、もんじゃない。
終わってしばらくたつというのに、身体の震えが止まらない。
ウォンが押し入り、押し広げた内部がまだ元どおり塞がりきっていなくて、その質量を求めてひくひくと蠢いている。もう一度入れて欲しい、とばかりに。そして、実際今すぐ犯されたら、キースはその瞬間に達ってしまうだろう。だから、本当に入れて欲しくはなかった。感情の振り子が、いっきに振り切れてしまいそうで。
「余韻を楽しんでらっしゃる?」
うなずくしかなかった。
はじめて知った。
本気のウォンが、こんなに激しくて、こんなに巧みだったなんて。
確かに、今までも泣くほどよかったことは、何度かあった。
でも、それは二人の気持ちが高まっている、特別な時に限られていて。
しかし、今晩は違った。
言葉で責められたり、焦らされたりなぶられたりした訳ではないのに、快楽以外のすべてを忘れた。
その愛撫の的確さが、怖かった。
恥ずかしい声が出ても、恥ずかしいと感じる余裕さえなくて。
「大丈夫ですか、キース様」
半ば放心状態のキースに、ウォンはあえて触れずに尋ねる。
キースは本当は、ぎゅっと抱きしめられたい。いつもの静かなウォンだと知らせて、安心させて欲しい。
しかし、そんな心を見透かしたかのように、ウォンは触れてこない。
キースはようやく、小さく呟いた。
「いつも全然、あんなじゃないのに……いったい、何を……」
ウォンはいつもの不思議な微笑を浮かべて、
「久しぶりで、そんな風に感じただけですよ。いつもとそんなに変わりません」
嘘だ。
妙なことわりを入れたくせに。
そうでなくとも、ウォンの大きさが、その反りかえりが名残り惜しくて身体が震えるなんて、初めてなんだから。
濡れた瞳でにらんでいると、ウォンはそっと身体を寄せてきて、
「キース様が、感じすぎるのが厭だとおっしゃるなら、もう少し優しくしますが」
湿った髪を撫でながら囁く。キースはぷい、と顔をそむけて、
「そんなことは、言ってない」
「それなら、もう一度。さっきのがつらくないなら、もっと感じさせてあげます」
「う」
キースはきつく口唇を結んだ。
愛撫どころか、抱きしめられるだけで、つらくて。
必死で身体を硬くして拒むと、ウォンはそれを優しくほぐしにかかった。
「もっと欲張っていいんですよ? 安心して乱れて下さい」
「や」
キースの理性の糸が、ついにそこでプツリと切れた。
「感じすぎて、つらいから。だから、いつもどおりに……!」
涙を絞って、ウォンにしがみつく。だが、ウォンはなだめるようにその背を叩いて、
「そんなにつらいなら、少し間をおきましょうね」
「あ、離れちゃ……」
「それでも欲しくて、たまらない?」
「ほし……あ」
全身がカッと火照る。
どうしよう。
何を口走ってるんだ、僕は。
でも、物凄く恥ずかしいのに、身体がウォンから離れようとしてくれない。
どうしよう。
また、涙がどっと溢れてきた。
馬鹿だ、僕は。
せっかく一緒にいられるのに。
離れようとする必要なんて、ないのに。
「やっぱり、君じゃなきゃ、嫌だ」
ウォンの動きが、一瞬止まった。
びっくりしたように、キースを見つめている。
キースは構わず叫んでいた。
「嫌なんだ。もうこれ以上、君と離れていたくない。君がいてくれないと、僕は、おかしくなる……!」
「キース様」
次の瞬間、きつく抱きしめられて、キースはふっと力をぬいた。
ああ。
いつものウォンだ。
愛を伝える方法を、抱きしめることただ一つしか知らないような、不器用な抱擁。
本当の意味で、裸のウォン。
僕の好きな。
だが、キースが安心して相手の胸に頬を押しつけた瞬間、次の囁きが降ってきた。
「じゃあ、もっとおかしくしてあげましょうね。……私の、身体で」
「あ、や、そんな!」
それから文字どおり、キースは乱れ狂った。
欲しかった。
リチャード・ウォンの、何もかもが。
欲しくてたまらず、自分からのみこんだ。自分から口づけた。広い背にしがみついて、きつく爪を立てた。
ああ。
僕は。
僕は、もう……駄目だ。

「ほう……」
翌朝、キースより先に目覚めたウォンは、傍らに眠る恋人を見つめて、深いため息をついた。
昨晩は、とても良かった。
キース様も感じていらしたが、私自身も、とても。
ウォンの愛撫の的確さは、種を明かせばまったく簡単な事で、キースに何度か抱かれてみたことで、キースが愛撫に何を望むのか、その最後のコツが、具体的に掴めたのだ。どこらへんで身体を止め、どこらへんで焦らし、どこらへんで達かせてあげれば一番喜ぶのかを、ウォンは肌身で再確認したのだ。
ただそれだけの事なので。
それにしても、昨晩のキースはおそろしく可愛かった。
喜びに悶える姿も、極まってポロポロと涙をこぼす姿も。
恥ずかしがり屋のキース・エヴァンズがあんな風にあられもなく乱れるのはめったに見られるものではない。平気だ、とつっぱる様子も大好きだが、それが崩れて戸惑いだす時の表情は、もっと好きだ。愛しい。
しかも。
《やっぱり、君じゃなきゃ、嫌だ》
《もうこれ以上、離れていたくない》
《君がいてくれないと、おかしくなる……!》
愛撫の最中に、あんなことを口走って。
ああ。
いつもの陸言だと、わかってはいるけれど。
たまらなかった。
もっと優しくしてあげたかったのに、思わず本気でむさぼってしまった。
気持ちを、止められなくて。
我を忘れて。
なにしろこっちも、まったく同じ気持ちだったから。
「そろそろ私も、限界です……」
いや。とっくの昔に限界だった。
もう、離れてはいられない。
例の計画は、すでに始動していた。
もし同意が得られなくとも、この道を選ぶと決めていたからだ。
もう一度、貴方の側に、戻りたい。
厭では、ないですよね、キース様?
ウォンはベッドを降り、眠るキースの瞳の上に、うすみずいろのアイピローを置いた。疲れを癒すという、ラベンダーの香りがあたりに微かに漂う。もう少し眠っていて下さいね、と小さく囁くと、ウォンはローブを羽織って、テーブルの上で携帯用端末を開いた。
暗号通信が入っている。
軍からのものだ。
《例の素体が、研究所を脱走しました。追っ手をかけましたが、未だ見つかりません》
ウォンはそれを見て、うっすら微笑んだ。
撫でるような軽いタッチで返信を打つ。
《追っ手をかける価値のある素体でもないでしょう。彼の能力はもう調査済みですし、軍内での記憶も、完全に消去してあります。逃げきったとしても何の心配もいりません》
それにいずれ……と言う言葉を打ち込みかけて、ウォンは止めた。
いくら軍の連中が愚か者ぞろいだからといって、多くの手がかりを与えるのは得策ではない。そのまま返信することにした。だいたい、あの連中の追っ手に殺られてしまうようでは、その程度の力の持ち主ということになる。あたら美少年の命を散らすのは惜しくもあるが、それが彼の運命だというなら、それはそれ。仕方がない、としかいいようがない。
駄目ならまた、別の素体を探すか、次の策を考えるまでのこと。
打つ手はまだ、いくらもある。
《とにかく、完全なハンターを望んだのは、私でなく軍上層部であることをお忘れなく》
そこまで打ち込んで送信し、通信端末の蓋を閉じた。
ハンター、か。
悪くない。
たぶんこれは、悪くない……おそらく。

「ん」
キースは、目蓋の上に軽い重みを感じて、軽くうめいた。
微かな、ラベンダーの香り。
ウォンが目隠し代わりに何か置いたのか、と醒めきらない意識の中でキースは思う。
胸が、甘酸っぱく疼いている。
ふだんの彼なら、身体の喜びを十二分に味わった後は、むしろさっぱりとした気持ちになる。憂いをぜんぶ洗い流したような。
それなのに、今朝は違う。
身体も、ジーン、としたままだ。
ウォンが傍らにいたら、その掌を探して、自分の胸に押し当てたい。
いま感じているこの不思議な気持ちを、知らせたい。
なんていうんだろう、こういうの……ええと、《惚れ直した》とか?
「お目覚めですか、キース様」
ウォンはベッドに、もう一度滑り込んできた。
熱い身体が、キースをそっと抱きすくめる。
アイピローは、そのままするりと脇へ落ちて。
「あ……朝から?」
「ええ。我慢できない」
嬉しい。
ウォンがこんなに積極的に触れてくるなんて。
僕はこういう朝を、ずっと夢見てたんだ。
キースも思わず、相手の腰に腕を回す。
「ウォン……僕も、欲しい……」
そのまま、しばし激しくもつれあう。
熱情はすぐに溢れこぼれ出す。喜びの泉の底へ、焦らすこともテクニックもなしに、二人はためらわず深く沈んでゆく。お互い知り尽くしているはずの肌身なのに、初めてのような興奮に包まれ、乱れた。
やっと肌を離すと、うっとりとウォンが囁いた。
「すっかり感じやすくなりましたね、キース様」
「君が、こんな淫乱にしたんじゃないか」
キースは疲れた身体をぐったりと投げ出したまま、
「どうして、もっと早く、こんな風にしてくれなかったんだ?」
「えっ」
「百戦錬磨のくせに。僕をトロトロにとろかすなんて、君のテクニックで簡単にできたろう。僕を性の奴隷にすることだって。だのにどうして、こんな、今になって……あ」
ふっと涙がにじむ。
わかってる。
最初から濃密な愛撫をほどこされたら、僕はウォンを信じなかった。こういう手で男も女もたらしこんでいくのか、とむしろ冷静に楽しめたろう。
でも、そうじゃなかったから。
素顔のウォンがあんまり不器用だったから、心まで開いてしまったんだ。
僕だって別に、愛欲の奴隷になりたい訳じゃない。
けど。
二人でしっかり抱き合っていられる時間が、こんな僅かしかないのに。
それなのに、今更こんな喜びを教えるなんて。
苦しくなる、ばっかりだ。
「やっぱり君は、意地悪だ」
「キース様」
その涙を口吻でぬぐうと、ウォンはキースの掌をとった。
「もし、よろしかったら、しばらく、二人っきりで暮らしてみませんか」
「え」
キースはやっと我に帰った。
「どういう意味だ。まさか、もうあの街へ……?」
「ええ」
《あの街》――キースとウォンが計画した、ノアでも軍でもないサイキッカーの居場所。
戦いを好まない超能力者が、普通に生活を営める街。
完成の暁には、キースもそこへ行くつもりだった。人工的につくられたコミュニティにはまとめ役が必要だ。影の指導者として、立案した本人自らが動くつもりでいた。
しかしまだ、その計画は半ばだ。街の表向きの体裁は整ってきたものの、セキュリティその他の面での不安が大きい。そこへ軍司令官とノア元総帥の二人が、堂々と乗り込んでいく訳にはいくまい。計画そのものをぶちこわしてしまう可能性すらある。
「あの街がお嫌でしたら、別の場所でも構いません。互いの立場を捨てて、ひっそりと隠れ住むしばらくを、私に下さいませんか、キース様」
「無理だ。生きている限り、僕らには今の肩書きがつきまとう」
「そんなもの、どうとでも」
ウォンは柔らかく首を振ったが、キースは口唇を噛んで、
「君はいい。軍籍を離脱するのは、君にとってはたやすい事だろう。その資力さえあれば。元々実業家で、軍の人間でもなんでもないんだから、何処へいったってどうとでも言い抜けができる。その気になれば、軍サイキッカー部隊を潰すことだって容易だろう。だが、僕は……ノアには、私という人間がいなければ……」
「本当に、そう思っていらっしゃいますか」
ウォンの指が、キースの胸の突起に触れた。
クッと強く押すようにしながら、
「カルロ・ベルフロンド……」
そう囁かれて、キースはビクッと震えた。
「彼とのセックスは、そんなに捨てがたい味が、ありますか?」
「!」
ウォンはやおらキースにのしかかると、まだ濡れている場所を押し開き、押し入った。
「あうっ」
キースは悲鳴に近いうめきを洩らすが、ウォンはその細首に手をかけて逃さない。
一瞬前とは別人の、鬼相。
ぐっと低く押し殺した声で、
「貴方を独りぼっちにしたのは私で、これは自分が招いた事態とわかっているのに、十三本の剣で何度切りさいなんでも飽き足らないほど憎いんですよ。よりによってあの若造が、貴方を犯すなんて……嫉妬で気が狂いそうです」
「ちが……」
「ああ、こんな時でも絡みつくようですよ、キース・エヴァンズ。でも本当は、私のものでは、もう物足らないんでしょう。貴方をこんなに淫らにしたのは、そう、あの男」
「違う!」
キースは必死になってウォンの手を振り払った。巨体の下から抜け出し、傍らのローブを掴んで部屋の片隅へポーンと飛んだ。
「違う。カルロがいるからノアを離れられないのは事実だが、君がいっている意味でじゃない」
キッとウォンをにらみ据える。ウォンの顔から憤怒の表情が消える。
「では、どういう意味です」
「カルロは暴走している。新生ノアの名目で。昔はオドオドして、私を頼るしか能のない男だったのに、最近は変な自信がついてきたらしくて、私の見ていない場所で勝手をやっている。私一人では押さえきれないほど、余計な真似を」
その声は震えていた。
「ノアはもうかつてのノアじゃない。私のノアではない。しかし、集まってくるサイキッカーは、私の名を、私の存在を求めている。皆の前に立つ事も、テレパシー放送もしないのに、彼らは次々にやってくる。だからもし、私が今ノアを抜けたら、カルロは幻の総帥として、私の名を利用し続けるだろう。それだけは、どうしても堪えられない……!」
「では、新生ノアは、潰しましょう」
さらりと言って、ウォンはベッドを降りた。
ギクッとしたままキースが相手を見つめていると、彼もローブを羽織りなおし、いつもの微笑を浮かべてゆっくり近づいてきた。
「貴方がそう言って下さるのを、待っていたんです。知っていました、新生ノアの動きがおかしいことは。弱体化しているだけではない、理想郷というよりはむしろ狂信集団に近くなっています。貴方の本意とまるっきり正反対の方へ向かっている。それを貴方が、とめたいと思わない方がおかしい。……ですから、いっそ、潰してしまいましょう」
「貴様……」
キースの身体は、微かに冷気を放っていた。
相手の次の言葉次第では、攻撃を仕掛けるつもりだった。
どこまで僕をもてあそべば気がすむ、リチャード・ウォン。
また仲間達が犠牲になるのか。
こんな恋の茶番のために。
「どうする気だ、ウォン」
「そうですね」
ウォンは軽く首を傾げて、
「以前のように人死にが出ないよう、よく考えてやっていきましょう。施設の損壊はまぬがれないかもしれませんが……要は、貴方とカルロが対立しているということが、はっきり周囲にわかればいいのですよ。貴方の意に染まないことを、カルロがやっているという事実を。あの男が思い上がっているということを。貴方は皆の目の前で、カルロと戦うのです。死闘の末、キース・エヴァンズが倒されれば、貴方を慕ってきた者達は、おのずと離れていくでしょう。あの街へ誘導してもいい。そして、なおかつ残ってしまう狂信集団があれば、別の機会に叩いてしまえばいい。ただ、それだけの事です」
「私に茶番を演じろというのか。死んだふりをして、出奔しろと?」
こんな時に、ロミオとジュリエットでもあるまい、とキースが頬を背けると、ウォンは更に近づいてきて、
「お嫌でしたら、代わりに私がなんとかします。強制するつもりはありません。ただ、軍でやり残したことがあるので、私は私で別の茶番の準備をしているので」
「茶番? 軍サイキッカー部隊を潰すのか」
「ええ、それなんですが」
ウォンは視線を絨毯に落とし、
「実は、軍の方は残そうと思っているんです。もっとひどい実態が民間の研究所にあるのでね……詳しくはまた、後でお話ししますが」
顔を背けたままのキースに向かって、低く、だがしっかりした声で、
「キース様。サイキッカーのための新しい時代を、もう一度切り開いてはみませんか。私と、二人で」
「……」
ふっとキースは歩き出し、ベッドへ戻った。
「キース様?」
ベッドの上に落ちていた、アイピローを拾い上げる。
うすみずいろのそれは、魚の形をかたどったものだった。
キースは小さく呟くように、
「昔、ローマ帝国がキリスト教を迫害した時、抵抗して地下に潜った連中がいた。教会まで洞窟の中にこしらえて。信仰の証拠が残らないよう、キリストを示す文字を並べ替えて、《魚》という言葉や絵にして記したんだそうだ。こんな形にしてまで信じたいものが、彼らにはあった。育つのがひまわりぐらいしかないような貧しい土地で。その種を絞って油にして、地下に火をともして、彼らは自分の聖堂で、明日を信じて祈ったんだ。……僕を慕って集まるサイキッカー達のように。それを裏切る事は、僕にはできない」
「キース様」
ウォンの顔が絶望に曇る。
彼は何処へいくにも自由だが、だからといってノアへ戻るのはとても難しいことだ。不可能ではないにしろ。
やはり、一緒にはいられないのか。
キースは顔を上げた。
「だが、君の言うとおり、今のノアはもう駄目だ。君の茶番に、つきあうのも悪くないと思う」
「キース様」
ウォンの顔がぱっと明るんだ。
「とりあえず、もう一度抱いてくれないか。君が忘れられなくなるように」
「ええ」
ウォンは頬を染めながら、キースをベッドへ押し伏せた。
「どんな風に、しますか」
「君の愛情を、感じさせてくれるなら、なんでもいい……」
「それでは、優しく……」
静かに包み込まれて、キースは甘くうめきながら、
「ウォン。こんな言葉を知ってるか?」
「なんですか」
「うん。《セックスがなくても、人は生きられる。愛がなくなった時、人は死ぬのだ》って」
「誰がそんなことを?」
「大昔の女優」
「なるほど。名言ですね」
「僕はそうは思わない」
「え」
「だって、どっちも、欲しいから……君、から……」
甘くかすれる語尾。ウォンは腕に込める力を強めながら、
「あんまり嬉しがらせないで下さい。貴方にこれ以上溺れてしまったら」
「嫌だ。もっと、溺れて……」
「キース様」
激しく抱かれながら、今度こそ不安が消えていくのを、キースは味わっていた。
ウォンが、好きだ。
この気持ちは揺らいでもいない。
ウォンは、信じてもいい。
いつだってウォンは、僕に何も強制しない。
カルロ・ベルフロンドとは、違う。
はっきり言って、キースは今のカルロが怖かった。
あの妙な自信は、一体どこから出てきたんだ。
思い上がっているというのも、違う感じで。
僕を抱きながら、たぶん僕でない幻を見ている、カルロは。
それで、あんな暴走を、平気で。
「キース様」
「うん」
「まだ、他の男のことを考えている」
「違う、僕はそんな」
「忘れさせてあげます、何もかも。今、この瞬間だけは」
「あ……!」
乱れ狂いながら、キースは涙が流れるのを感じた。
暖かい、安堵の涙。
僕はもう、駄目なんかじゃない。
だって、ウォンが……。

破滅のジェットコースターは、ついにゴトンと動き出した。
誰も知らない終着駅に向かって、ゆっくりと。

2.PATTY/MIGHT

「おっはよー、マイト。よく眠れた?」
髪の先を結び終えて振り返ったパティの声があまりに屈託ないので、寝袋から身を起こしたマイトは、ほっと胸をなで下ろしていた。
そうだよな、昨日の晩の出来事は、ぜんぶ夢だ。
そんな、ただ酔った勢いだけで、あんな風に都合良くはいかないよな。
マイトは起き出して、寝袋を畳み、服装を整える。
でも、なんだか妙に生々しかったというか……夢でも、照れくさいものは照れくさいし……パティ、すごく切ない表情、してたよな……。
思い返すと、自然に頬が染まる。
「何赤くなってるの、マイト?」
「いや、別に」
「あ、思い出し笑い?」
パティも何故か、少しはにかんだ笑顔で、
「えへへ、別にいいよ。私もよかったし。ごちそうさま」
「えっ」
ええっ。
ガーンと頭を殴られたようになって、マイトはそのまま絶句した。
ごちそう様って。
じゃあ、俺は、本当にパティと……。
「どうしたの、マイト。なんでそんなにびっくりしてるの?」
「ちょっと待ってくれ、俺、本当に、そんな責任のとりようのないこと……」
急に青ざめたマイトに、パティは首を傾げて、
「責任って、私がいいって言ったんだから、いいよ別に」
「でもそんな、もし子供が出来たら……」
「やあねぇ」
パティはほとんど笑いとばすように、
「平気だってば。それに、もし失敗してたとしても、養う子供が一人から二人に増えるだけじゃない」
「パティ!」
一番痛いところを突かれて、マイトは口唇を噛んだ。
パティは自分の特殊能力を使って、病人の治療をして金を稼いでいた。それで二人の放浪生活をまかなっていた。
「嘘だよ、マイト」
パティは、マイトの肩にそっと手を置いた。
「子供だなんて思ってないよ。それどころか、うーんと感謝してる。二人になったおかげで、こうやって野宿もできるようになったし。女の子一人だと、やっぱり物騒だから。町場だったら教会や施設で泊めてもらえるけど、ほら、何にもない処だと、つらいから」
優しい声に、マイトはかえってうろたえて、
「いや、それはお互い様だから、別にいいんだが……だから、俺が言いたいのは、そういうことじゃなくて」
「何よマイト。私とするのがそんなにイヤだったの? 私のこと、嫌いなの?」
「そ、それは……」
「それとも、記憶がないのが、不安だから?」
「う」
「いいのに。私、マイトがなんでも、気にしないよ」
「パティ……」

★ ★ ★

ある朝目覚めて、マイトは記憶のない自分に気付いた。
彼が覚えているのは、自分の名前と十六歳という年齢、自分が雷撃系のサイキッカーであることと、自分の使命が、サイキッカーハンターであることだけ。
彼はその貧しい記憶だけを頼りに動き始めた。サイキッカーの波動を、彼は察知することができた。そのままやみくもにサイキッカーを襲った。生まれも育ちも帰る場所も思い出せない。追い剥ぎまがいの生活を送る以外に、生きる方法はなかったのだ。
そんな彼を変えたのが、弱冠十五歳の少女、パトリシア・マイヤースだった。
彼女もサイキッカーだった。マイトはためらわず彼女を襲った。
「サイキッカーはすべて狩る!」
だが、彼女が軽やかに彼の最初の攻撃をかわした時、それまで強烈だった殺人衝動がふとゆらいだ。
理由はわからない。相手が年下の女の子だったからか、それとも彼女の持つ、独特の風格のためだったか。
手にしていたはずの稲妻の剣は、いつしか消えていた。
「もう、攻撃しないの?」
攻撃をかわしきったパティは、怪訝そうにマイトを見つめた。
マイトは彼女と視線を合わせる事ができなかった。自分を支えていた衝動が消えうせれば、残るのはただ、恥ずかしさだけだ。
「もういい。おまえは見逃してやる。二度と俺の前に現れるな」
「わかった。じゃあ、離れないようにするね。そしたら二度会うこともないし」
「な、なんだって」
パティは軽く肩をすくめて、
「一緒に旅をしてくれる人を探してたの。私、行方不明になった母さんを探してるんだけど、一人じゃ結構大変なのよ」
「そんなもの、俺が知るか」
慌ててマイトが立ち去ろうとすると、パティは人なつこくその後ろにくっついてきた。
「ねえ、どうしてサイキッカーを攻撃するの?」
「使命だからだ」
「ってことは、軍の人なの?」
「違う」
「じゃあ、どうして? サイキッカーを嫌う人はいるけど、だからって、いきなり殺そうとする人は、あんまりいないよ」
「……」
マイトは答えられなかった。それだけでなく、完全に毒気を抜かれていた。それをみすまして、パティはマイトの腕を掴んだ。
「私、パティ。あなたは?」
「……マイト」
「ね、マイト。一緒に行こうよ。二人の方が、絶対いいから」
二の腕にあたる、思春期の少女の柔らかな胸。
微かに漂う、甘い香り。
マイトはその腕を、ふりほどくことができなかった。
その日から、二人の旅が始まった。

母一人子一人で苦労してきたというパティは、一つ年上のマイトを軽くあしらった。
「マイトって、なんだかコドモみたい。なんでそんなに知らないことが沢山あるの? それとも、訳ありだから、隠してるの?」
「それは」
何度も繰り返し尋ねられて、マイトにはついに重い口を開いた。
「隠してる訳じゃなくて……覚えて、ないんだ」
「もしかして、記憶喪失なの? だから、あんなこと」
「……」
「そうか、思い出せなくって、つらいんだ」
「いや、それは……」
思い出せない、というより、思い出したくない気がしていた。
胸のあたりが、いつも重たくて。
目覚めた時、いつも頭が痛くて。
「そうだったんだ。仕方ないよね。そういうのって、焦っても思い出せないっていうし。ごめん、記憶があってもなくても、しつこく訊くことなかったね。うん、思い出しても、無理に話してくれなくって、いいよ。……それより、ご飯にしよ? 私、お腹すいちゃった」
さっぱり話を打ち切って、パティは笑う。
そんな屈託のなさが、ひとりぼっちのマイトの心を、少しずつ和らげていた。
だからといって、すぐに素直になれもしないので、彼はごくむっつりと、
「なんでそんなに、いつも笑っていられる」
「え、笑ってたら、おかしい?」
「おまえ、本当は毎日泣いてたって、おかしくないんだろう」
そう、彼女もマイト同様、突然、孤独の日々に投げ出されたのだから。
ある日パティが家に戻ると、母がいなかった。
彼女の母親には治癒の特殊能力があって、その力に目をつけた連中に誘拐されたらしいのだ。自主的な失踪でないのは部屋の荒れようではっきりしており、怪しい男達が近所をうろついていたのも、何日も前から目撃されていた。
だが、誘拐を訴えても、公権力は動いてくれなかった。
世間一般は、サイキッカーに対していい感情を持っていない。あんたの母さんは拝み屋なんて後ろ暗いことをやってたんだ、ヤバイコトやってたのがバレて、自分から姿を消したんじゃないのか、などと、誰も相手にしてくれないのだ。そして大家は、家賃をまともに払えない子供をいつまでも置いておけないよ、とパティを追い出した。それはもっともな理由だったが、大家の本音は、サイキッカーの存在自体が物騒で迷惑だから出ていって欲しいという事――母を失ったことで、パティは真実ひとりになってしまったのだ。
彼女の放浪生活は長く続いた。町から町へと渡り歩き、教会や福祉施設に身を寄せてなんとか暮らした。親身に面倒をみてくれる人や友情を結んでくれる人もいたが、生活のために超能力を使わざるをえない場面もあり、一つの町に長居をする事は不可能だった。それだけではない、彼女自身も軍の超能力研究所に拉致された経験があり、命からがら逃げ出さなければならなかったという。
それなのに、この笑顔。
「だってマイト」
パティの横顔に、ほんのかすかな翳が落ちた……その時、だけ。
「毎日泣いてても、疲れちゃうだけじゃない。もし、泣いてお母さんが見つかるなら、嘘泣きでもなんでもするけど」
「パティ」
「ね、なんか食べよう。食べて寝ると、元気出るよ? 笑えるよ?」
「……わかった」
重すぎる過去を持つ少女と、過去のなさを重く思う少年。
吸い寄せられるように出会った二人の間に、何も起こらない方が不自然だった。

「なんか、やっぱり、気持ちよくなっちゃったね……」
はしばみ色の瞳が、熱っぽく潤んでいる。
彼女の頬が染まっているのは、たき火が熱いからでも、テントが狭すぎるからでもない。
そしてたぶん、酔いのせいでも。
それを見つめるマイト自身も、身体が熱くてたまらなかった。
昨日まで世話になっていたのが酒の醸造をする家で、何を思ったか若い二人を送り出す時に、その酒を一本もたせてくれた。軽いものだから身体を暖めたい時に少しだけ使うといい、と家の主人は言ったが、彼らが好奇心から口をつけ、すべて飲み干してしまうのは、容易に想像のつくことだったろうに。
「パティ……」
酔いがマイトを大胆にした。肩を抱きすくめ、口唇を重ねる。
きゅっと身体を硬くしたあと、彼女はマイトの胸に、そっと体重を預けてきた。
その、いじらしさ。
マイトは胸をときめかせつつ、小さな身体を広げた毛布の上に横たえ、口吻を繰り返した。拒む様子はまったくないので、マイトはそのまま相手の服を乱し始める。酔いで敏感になっているのもあって、服の上から触れられただけでも、パティは甘く喘いだ。マイトはすっかり夢中になり、自分も服を脱ぎ捨てて、しなやかな身体を彼女に寄り添わせた。
「あ、ちょっと待って」
冷静な制止の声に、はっとマイトは我に返った。
パティの気持ちも確認せず、俺は何をやってるんだ。
こんな勢いにまかせて、そのままズルズルとしてしまおうとするなんて。
しかし、パティはそんな彼をよそに平然と身を起こし、荷物の中から何やら取り出してきた。
マイトはそれを見て、さらに赤くなった。
「ぱ、パティ……どこで、そんなもの」
「乙女のたしなみ」
パティはいつものように微笑んで、
「忘れないうちにつけとかないとね。……あ、あれ?」
マイトの足の間で、パティの掌があぶなかしい動きをする。
「酔ってるからかな、うまく……」
「自分でつけるから!」
マイトは慌ててパティの掌を押さえた。恥ずかしいだけでない、彼女の手指に触れられているだけで終わってしまいそうで、とにかく自分で準備するしかなかったのだ。
もういちど、ぎこちなく抱きしめてから、マイトは囁いた。
「いいのか、パティ……本当に」
「いいよ。……でも、優しく、してね」
「わかった」
とはいえ、どう優しくすればいいのか、マイトは知らない。再び盛り返してきた炎のままに瑞々しい身体を押し開き、何度も悲鳴を上げさせた。その度マイトはドキリとして動きを止めようとする。が、背中に回ったパティの腕が、続きをせがんで……。
それでもお互い、抱き合ったまま眠るのが恥ずかしくて、服を着て別々の寝袋へ別れた。
その全部が、夢でもなんでもなかったのだ。

★ ★ ★

「パティ、俺……」
マイトは、まだ、次の言葉を失っていた。
パティの言うことが道理だということは、わかっている。
俺はパティが好きだ。パティとしたくなかったどころか、俺から進んでしたことなんだ。少々軽々しかったかもしれないが、お互いが何者であろうと、好きで同意でしたことだ。誰かにとがめられたりする筋合いの、ないことだ。
それなのに。
それなのに、《取り返しのつかないことをした》って思いが、どうしてこんなに、強いんだ?
「どうしたの、マイト? もしかして、気分が悪いの?」
マイトは頭を抱えた。
頭が……いや、全身が痛い。
なんだ、このドロドロと体中をかけめぐる不快感は。
「パティ、お、俺は……」
次の瞬間、マイトは思いもよらぬ言葉を口にしていた。
「俺は、未来から来た。だから、過去の記憶がないんだ。だから、過去の人間と、交わっちゃいけないんだっ……!」
苦しげにしぼり出されたその悲鳴をきいて、パティは目をしばたかせた。
「マイト。それ、おかしいよ」
「?」
こともなげにそう言われて、マイトもハッとした。
そうだ。俺は何を口走ってるんだ。そんなことがある訳がない。未来から来たなんて。
パティは首を傾げたまま、
「だってもし、マイトが本当に未来から来たんだとしても、マイトは十六歳なんでしょ。つまり、十六年分の過去が、あるはずでしょ? その分の記憶がないっていうのは、おかしくない?」
「そ、そうか」
混乱から抜けきれないまま、マイトは立ち上がった。
「パティ。……俺、ちょっと水くんでくる」
「そう。じゃあ、お願い」
「ああ」
折り畳みバケツをひっつかむと、マイトはそのままテントを飛び出していった。
「……ふぅ」
大きなため息をつくと、パティはどさりと寝袋の上に転がった。
平気な顔をしていたが、実は身体がつらくてたまらなかったのだ。
できれば一日、横になっていたいほど。
「なんだろ、マイト。私のこと、そんなに好きじゃないのかな……傷ついちゃうな」
小さく呟く。
サイキッカーとして隅々まで調べられた経験はあるにしろ、誰かと肌身で愛を交わす経験は昨夜がはじめてだった。マイトの方から進んで抱きしめてくれたこともあって、《パティ、愛してる》的なロマンティックな朝を彼女が期待していたのは、むしろ当たり前のことだった。そうでなくとも、あんな風に恋人にうろたえたら、どんな女も失望する筈だ。
ただ。
《思春期の男の子は、同じ年頃の女の子よりずっと幼くて、ナイーヴなものだからね》
母親のそんな言葉を、パティはふと思い出していた。
だからあんまり露骨に迫って、ドギマギさせちゃいけないのよ、と笑ってたっけ。
確かにマイト、緊張してた。
だから、なのかな。
でも、私だって、笑ったり冗談とばしたりしてたけど、本当はとってもドキドキしてたのに。それをマイト、わかってくれてると思ったのに。
サイキッカー同士なのに、そんな簡単なことも伝わらないなんて、つまらない……。
パティは目を閉じた。
マイトが戻ってくる足音を、じっと待ちながら。

川で何度も顔を洗い、水を汲み(沸かして濾過して飲み水にするための)、もう一度冷たい川に顔をつっこんで、マイトは身体の中を駆けめぐっているドロドロした流れを押さえつけようとした。
駄目だった。
猛烈な吐き気に襲われて、彼はついに吐いた。
何故だ。
どうしてこんなに気分が悪い。
彼の頭の中を、同じ言葉が回り続ける。
《おまえは未来から来た。そして、交わってはならないものと交わった》
柔らかいのに、うむをいわせぬ声が、彼をさいなむ。
誰か。
誰か、助けてくれ。
母さん……!
胃の中にあるものを全部吐ききって、マイトはその場に倒れ伏した。
気を失ってもなお、その声は強烈な悪夢となって彼の中に鳴り響き続けた。
《おまえは、決して交わってはならないものと、交わった……》

3.REGINA/CALRO

「……くそっ!」
カルロはドン、と廊下の壁を殴りつけた。
ノア最深部、つまり幹部の居住区である。誰も見ていない場所に来たと思ったとたん、それまで抑え込んでいた気持ちの、その押さえが、ぷつりと切れてしまったのだ。
「何故だ! どうして!」
一度拳を使ってしまうと、そこから気持ちがあふれ出す。
行き場のない、怒りが。
「いったい僕にどうしろというんだ!」
叩き続けているうち、眼鏡の奥が曇ってきた。悔しい。進むことも引くこともままならない今の状況が。無力な自分が。
「兄さん!」
音をきき、駆けつけてきたレジーナが、兄の拳を押さえる。
「やめて、もう手が血だらけじゃない」
「うるさい!」
カルロは妹の手を勢い良く振り払った。が、レジーナは更に兄の腕にすがりつく。
「ね、せめて、部屋に行こ」
「構うな!」
もう一度振り払おうとして、カルロはぐっとレジーナの手首を掴んだ。
「……」
カルロの表情が、ふとゆるんだ。
レジーナが怪訝そうに見上げると、カルロはいきなり、妹をぎゅっと抱きすくめた。
「兄さん……?」
「すまない」
レジーナの耳元に、低く囁かれる優しい声。
「時々、忘れてしまうんだ。おまえがこんなに華奢な手首をしていることを」
「えっ?」
「おまえは立派な大人で、僕がいなくても何でもやってのけることができるから、少しぐらい強くあたっても構わないと、つい、思ってしまうんだ……甘えだと、わかってはいるんだが……」
「兄さん」
レジーナはぽうっと頬を染めた。兄が女性としての自分にいたわりを示してくれること、そして、立派な人間として信用してくれていること――それはやはり、素直に嬉しい。
「あのね、兄さん。傷の手当て、しないと」
口ごもるように呟くと、カルロは首を振った。
「いい、自分でやれる」
「そんなこと言わないで、させて」
レジーナは無理に手を引いて、自分の部屋へ兄を押し込んだ。
応急キットで手早く止血処置をしてソファに座らせ、暖かいカフェラテの用意などもして。
カルロはもう、意固地になってレジーナを拒もうとはしなかった。むしろ、ぼんやりと世話を焼かれている。
「兄さん。私じゃあんまり力になれないけど……今日、何か、あったの?」
カルロは首を振った。
「いや。いつもと変わらない」
「そう。じゃ、相変わらずなんだ」
今日は、ノアのスポンサー連との会議の日だった。それが兄にとって、どんなにつらいことか、レジーナは知っている。技術屋としては優秀で、施設や機材に関しては功績のある彼だけれど、資金繰りはあまりうまくないことを、この妹はよく知っていた。彼の、頑固ともよべる純粋さは、海千山千の資金提供者達と衝突しない方がおかしいのだ。君は若い、それに視野が少々狭すぎるんだよ、と何度ののしられて帰ってきたことか。そうでなくとも、有能な同志は減っていく、サイキッカー救出計画は失敗する――そんなことが積み重なっているのだ、誰だってノアという組織を見放したくなってきているはずだ。
カルロが、低い声で呟いた。
「……だが、何故、彼らにはわからないんだ。最大の敵は軍だということが」
「え、違うっていうの?」
レジーナが眉を寄せると、カルロはうなずいて、
「ああ。みんな、いま注目すべきなのは、民間のサイキッカー研究所だとか言って……せめて実態調査ぐらいしたらどうなんだ、と責められた」
「そうなんだ」
レジーナは兄を傷つけたくないと思いつつも、低い声で呟き返していた。
「そうだね。そういうことも考えないといけないかも……調査だけなら、軍相手より易しいかもしれないし。民間研究所の方がひどい実験してるって噂もあるし、あの人たちにうるさいこと言わせないためにも、そっちに少し、人をさいてくのも、いいかも」
「違う!」
いきなり怒鳴りつけられて、レジーナはびくっと身をすくめた。
「おまえまで騙されてどうする。何故、わからないんだ! それがウォンの策略だということが!」
「あ」
レジーナははっと口元を押さえた。
言われてみれば、確かに。
カルロは怒りの早口で、
「軍研究所も、何度もノアの襲撃を受けていれば信頼性が下がる。防衛にも予算がかかる。余計な手間を減らすために、あの男は皆の目を民間研究所へ向けさせようとしてるんだ。情報操作でな。スポンサー連は、それにまんまとひっかかっているんだ。いや、裏で金も動いているに決まっている。そう、みんな、踊らされているんだ。たった一人の、愚かなサイキッカーに」
「兄さん」
「僕は……僕はどうしてこんなに無力なんだ。いくら反証を上げても、誰も耳を傾けてくれない。《選ばれた民》の誇りを、何故みんな忘れてしまったんだ。どうしてノアが出来たと思う。何のために……」
ドン、と叩かれるテーブル。
傷口が開くのを恐れたレジーナは、慌てて兄の肩を抱いた。
「落ち着いてよ兄さん。大丈夫よ。兄さんは頑張ってるわ。それに、私たちにはキース様がいるじゃない」
「キース、様が……?」
「だって、今日の会議でもなんとかしてくれたんでしょう? 違うの?」
カルロの表情から怒りが消えた。それよりも、もっと悪い――深い絶望が彼の顔を覆っていた。
「キース様は、資金提供者達にこう言った……《その通りです。これからは、軍だけを敵とみなすのは間違いでしょう》と。会議が終わってから、僕は抗議した。その時、キース様がなんて答えたか……《愚かな。あんな連中の言うことは、きき流しておけ。あまりうるさいことを言う連中は、いっそ闇討ちしろ》と。《彼らに媚びるのがいやなら媚びなければいい。どうせ今のノアは死に体だ、そんなに蓄えもいらないだろう》と」
カルロは太い息を吐いた。
「信じられなかった。キース様が……どん底の時も、あんな投げやりで恐ろしいことは言わなかった……しかも、人形のような無表情で、それを言うんだ……たまらなかった」
「兄さん」
通常、キースに直に会って指示を仰ぐのはカルロの仕事で、レジーナは最近の総帥の姿をほとんど見たことがない。それでも兄の言うように、最近のあの青年に、生気というものが欠けているのには気付いていた。いつも強い力をもっていたアイスブルーの瞳はひどく虚ろで、まるで幽霊のようだった。まだ、バーンの生死がはっきりしていなかった頃よりも、さらに悪い状態に見えた。
「レジーナ」
「何?」
「僕は、キース様の忠実なしもべだ。キース様にどんな皮肉を言われようが、僕は耐えてみせる。もし、ウォンに心を奪われて正しい判断ができないでいるのなら、その目を覚まさせるのは僕の仕事だ。今、常に一番近くにいる僕には、それが出来るはずだ」
「できるよ、兄さんになら」
「だが……」
カルロが口をつぐむ。
不安なのだ。
キースのあの虚ろさが。
自分に振り向いてくれないのは覚悟の上だったが、あのしおれた様子だけは理解できない。抱いて拒まれることはまずないのだが、感じる様子もすっかり見せてくれなくなり、ひたすら後味が悪いだけの行為になってしまう。
これもすべて、リチャード・ウォンのせいなのか。
あなたの心は、いったい今どこをさまよっているんです。
キース様。
「大丈夫だよ、兄さん」
「わかってる」
「キース様はいつでもサイキッカーの事を考えてる。それは変わってないよ、きっと。だから兄さんも、あきらめないで」
「ああ」
妹の胸に抱き寄せられながら、カルロは低く呟いた。
「おまえが総帥なら良かった……おまえを愛せたら、どんなにか……」
ふと、カルロの体重がぐっと重くかかってきて、レジーナは慌てた。
抱きしめるように支えると、兄はもう眠りに落ちていた。
今までの緊張と怒りがほどけて、どっと疲れが出てしまったのだろう。
ああ、兄さん、こんなに消耗して。
そう、すべてはウォンのせい。
サイキッカーのくせに同胞を裏切り、好き放題をし続けている、諸悪の根源。
許せない。
違う。許してはいけないんだ。
だってこのままじゃ、本当にみんな、駄目になってしまう。
もし、兄さんもキース様もノアのみんなも、しがらみに縛られてあいつと決着をつけられないというのなら。
それなら、私が。
「兄さん」
ソファの上で兄を抱きしめたまま、レジーナは呟く。
「あたし、兄さんに愛されてるって、知ってるよ。兄さんの妹でいて、本当に良かったと思ってる……」
だから。
彼女の青い瞳が、静かな炎となって燃える。
あたしは、優秀な暗殺者に、なれるだろうか……。

4.KEITH/WONG

「ふ……」
自分の傍らで、疲れてぐったりと動かなくなっているキースの背を静かに撫でながら、ウォンは大きなため息をもらした。
若い身体を堪能して満足しているから、というのが、ため息の理由の一つ。
今日のキースは、まさに理想の愛人だった。
甘えるような上目づかい。なんとなく寂しげな微笑み。
それは、ベッドへ行く間ももどかしいような誘惑だった。
シーツの上に広げられるのは、敏感で瑞々しくて、しかし、深い喜びも巧みなテクニックも知っている肉体。
微かな恥じらい。快楽に、堪えきれずに流す涙。
なだめ、あやすようにすると、更に可憐に乱れて。
久しぶりに落ち合って、そこまですべて味わって満足しなかったといったら、嘘だ。
しかし、リチャード・ウォンのため息の理由は、もう一つあった。
《キース様に、抱かれたい……》
それは、受け身の喜びを知ったから、ではない。もちろん、キースの責めで彼の中に目覚めたものがあるのは事実なのだが、それだけではない。
もっと、とけあうような体験を重ねたいのだ。
私を愛して、それで満ち足りる貴方を見たい。アイスブルーの瞳が悪戯っぽく輝いて、生き生きと楽しむ姿を。
愛撫ににじむ優しさを、溢れ出す熱い情を、この肌にひしひしと感じたい。それがキース様にとって心地よいことなら、存分にむさぼって欲しい。
今晩のキース様に、そんな体力は残っていないだろうけれど。
浅ましいほど、貴方が好きです。
欲しくて堪らないんです……貴方のすべてが。
そんな思いに胸をうずかせていると、キースがふっと身体を起こした。
「ウォン」
「はい」
キースの瞳に、強い光が宿っていた。きっぱりとした口調で、
「これから君を犯す」
「えっ」
抱かれたいと夢想していたのが伝わってしまったのか、とウォンは身をすくめた。
「拒むなよ」
「あ」
拒めませんよ、でもそんな余力がおありなんですか、と口走る前に、ウォンはキースが何をしようとしているかに気付いた。
胸の中が、熱い。
素手で心臓を握りしめられたようだ。
触れられているのは、胸と額のほんの一部なのに。
つまりキースは、ウォンの心にわけいって、その精神を犯そうとしているのだ。
「や、やめて……!」
ウォンは思わず悲鳴を上げた。
互いの心を接触テレパスで知ったことも、探りあったこともある。
しかし、心の深い奥底までを、キースに覗かれたことはなかった。
嫌だ。
見られたくない。
踏み込まれたくない。
それは、キース様だからこそ。
「やめて下さい。見ないで」
「嫌だ。君の心のぜんぶを犯すんだ。ぜんぶ覗いてやる」
「お願いです。私は卑劣な悪党なんです、こんな汚い心の中に、キース様が入りこんでは」
「そんなこと、とっくに知ってる」
キースの心が、ウォンの心の奥襞の一つ一つを撫でてゆく。強い感情と直結した部分を見つけると、そこをやんわりと押し開く。
悪だくみも恐ろしい過去も通り過ぎた男女も、すべてキースの前にさらけだされてゆく。
「やめて下さい、私は意気地なしなんです、お願いです、見ないで! 軽蔑しないで下さい……!」
「今更な。そんなことぐらいで、僕が君を軽蔑すると思うのか?」
「キース様!」
「いいか。君の心の全部に僕をやきつけて、忘れられなく、してやる」
「あ、ああっ」
ウォンは身悶えた。
無理強いに肉体を犯される方がましだった。
心の鎧を引き剥がされるのを喜ぶ男はいない。
まして、その暗い生い立ちから、他人を信じずかたく閉ざしてきた心を、こうまで見事に丸裸にされてしまったら――それは、恥ずかしい、などという言葉ではおいつかない。極寒の地で凍えるよりも辛いことだ。
しかし、キースの心と直に触れ合うことに、喜びを感じている自分も、そこにはいて。
ああ。
いっそ死んでしまいたい。
キース様。

「ウォン」
心で犯されて、身体も昇天してしまったウォンの頬に、キースはそっと口づけた。
「大丈夫か」
「……はい、でも」
何故こんな強引な、貴方らしくないことを……と呟く前に、キースが先を続けた。
「ちょっとびっくりした。本当に僕は、君の心の一番きれいな場所に、住んでるんだな」
「え」
「大事に思ってくれている事は知っていても、君の目に実際どう映っているかは、知らなかったから……君の中で、僕はあんなに綺麗なのか」
ああ。
そういうことだったのか。
自分がどんな風に愛されているか知りたくて、あんなことを。
ウォンはやっと安堵して、キースに微笑みを向けた。
「綺麗です、キース様は」
「そうか。無理強いにして、悪かった。おかげで、君がどんなに僕を愛してくれているか、よくわかった……それなのに」
キースは目を伏せ、ウォンの胸をドン、と叩いた。
「なのにどうして、僕の愛を、君は信じてくれないんだ?」
「え?」
かたくつぶった瞳から、涙が溢れ出しそうになっている。
「君は、まだ僕を信じてない。信じられないから、あんなに何度も、僕を試そうとするんだ。わざと離れてみたり、とんでもない意地悪をしたり……」
「キース様」
「教えて欲しい。どうしたら信じてくれる、リチャード・ウォン」
「信じています!」
「本当か」
キースはウォンの胸の上で、拳を握りしめた。
「本当に、僕の気持ちを信じているのか?」
「もちろんです!」
「じゃあ、もう、離れない?」
「離れません」
「二度と意地悪で試したりしない?」
「しません」
「僕の身体に飽きてしまっても?」
「貴方に飽きたりしません!」
「わかった」
キースは身体の力をやっと抜き、熱い肌をウォンに寄り添わせた。
「ウォン。しばらく抱きしめていて、くれないか……」
「はい」
ウォンは胸を高鳴らせたまま、キースを抱きしめていた。
私が、キース様を、信じていない?
何度も回り道をしたのは、そのせいなのか。
貴方に溺れるのがひたすら怖かったのは、愛する人を信じていなかったからだと?
「ウォン」
キースが低く囁く。
「そんなに悩まなくていい。ただ、はっきりさせておきたかったんだ」
「……信じていないことを、ですか?」
キースの苦笑をウォンは聞いた。
「そうじゃない。ただ、君の愛情の質を、もう一度確かめておきたかっただけなんだ。だって、僕たちはお互い、愛だけでは生きられない種類の人間だろう?」
「愛、だけでは……?」
「今回の茶番が、ちゃんと計画通りにいったとする。自由な生活を手に入れて、僕たちはもういちど、二人きりの蜜月を過ごし始める。でも……その後はどうする?」
「二人でまた、新しい理想郷を……」
「そうだ。君は裏で事業に奔走し、私はまた、指導者として動くことになるだろう。僕たちは、そういう形で結びついてきたんだ。たぶん、これからも。適切な、仕事上のパートナーとして」
「キース様」
「だから、愛だけじゃ駄目なんだ。肉欲はいずれ薄れて消える。愛も変質していくものだ。これからの僕たちの間に必要なのは、信頼だ。僕は、僕を信じてくれない人間と理想郷を築くことはできない。安心して未来を賭けることは、できない」
ああ。
確かに。
キース様の懸念は、あまりに当たり前のものだ。
でも、当たり前すぎて……どう答えを返していいか、わからない。
「ウォン。僕は君と、ずっと続けていきたい。だから無茶もやる。ひとりぼっちが辛くて、このままさらっていって欲しいと思う時も、そう言わないで我慢している。君が何を企んでいても、目をつぶっている。時々自分が愚かだと思う。それでも……それでも君がいいんだ。だから」
キースはウォンの背に回していた腕に、力を込めた。
「僕を好きだったら、もう少しだけ信じてくれないか……ほんの少しで、いいから」
寂しげな微笑みの訳を、ウォンはやっと悟った。
私はなんと愚かなのか……愛情を疑われたり、信じてもらえなかったりすれば、苦しいに決まっているものを。いくら愛し合っていても、不安は不安――こんな自明のことを、すっかり忘れていたなんて。
「無理なのか? 僕の愛情じゃ、やっぱり君には足りないのか? だから僕がこんなに好きでも、わかってもらえないのか……?」
「キース様!」
思わずきつく抱きしめると、キースの声が掠れた。
「もっと、もっと強く抱いて、ウォン……!」

激情の波が一つ砕けた。
それでもキースはもう一度、ウォンの上にその身をそっと横たえ、からませる。
「なんで僕は、君なんて信じようと思ったのかな」
「キース様」
悪戯っぽく微笑んで、白い額に口唇を押しつけながら、キースは囁く。
「つくづく君は悪い男だ。僕以外の人間には、どこまでも冷酷になれるんだな。……その少年も可哀相に。愛しいと思う者に出会った時、悲劇が始まるよう仕組むなんて。しかも、そうとう強い、暗示だな?」
さきほど全部見透かされたとわかっているので、ウォンはうなずく。
「愛は強い感情ですから、暗示に使うには都合がいいんです」
「なるほど。新しい愛の悲劇で塗り込めれば、過去の悲劇はかすんでしまうという訳か」
「ええ。不快に思っていることは、誰だって忘れたいはずです。思い出は、自分が好む悲劇に変わりやすいものです。記憶というのは、普通の人間が思っているより、ずっと曖昧なものですから、簡単な暗示だけで、あったことをなかったことに、なかったことをあったことにすることができます。優れた催眠術者は、遠い昔からそれを行ってきました。私はただそれを、サイキックを使ってやっているだけのことです」
「それは、誰にでも応用がきくのか」
「ききます。いつでも使えるようにしてありますから……あ」
口唇を吸われて、ウォンが甘くうめく。キースは吐息でウォンの首筋をくすぐる。
「なら、僕にも暗示をかければいい。《貴方を信じています》と」
「そんなこと、貴方には……」
「できない? 僕が綺麗すぎて? こんなに何度も、この手を血で汚した僕なのに?」
「しかし、それは……」
「君は、可愛いな」
あやすようにウォンの黒髪をすきながら、キースは囁き続ける。
「もし僕が《君なんか嫌いだ。死んでしまえ。もう二度と顔も見たくない》なんて言ったら、ポロポロと泣き出すだろう? 大の男のくせに」
「キース様」
「何度も試すのは僕の気持ちを確かめたいからで、小さな女の子みたいに《愛してる》って言葉を、何度でも僕の口からききたいからだ。そうだろう?」
ウォンは返事ができない。
それがすべて事実だから。
そんな幼い自分が、たまらなく恥ずかしくて。
キースは続ける。
「でも、そんな君が……君のぜんぶが、僕は、好きなんだ。だから、寂しがらせないでくれ」
身を起こすとキースは、ウォンの深い蒼の瞳をのぞきこむ。
「君が人を信じられない気持ちは、わからなくもない。ああいう育ち方をしたんだから、無理もない話だ。それに僕だって、信じられない時期の方が多かった。だから、僕だけ特別に信じて欲しいなんて、無茶は言わない。……でも、忘れないでくれ。迷った時、僕はいつも、君を頼りにしてきた。僕は君を、信じてきたんだ」
その瞬間――ウォンは、目の前の青年に完全に征服された自分を悟った。
私はもう、この人から逃れられない。
これは、宿命なのだ。何をどう企もうと、これからはこの人と歩んでいくしか、自分の生きてゆく道はないのだと。
「ええ。迷った時には、いつも私がいます、キース・エヴァンズ」
「そうか」
キースはウォンの口唇を指先でなぞって、微笑んだ。
「期待している。では、お手並み拝見といこうか。……冷酷な世界の帝王、リチャード・ウォン」

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Written by Narihara Akira
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