『秘密の303』
1.
いつも静かな図書館が、今日はちがった。
三階のホールにあがる階段に、女の子がびっしり並んでいる。みんな行儀よく並んでいるが、ざわめきは絶えない。
何か催し物があったっけ、と思いながら、乾悠美は二階の図書室に入った。
入り口近くで、ボソボソと話している子たちがいる。
「ハヤマアオトが来てるらしいよ」
「まさか上で歌うの?」
「詩の朗読会だって。ファンクラブで申し込んだ整理券もってる子しか、ホールには入れないって」
「こんなに大勢、上の階に入りきれる?」
「二回回しだって。あと整理券もってない子も、今朝、図書館で別に立ち見の整理券配って、三階のホールの外に、ギリギリ詰め込むみたい。もう寒いから、外には並ばせないってことみたい」
「へー、アオトって、こんなに人気あるんだ。おじさんなのに」
「声、小さくして。あの子たちに聞こえるよ」
「ごめん」
「まあ、おじさんだけど、美人だし。それに普通、こんな田舎に来ないし。そんなにしょっちゅうライブも行けないでしょ」
「それもそっか。なんか、ここでも聞こえてきそうだけど」
「ドアを閉め切ったらさすがに聞こえないんじゃない? あとやっぱりみんな、顔を見たいと思うよ」
「ここで待ってたら見られるかな」
「別の入り口から入るんじゃないの」
「だろうね」
悠美は借りた本を返すと、返却棚に面白そうな本がないか探した。何冊か抜いて読書用の席に座る。しかし今日は、ページをめくっても頭に入ってこない。
《希望ちゃんも、あの中にいるかな》
早馬蒼人は、ペイルホースというロックバンドのボーカルだ。結成から十五年が過ぎて、昔ほどの人気はないが、今でも美貌は衰えず、長い髪をなびかせて切なげに歌うので、若いファンも多い。最近は一人で、詩人としても活動している。詩集も出しているから、それを朗読しに来たのだろう。一時期、ここ大田原に住んでいたことがあるらしいから、その縁で呼ばれたのかもしれない。
悠美のいとこの加納希望も、早馬蒼人の大ファンだ。小学六年生の時にハマって、中学でファンクラブに入り、一人でライブに行こうとして、母親に怒られていた。「中学生が夜、一人でいくものじゃありません」それはまあ。「一年に一回しかライブないんだよ。一人がだめなら悠美ちゃんと行く」わあ、まきこまないで。嫌いじゃないけどよく知らないのに。「悠美ちゃんもまだ高校生よ。私と一緒でいいなら、許可しなくもないけど」「それでもいい。行きたい」「希望がそんなに面食いとは知らなかった。チケット代は払えるの」「払う。なんならお母さんのぶんも。コンビニで払えるから」「いいわ。今回は私が払うから。それにしてもアイドルじゃなくて、終末思想のおっさんバンドを好きになるとはね」「ペイルホースは怖い歌ばっかり歌ってるわけじゃないよ。切ない歌とかいろいろあるんだから」
ペイルホース――青ざめた馬、というのは、ヨハネの黙示録に出てくる死の象徴らしいが、普通にボーカルの名前を英語にしただけらしい。バンドでは「アオト」とカタカナ名にしているが、早馬蒼人は本名だ。親の願いがよくわからない。
三階で歓声が上がった。アオトが登場したようだ。
《終わったら出てくるかな》
なんの根拠もなく、希望がいる気がしていた。二回回しなら二度目の朗読会かもしれないし、ファンクラブの抽選にもれて諦めているかもしれないが、図書館でも整理券を配ったなら、来ている可能性はある。
《いたら……話す? 話さない方がいい? それとも、もう知ってる?》
普通のいとこ同士がどれぐらい仲がいいかわからないが、悠美と希望の家は近所で、小学校の頃は同じ学校だったので、昔はけっこう行き来があった。しかし三歳の年齢差があるので、悠美が高校にあがる頃には、月に一度会うか会わないかになった。それも用事のある時だけ。
中学に上がってすぐ、希望がこんなことを言い出した。
「悠美ちゃん、やっぱり美容師になるつもり?」
「そうね」
腕一本で食べられる仕事につきたかった。自分のやりたい事の中で一番早く自立できるのは、美容師だと思っていたから、昔からそう言っていた。
「だったら、私の髪で練習しない?」
「え?」
「ファンクラブの会費以外にも、音源を買ったり本を買ったりしてるから、お小遣い、ちょっと足りなくて」
「カット代を回したいってこと?」
「そういうこと。悠美ちゃんはいつもロングだから、ショートは切りたくない?」
「そんなことないよ」
「私、くせっ毛だから、ちょっとでも長くすると、外はねしちゃうんだ。だからうまく伸ばせなくて、一ヶ月とか一ヶ月半で切らないとだめで。でも、今行ってる美容室、おばあちゃん先生だから、安いけど、可愛く切ってくれないんだよ。校則の範囲内で可愛くしたいんだけど、悠美ちゃんには難しい?」
そう煽られては断りにくい。
「私が失敗したらどうするの」
「校則の範囲内で失敗とかある? 刈り上げとかにしないでしょ? 普通の美容室だって失敗はあるし。それに私、悠美ちゃんになら、何をされても平気だよ」
そこまで信頼されても困るが、まあいいか。
「あと、もし切ってくれるなら、もう一つお願い」
「なに?」
「うちの親には言わないで。できれば誰にも」
「家で切るのに完全に内緒にはできないと思うけど、自分からは言わないようにするよ」
「ありがとう。悠美ちゃんが約束してくれるなら安心」
「なんの約束にもなってないけどね。まあ明るいうちは、親も兄貴も帰ってこないから大丈夫かな」
「なんかお礼しなきゃね」
「別にいいよ、練習で切るなら。身内なんだし」
「嬉しい。よろしくね!」
そんなわけで、定期的に希望の髪を切っていたのだが、ふと気づくとここ三ヶ月切ほど会っていない。伸ばすことにしたのだろうか。
悠美はスマホを取り出し、希望にメッセージを送った。
「図書館にいる?」
「どうして」
「アオトの朗読会やってるから」
「そうらしいね」
返事は早いが、反応が変だ。
「抽選外れちゃったの」
「もともと申し込んでない。ファンクラブもやめたし」
「そうなんだ」
「悠美ちゃんは図書館にいるの」
「うん。たぶん、もうしばらくは」
「朗読会のこと、知らせてくれてありがとう。忙しいからまたね」
どういうこと? 何かあった?
早馬蒼人の変な噂を聞いた記憶はない。最近、子どもがうまれて、夫婦仲も悪くないんじゃなかったっけ?
希望の髪を切るとき、悠美はアプリでFMラジオを流していた。
動画サイトだと好き嫌いもあるだろうし、無難なトーク番組と音楽の方が美容室っぽいかと思った。
でも、厭なニュースが流れてくることもある。
結婚したアイドルがファンにストーカーされて、怪我をさせられたとか。
「私、よくわからないんだよね」
無言で切られていた希望が、ぼそりと呟いた。
「自分の好きなアイドルとかアーティストが結婚すると、裏切り者とかいって怒り狂う人たちがいるけど、あれ、なんなのかなって」
「希望ちゃんはどう思うの」
「ファンだったら、自分の推しが幸せになったら、祝福するよね」
「普通はそうだろうね」
「自分が結婚できると思ってたのかな。でも、恋人でもないのに、裏切ったって言われてもさ。恋人になりたいならストーカーはだめでしょ。努力の方法が間違ってる。近づきたいなら、どうしたらいいか考えなきゃ。少なくとも、嫌われることをしちゃだめだよね」
「その通りだけど、努力したら必ず、好きな人とつきあえるわけじゃないよ」
「そばにいることぐらいはできるんじゃないの」
「それは、ね……はい、鏡。こんな感じでどう?」
「うん。ありがとう。そんな短くしてないのに、重くならないし、はねないし、ブラシで一瞬でまとまるし、悠美ちゃんのカット、最高」
「ほめても何も出ないよ」
「いいよ出さなくて。そういえばおやつもってきたんだ、食べる?」
「希望ちゃんの手作りはちょっと」
「今日は違うよ。月のうさぎ。悠美ちゃん好きでしょ」
「うん。じゃ、片づけたらお茶にするね」
「ありがとう!」
……あの話をした頃、もう蒼人は結婚してた気がする。むしろ遅すぎるぐらいだったし、ファンじゃなくなったのは、別の理由だと思うんだけど……。
2.
あれ、本になにか挟まってる。
加納希望がいとこの家に遊びに行くと、早馬蒼人の第一詩集が机の上にあった。図書館のシールがついているので、借りてきた本だろう。興味を持ってくれたんだ、と思った。今は希望のためにキッチンでお茶をいれている。一瞬迷ったが、しおり代わりにしては大きめの紙がはみ出していたので、思わず手に取ってしまった。
綺麗な字で、詩が書かれている。
魂は 己がための朋友を選ぶ―
しかる後―扉を鎖す
かの魂にとっては 畏れ多いこの世の大勢は―
既に 存在 しない―
最早動かされぬ―高貴な馬車に気づこうとも―待っているのに―
この卑しい門扉の前に―
揺るぎもしない―たとえ皇帝が跪こうとも―
この門の外敷に―
魂とはこういうものだ―私は溢れんばかりの世の人々から―
ただひとり を 望もう―
しかる後― 心配りの栓をかたく締めよう―
宝石へと消化する魂。
「なんだろう、これ」
「303」
「えっ」
振り向くと悠美がいた。お茶を乗せたお盆をもって。
早馬蒼人に《303》という歌がある。歌詞の中に303という数字はでてこない。本人はどうして303か説明しないし、解説している人も見たことがない。希望は「好きな歌なんだけど、謎なんだよね」と彼女に話したことがあった。
でも、これって?
悠美は二人分のお茶とお菓子を低いテーブルへ置くと、
「昔、アメリカにエミリ・ディキンソンっていう詩人がいてね、彼女が書いた303っていう詩がこれ。題名っていうか、作品番号だけど。モーツァルトの曲についてるケッヘル番号みたいに」
「わざわざ手書きでうつしたの」
「自分で訳したから」
「悠美ちゃんってそんなに英語できるの」
「趣味で詩集ぐらいは読むよ。で、これが早馬蒼人の303だよね」
いわない
誰にもいわない
王族が頭を下げようと
神様が命じようと
いわない
絶対に 誰にも
たとえ貴女がすべて知っていても
いわない
百年後でも いわない
このくちびるに禁じている
殺されても 絶対に
悠美は詩集のページと自分の書いた紙を見比べる。
「やっぱりだいぶ違うね。これとは関係ないかな。むしろこの詩のタイトルは《いわない》だよね」
詩集をめくりながら呟く。
「この303もそうだけど、早馬蒼人って片思いの歌でも、けんか売ってるみたいで面白いね。アオトなんて顔だけでしょ、とかいう人は、ちゃんと聴いたことがないんだね。歌もうまいのに」
悠美ちゃんはわかってる。303が片思いの歌だって。
つまり、私の気持ちも、見抜かれてる――?
「悠美ちゃんて本当に、大学に行くつもり、ないの」
彼女の兄は県内の国立大学に行っている。兄と同じ高校に行っていて、成績も悪くないのに進学しないのか。こんなに物知りで、英語もさらっとできるのに。
「行かない。高校出たら専門学校って決めてるから。東京の学校でも通えるしね」
「そうなんだ」
通えるし、という言葉に安堵していると、悠美のスマホの着信音が鳴った。
ごめんね、と言いながら部屋を出て行く。
「はい。なに? え、六時からの回? 確かにみたいっていったけど、今から? いま人が来てるんだけど。今回はおごりだよね、当然」
希望はピンときた。悠美は最近、一緒に映画をみにいく友達ができたと言っていた。私も行きたい、とはいえない。希望は映画館が苦手で、二時間ぐらいの長さだと、間違いなく寝てしまう。悠美はそれを知っているので誘わない。希望も、社会人の男と映画に行くという悠美に、くっついていきたくない。
まあ、悠美ちゃんは頭がいいし、つまらない相手だってわかったら、すぐ次に行くよね。たぶんね。
電話が終わったタイミングで、希望は大きな声を出した。
「お邪魔みたいだからお茶だけ飲んで帰るね」
「ごめんね」
「気にしないで。でも、悠美ちゃんの書いたその詩、よかったらくれる?」
「いいけど、私が書いた詩じゃないからね?」
「わかってる」
希望はバッグに入れておいたノートに悠美の詩をはさんだ。
いいんだ。彼女が《ただひとりを望もう》という気持ちを知ってるなら、私は、それだけで――。
休みの日、希望が自分で焼いたホットケーキをつついていると、洗濯物を干し終えた母が台所へきて、スマホを見つめてため息をついた。
「悠美ちゃんはすごいわねえ」
「今さら?」
「美容師の学校の奨学金がもらえるんですって。学費全額免除っていうから、条件は相当厳しかったんじゃない? 今は奨学金なんて名ばかりで、ヤミ金と変わらないようなのも多いのに。きょうだいそろって、優秀なのね」
「優秀でなくて悪うござんしたね」
「どこでそういう言葉づかいを覚えてくるの」
「お母さんの見てる時代劇」
「それはごめんなさいね。それにしても、学生寮も無料ですって。助かるわね」
「すみませんね本当に」
「あら、希望が大学に行けるくらいのお金は、おじいちゃんが積み立ててるから大丈夫よ。可愛い内孫が進路で困らないように」
「おじいちゃんが偉いだけの話だった」
「まあ、学生のうちは自宅から通えるところにして欲しいけどね。悠美ちゃんはともかく、希望じゃちょっと、心配だから」
「心配な娘で申し訳ない」
軽く流したが、希望は母の言葉を聞き逃してはいなかった。学生寮も無料、ということは、高校を卒業したら家から通わないってことだ。あんなにスペックが高いのに、ことあるごとに兄さんと比べられてたもんな。家を出るには充分な理由だ。
「どうしたの、希望? お腹でもいたいの」
「食べ過ぎたかも。いろいろお腹いっぱい」
希望は残りを冷蔵庫にしまいこんだ。
自分の気持ちもしまいこんだ。
蒼人のファンクラブもやめたし、もうタダで髪を切ってもらう必要もないんだ。私に内緒で、どこへでもいっちゃえばいいよ、本当に。
早馬蒼人の第一詩集は、ペイルホースの代表的な曲以外にも、切ない詩や鋭い詩がたくさんあった。買って良かったと思った。音楽と違って、うるさいと怒られることもないし、詩なので枕元に置いて、ちょっとだけ読んでから寝ることもできる。
第二詩集が出た時も迷わず買った。
のだが。
「……なにこれ?」
信じられなかった。ふつうっぽい恋歌。ありきたりな平和を願う歌。こんなもの、わざわざ蒼人が書かなくてもいいじゃないか、という詩ばかり載っている。新曲も試聴してみたが、うすっぺらな言葉が並んでいた。
《そっか。蒼人は本当に幸せになっちゃったんだ》
好きな人と結ばれて、新しい家族ができて。自分は幸せの絶頂にいますって全世界にアピール中なんだ。それじゃ、もう、誰にも言えない片思いの歌なんて、つくる気もしないよね。もちろん幸せは悪いことじゃないけど、蒼人が歌ってきた孤独と意地は消えてしまった。これからは蒼人の歌を口ずさんでも、慰められることはないんだ。
おめでとう、蒼人。そして、さよなら。
こっちから連絡しないと、悠美ちゃんは連絡をくれなくなった。忙しいらしい。でも、そろそろ髪を切って欲しいな、とメッセージを入れると「いいよ。いつがいい?」って返事をくれる。それだけでいいと思ってた。でも、結局私には知らせずに家を出て行くし、私がいても別の人と映画に行くし、いずれは離れなきゃいけないんだ。っていうか、もう会いたくないな。会ったら言われるんだろうし。おまえなんて、いらないって。だって私は悠美ちゃんに望まれる、「ただひとり」の人じゃないから。
悠美ちゃんと同じ高校に行こうと思ってたけど、やめようかな。成績ギリギリだし。親とか先生になんか言われるかな。まあ、もう少し受験が近づいてからでもいいか。近所に新しいカットハウスができたから、髪はそこで切ろう。悠美ちゃんの時間を盗むのは、もう、やめるんだ。
「図書館にいる?」
突然、メッセージが飛んできた。短く返す。
「どうして」
「いま、アオトの朗読会やってるから」
「そうらしいね」
「抽選外れちゃったの?」
「もともと申し込んでない。ファンクラブもやめちゃったし」
「そうなんだ」
「悠美ちゃんは図書館にいるの」
「うん。たぶん、もうしばらくは」
「朗読会のこと、知らせてくれてありがとう。忙しいからまたね」
そうか。悠美ちゃんは図書館にいるんだ。例によってランダムに、十冊ぐらい積んで読めるだけ読んでるか、推してる作家の本を順番に並べてるか、とにかくしばらくはいるんだろうな。もう進路も決まってるし、時間があるから。
じゃあ、私は?
勉強に手が着かないのはいいとして(よくはない)、なんかモヤモヤしたまま、残りの何ヶ月かを過ごす?
はっきり言われた方がよくない?
今から自転車で行くとして、二十分あれば着くよね?
会えるかどうかわからないけど。
またね、って言ったし、悠美ちゃんは私が行くとは思ってないはず。
でも悠美ちゃん、蒼人が好きなわけじゃないのに、ちゃんと知らせてくれたんだよな。二番めの詩集も読んでないんだろうし。読んでたら、私が好きじゃなくなった理由もすぐわかったろうし。だって、悠美ちゃんは、頭がいいから。
よし。驚かせることに決めた。行くぞ。
いつもは静かな図書館に、今日は女の子がたくさん並んでいた。二回目の朗読会を聴くつもりの子たちだ。あんな新曲でも、ぜんぜん気にしない子たち。
「整理券は終了しましたが、フライヤーはまだ余裕があります。ご希望の方はどうぞ」
いや要らないよ。別に蒼人の顔が好きだったわけじゃないから。男だけど、ちょっと濃いめの美人で、悠美ちゃんにうっすら似てないこともないけど。
「希望ちゃん?」
バックパックにパンパンに本を詰めた悠美ちゃんが出てきた。
「うん。急に、返さないといけない本があったのを思い出して」
「そうなんだ」
悠美ちゃんは朗読会の案内を手にしていた。
「あのね、私……」
希望はそれを遮った。
「私は悠美ちゃんが家を出る話なら、もう知ってるからしなくていいよ。他になにか、いうことある?」
「ある。これみて」
渡されたフライヤーを見た。蒼人の手書き文字が印刷されている。
大田原市の皆様へ
僕の曲に303というタイトルの曲があります。アメリカのある詩人の詩が好きでつけました。それは誰にも言わなかったのですが、大田原市のファンの方から「これですか?」とお手紙をいただいたことがありました。正解です。その人に会いたくて今日は来ました。303を好きなあなたの上に、幸せが降り注ぐよう、心から願っています。
悠美ちゃんは声を低くした。
「希望ちゃん。私、一ヶ月にいっぺんぐらいは帰ってくるよ。悪いけど、千円カットのお店で切ったその髪より、私の方が可愛くできる」
ああ、そうだった。
ずっとそばにいられなくたって。一番じゃなくたっていい。
そんなこと、どうでもよかった。
「知ってるよ、そんなこと」
だって、とっくに私の上には、幸せが降り注いでいた――。
(2024.10脱稿 小田原駅東口図書館ショートストーリー企画参加作品。2025年3月まで図書館公式サイトでPDF交付中。作品集は図書館で公開中)
●企画概要
以下の(1)か(2)の書き出しを使って8000字以内でお書きください。
(1)「あれ、本になにかはさまっている。」
(2)「いつも静かな図書館が、今日はちがった。」
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