『冬支度』


 戦国の世は、のちに「小氷期」などと呼ばれたほど寒い時代だ。冬になると、人々は着こむか囲炉裏を囲んだ。公家や上流の武家は火鉢や炬燵も持っていたが、寒さを防ぐ手立てはほぼなかったといっていい。あとは酒を飲むか身体を動かし続けるか。そもそも冬は戦をしない。凍死するので野営ができないからだ。身を寄せ合うのも限度がある。
 だが。
「刑部はあたたかいのか、それは」
 三成は、城へ戻ってきた吉継の冬支度をチラチラ見ている。
「いや、別に」
 近場を偵察する時に、吉継は普段の輿でなく、冬支度と名付けた炬燵に乗って出る時がある。輿と同じく宙に浮いているので、中に囲炉裏があるわけではない。火鉢も下げてはいない。ただ中がほんのり明るいので、なんらかの火種か焼いた石でも取り付けているのかもしれないと思って、きいてみた。吉継の病は身体を冷やすのがもっともよくないからだ。せめて足だけでも温めて欲しいのだが。
 というか、吉継が動くたびに緋色の布団の裾が揺れて、小袖の裾がはだける様子を連想させる。ほどけた包帯をひらひらさせているのも気になるが、布団もめくれてほしくないという、なんとも妙な気持ちになるのだ。
「まあ綿布団ゆえ、足を入れれば温かかろ」
「ではなぜ上に乗っている」
「足を組まねば飛べぬゆえ」
 結跏趺坐でないと、安定して浮遊術が使えないということか。
「気になるのなら、足を入れるか」
 吉継は炬燵を畳の上におろした。三成は裾から、足を滑り込ませる。
「温かい」
「さよか」
「なぜ貴様は入らない」
「降りるとうまく動けぬゆえ」
「では私が」
 三成が腕を伸ばそうとすると、
「姫御前でもあるまいし、幼子でも降りられる高さを、抱えられるのはなァ」
 ツイ、と冬支度ごと逃れて、
「そも、ぬしが入りたいのは炬燵ではなかろ」
赤い舌をチラリとのぞかせる。
 三成は喉を鳴らした。
≪ああ、やはり誘っていたのだ――私を!≫





(2024.11脱稿 赤ブー感謝祭241123用書き下ろし)

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Written by Narihara Akira
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