『ザ・緊縛妻』


その、あくる夜。

目覚めた刹那は、自分の手足がそれぞれベッドの四隅に縛りつけられているのに気付き、思わず小さな悲鳴を上げた。
「誰がこんな……!」
「おや、やっと目が覚めましたか」
ベッドの傍らで微笑んでいるのはリチャードだった。真夜中をとっくに過ぎている。こんな夜遅くになったのに、珍しくこの夫は戻ってきていたのだった。
「昨晩は帰れなくて、寂しい思いをさせてしまいましたからね。今夜はたっぷり可愛がってあげますよ」
「そんな」
刹那は身をよじり、いましめから逃れようと必死になった。
「嫌だ……」
「大丈夫ですよ。ひどくしませんから」
そう言いながら、リチャードは琥珀色の液体を入れたコップを手に、刹那の上にのしかかる。
「美しい、私の刹那」
そう囁きながら、刹那の胸にタラタラとコップの中身を垂らす。冷たい感触と共に、微妙な情感がじわりと広がる。
「いったい何を……?」
「ウィスキーに蜂蜜を入れただけのものですよ。最近あなたが元気がないようなので、すこし精をつけてあげようかと思ってこしらえたんですが、飲ませるよりも、こうした方がどうやらあなたには効きそうですね」
リチャードの舌が、チロリ、と胸の上の液体を嘗めとる。刹那は思わず喘ぎ声をあげてしまう。昨日のガデスとの情事で、身体がすっかり敏感になってしまっているのだ。
「せめて、いましめを……」
「ええ、ほどいてあげますよ。後でね」
リチャードの愛撫は常になく優しく、刹那が感じるポイントを的確に押さえてのたうちまわらせる。
刹那の瞳に涙が浮かぶ。
どうしてこんなに感じるのか。
昨晩は、ガデスに抱かれて“これが運命”と思ったのに。
「気持ちいいでしょう?」
慣れ親しんだ指の動き。巧みに這い回る舌の動き。
夫との蜜月期が身体の中に蘇る。
「あなたに身体の喜びを一から教え込んだのは私なんですから」
リチャードの瞳が妖しく細められる。
「この快楽には逆らえない筈です。あなたは誰にも渡しませんよ、刹那」
刹那は青ざめた。
ウォンは、気付いている。
自分が別の男に抱かれたことを。
助けてくれ。誰か。ガデス。
恐怖で身悶える刹那を更に抱きすくめながら、リチャードは猫撫で声で囁く。
「逃げられませんよ」
「あ、イヤ、ウォン……っ!」

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