『おそろい』

まず、どこで買ったものか、わからない。
デパートで尋ねると、呉服屋なら豊富な種類があるという。手近な店を教えてもらい、そこへ行く。
銀髪の少女を迎えた女主人は、異国情緒を求めて来たものと判断して、鳥や花の柄物を見せはじめた。
狩魔冥は滑らかに遮った。
「厳粛な場で使うものなの。無地はないの」
主人はその日本語の確かさに身を縮めながら、
「濃紺が一番無難かと」
「紺ねえ」
ぴんとこない顔で広げられたものを見つめていたが、ふいに一枚を取り上げた。
「これは、公式の場でも使える色かしら」
「ええ。女の方ならそういったお色もよろしいかと」
「男はだめなの」
「そんなこともございませんが」
「なら、これをいただくわ」
狩魔冥は目的を果たした。

御剣怜侍は、公判に向かう冥が片手に下げているものにふと目をとめた。
濃いワインレッドの風呂敷だ。
裁判に関する資料はかさばるため、日本では風呂敷に包んで法廷に持ち込むのが普通だが、アメリカから来た冥がそれにならって、わざわざ風呂敷を使うとは。
とはいえ洒落た色なので、銀髪の冥がもっていてもおかしくはない。というか非常に見覚えのある色だ。つまり御剣のスーツの色にそっくりだ。意図的にお揃いになるように選んだかのように。
とはいえ私と色をあわせたのかと尋ねれば、自意識過剰よ御剣怜侍、とにらまれることだろう。黙って後ろを歩いていると、ふいに冥が振り向いた。
「なに、じろじろと」
「いや、別にジロジロなど見ていない」
冥はふっと微笑んだ。
「いい色でしょう。それに丈夫なのよ」
「そのようだな」
冥は縮緬の風呂敷の結び口から何か畳まれたものをすっと抜き出すと、御剣に手渡した。
「気に入ったのなら弟弟子にプレゼントするわ。お使いなさいな」
おんなじものがもう一枚。
微笑みを残したまま、冥は去る。

驚いた。これでは本当にお揃いだ。

そして微笑みを浮かべ、御剣も去った。
照れ屋な冥らしい、と思いながら。

(2003.10脱稿/初出・恋人と時限爆弾『おそろい』2003.11発行)

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Written by Narihara Akira
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