この本を手に取った時、まず第一に感じるのは“戸惑い”である。そしてページを進めていくうちに深まる“これは何だ？”というわだかまり。しかし、それこそがこの本の特徴であり、作者の狙いなのである。読書家なら馴染み深い文庫のような装丁、この本を“発表”しているＭ・ブルーウォーターという作家……この部分が、この本における真のミステリーなのだ。
では、内容はどうか。それに関しては、作者当人の申告を否定しなくてはならない。要は登場する二人の女性の精神的成長を記した物語りというだけで、決して“推理小説”を冠する程ではない。彼女達の為に事件は起こり、彼女達の人生を見守る為にこそ、この物語は価値を見出す。
ただし。この物語が他の媒体では全く意味を為し得ない代物だということは、特記しておく必要を感じる。この物語は“この本”として手に取って初めて意味を形成するからだ。同人誌が“個人の意図を最大限に発揮させられる発行物”である事実を大いに利用した、完膚なきまでの“作品”なのだから。見た目の派手さだけを狙った昨今の同人誌には、ぜひとも見習っていただきたい粋がある。（Ｒ）

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