『重ねる』


夜が更けるにつけ、三成の焦りは深くなった。
吉継が、チラチラとこちらの様子を窺っているからだ。
《あれは、刑部が甘えたい時の目だ》
正直、今すぐにでも腕の中にさらいこんで、閨に飛び込みたい。
ああいう風に潤んだ瞳でいる時に抱くと、吉継は常よりずっと乱れる。
身も心も開いてくれているのがわかって、三成は夢中になる。
だから、欲してくれる時に抱きたい。
それに、あんまり焦らすと、醒めてしまうだろう。
《ああ、どうする》
明日は大事な年賀の儀だ。
年始の秀吉は派手好みで、そのため、細かな準備がまだ終わっていない。だが。
《さすが、刑部は手回しがいい。もう、あらかた済んでいるようだ》
三成は心を決めた。
配下の者を育てるのも武将の義務、小事は任せていくことも大切だ。
三成はサラサラと懐紙に指示をしたためて、近くで立ち働いていた小姓を呼んだ。
「左兵衛、後を頼めるか」
「かしこまりました。おやすみください、三成様」
心得顔でうなずき、渡された懐紙をおしいただいて、小姓が下がる。
「刑部。明日も早い。そろそろ休め」
「あい、わかった。ぬしはどうする」
「私も休む」
「そうよな、明日は朝寝ができぬゆえな」
そんな風に声をかけあいながら、吉継の寝所へ二人で急ぐ。
もう、吉継の期待はハッキリわかるほどで、声が甘く掠れている。
三成が後ろ手に障子をしめると、布団はすでに敷かれており、火鉢の炭は赤々としていた。吉継は灯りをともすと、輿から降りた。
「みつなり……」
羽織をスルリと脱ぎ捨て、包帯だけの姿になる。三成も余計なものを脱ぎ捨てて、吉継をぎゅっと抱きしめる。
「欲しい」
「ん」
吉継はため息に似た声をもらした。
「ぬしと、ひとつに、なりたい……!」


除夜の鐘が鳴り終えた頃には、お互い、すこし落ち着き始めていた。
今宵も吉継の乱れぶりは、ひどく可憐だった。
愛しい。もっと触れていたい。早く登城しなくてよいのなら、もう二度三度、吉継の中で果てたい。
そんなことを考えながら、三成は吉継の背中を撫でる。
「明けて、しまったな」
「ん」
吉継は三成の胸に、頬を押しつけて、
「それでよいのよ。ぬしと一緒に、年を重ねたい、と思うておった」
なるほど、それでチラチラと。
「われ、ほんに淫乱の性よな。いつまで共にいられるか、と思うたら、欲しゅうてたまらなくなった。眼差しで、ぬしを誘った」
「刑部」
「常はこれでも、己を戒めておるのよ。ぬしは決して落ちぬ星、それを見守るのがわれの役目。置いて逝くかもしれぬなどと、つまらぬことは考えるなと」
「刑部、それは」
「朝寝は無理でも、朝までぬしを、独り占めにしたい」
「それは私がいうべきことだ」
三成は吉継の顔を仰向かせ、口を吸った。
「新しい年も、その次の年も、夜の私は貴様だけのものだ。だから貴様も、ずっと、私の……」
そういって再び身を重ね、互いが満足するまでむさぼり続けて――。

(2014.12脱稿)

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Written by Narihara Akira
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