『内の人と外の人』


創作作法については、今まで何度か書いているので、重複する可能性もあるのですが、最近いただいた依頼原稿のせいで、特に「内の人」と「外の人」について、改めて考えています。
今回はそれについて書きます。
恋愛要素のある話を書く場合、その話には必ず「内の人」を設定します。恋愛要素がまったくない話の場合は必要ない時もあるのですが、メイン視点をもつキャラクターがいる場合は「内の人」をあてます。
「内の人」とは何か。
それは私の中にある要素を切り出しているキャラクターです。これは一時創作・二次創作にかかわらず、必ず必要です。二次創作でいえば、「サイキックフォース」ならウォン、「戦国BASARA」なら三成。オリジナルBLでいえば「それから」のアンドー、「美少年興信所」はメインキャラ四人(多い!)。近作の「美少女探偵・美咲」だったら、紫乃ちゃん。
彼ら・彼女らは、私と同じ視点を持っています。キャラクターの属性に差異がありますが、基本的に私の分身なので、台詞を考える時に困ることはありません。私が出した答えを、そのまましゃべるからです。何を考えているのかさっぱりわからない、ということがないからです(満潮音さんだけは、じゃっかん例外です。初期の満潮音さんは、うさんくさいモード時の辻谷耕史の声をイメージしていたので、たまに理解できなかった。辻谷さんがお亡くなりになった後、つまり「瀕死の探偵」以降の満潮音さんは別人になったので、比較的わかりやすいカワイコちゃんになりました←カワイイ?)。
また、サブキャラであれば、私の内側にいなくてもしゃべらせることができます。「それから」のバシア・バスイール、「美少年興信所」の鷲尾養太郎あたりは、サポートキャラクターとして存在しているので、内の人をフォローするという明確な役割があるため、台詞に困ることはありません。鷲尾さんは声は子安武人(仕事モード)のイメージなので、勝手にしゃべってくれたりします(それと同じで戦国BASARAの竹中半兵衛も困りません。石田彰の半兵衛ならどうしゃべるか、だけ考えれば書ける)。
また、本来的には「内の人」ではないけれども、心境の半分ぐらいは「内」で処理しても大丈夫だな、というキャラクターもいます(二次創作ならキースとか大谷さんとか)。基本的に「内の人」と組み合わされるので、会話についてはそんなに困りません。

問題は「外の人」です。
基本的に「外の人」は「内の人」に愛される側のキャラクターです。これは私の趣味が煮詰まった系があてられるので、美形で頭のいい王様(もしくは女王様)キャラクターになりますが、王様の心の中なんて、私にわかるわけがない。想像することはできても、全部わかったらそもそも好きにならない。なんらか想像の余地があるから魅かれる。余地がなくなってアラが見えたら好きじゃなくなってしまう。私にとっての「外の人」はそういう存在です。ところが、書き続けているうち、「外の人」の心境もわからないと、きちんと書けない話がでてきました。わからない人の視点で、私は何か書くことができるのか?
その答えとして書いたのが、「それから」の番外編である「いえない言葉」(マモル視点の入院前後の話)です。
イベント「テキレボ」のウェブアンソロジー「嘘」に寄稿したもので、4000字しばりで書いたのですが、文字数制限内で彼の四半世紀の生涯を織り込むことより、彼の心理を想像して書くことの方がずっと難しかった。「本当にマモルはこんなことを考えているのか? アンドーが思っているより、アンドーのことが好きなのだろうか? そもそもどういう風に好きなんだ?」これをずーっと考え続けて、それらしく整えました。幸い、あたたかな感想に恵まれましたので、たぶんこれで外の人も書けるようになったかも、と思っています。
美咲ちゃん物も、紫乃ちゃん視点からだけでなく、「雪の女王」や「初恋」で、美咲ちゃんからの視点で書くことができました。これは私にとってはたいへんな進歩なのですが、読者の方にとっては差がわからないかもしれません。特に「初恋」は2000字で紫乃ちゃんの初恋について書いているのですが、美咲ちゃんはそれに対してクレバーな回答を出します。そのために私は脳みそをフル回転させなければなりませんでした。書いては削り書いては削り……できあがってみれば普通のお話なのですが、アンソロ主催のオカワダアキナさんから「美咲ちゃんの賢さ!」と褒めていただけたので満足です。

とはいえ。

メインキャラが二人揃って「外の人」の場合。

これは。

無理だな。

どっちかをなんとかして、「内の人」にするしかないな。

と思います。

まだまだ修業が足りないですよね……。

でもね。
ロマンスなんて、自分が「このカップル気持ち悪いなあ、よくわかんないなあ」と思って書いたら、それが出ちゃうんですよ。私に限らず、どんな巧い人だって、そうです。プロの漫画家さんだって「変化球を投げようとしてるのはわかるけど、この二人、めちゃくちゃ気持ち悪いから、マンネリでいいから、いつもの幼なじみ物を描いて!」って思うの、あるからね……生理的な嫌悪感ってにじみ出ちゃうんですよ。

なのであまり無理せず、今後も「内の人」にお伺いを立ててみようと思っています。



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Narihara Akira
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