『深 更』


三成はまだ、吉継の中にいた。
吉継は吉継で、快美の中にいる。
終わったと思った三成が、時々また腰をククッと動かして、吉継のいちばん良いところを攻めるからだ。
「ああ」
吉継が甘いため息をもらすと、三成はさらに腰を揺すり上げ、
「いいか、刑部」
「ん」
こういう時、小さくうなずくのは「もっと」というおねだりなので、三成は再び、吉継を激しくむさぼりはじめた。
何もかもすっかり、忘れさろうとするかのように。

*      *      *

竹中半兵衛が、死んだ。
豊臣の潜伏侵略がほぼ完了し、ついに、ひのもとを統一する日がやってきた。
だが、軍師の過酷な日常は、肺の病を急激に悪化させていた。
小田原の役に勝利し、大坂へ帰城しようという日、半兵衛は大量の血を吐き、倒れ、陣屋に運び込まれた。
「半兵衛、死ぬな!」
呼びかける秀吉に、半兵衛は美しい微笑みを返した。
「死なないよ。だって僕が、畳の上で死ぬなんて、ゆるされないことだよ、秀吉」
それが最後の言葉だった。
秀吉は、冷たくなっていく朋友の手を握りしめながら、赤い眼をさらに赤くした。
声なき慟哭が、その夜、静まりかえったいくさばを震わせ続けた。


三成も吉継も、いつか来る日と知っていたとはいえ、早すぎる半兵衛の死に衝撃を受けていた。秀吉の右腕として全軍を統率し、優れた智略を発揮した軍師というだけでない。彼の存在は、精神的にも豊臣の大きな支えだったのだ。
秀吉と半兵衛の遺体は先に大坂に戻り、三成たちはいくさの後始末と、陣屋を畳んでいく作業を行っていた。
月のあかるい夜、吉継は不要な灯明を消しながら、低く呟いた。
「やれ、北条討伐が終わったら、湯治でも願い出ようと思うておったになァ」
「そんなにつらいのか、刑部」
三成は青ざめた。
山間部では西より冷える。雨など降れば、病の身には随分とこたえることだろう。連戦の疲れをみせる吉継に気づいてはいたものの、我慢強い彼の口から、こんな弱音をきこうとは。
「箱根には、よい湯があるときいておったゆえな。小田原をおとせば、ひのもともようやく、ひとつになろ。ならば少し、身を休めてもよいかと」
三成は思わず、吉継を抱きしめた。
「ならば明日にでも湯に行こう。すぐに大坂へ戻らずともよいのだ、七日もあれば残党狩りも終わるだろう、それとも十日か、半月ほども必要か」
吉継は小さくため息をついた。
「太閤の許しもなく、そう長く休むわけにもゆかぬ。賢人殿なき今、われのような非力なものも、策のひとつもたてねばならぬであろ」
「秀吉様はおゆるしくださる、刑部のことも、よく心にかけておられるのだから」
「だが、今の太閤は」
「わかっている。しかし、秀吉様は大丈夫だ」
三成は自分にいいきかせるように、
「半兵衛様のお気持ちを、秀吉様がお忘れになるわけがない。だから、大丈夫だ」
「ああ、そうよなァ」
だが、そう答える声も弱々しいので、三成は身を震わせた。
半兵衛を失った秀吉の落胆ぶりは、三成も驚くほどで、自分が吉継を失ったらいったいどうなることか、その想像だけで身も心も冷たくなる。
吉継の病を知った時、そして吉継が静養と修行のために山に籠もった時、三成は身を切り刻まれるようなつらさを味わった。
つらいのは刑部の方だ、といくら己に言い聞かせようと、耐えきれない。
疲れきっている身を、いたわってやらねば。
そろそろ閨事も控えねばならないだろう。
刑部のすべて失ってしまうことは、できない――。
だが、三成の震えに気づくと、吉継は細腰を抱き寄せ、己の身をこすりつけるようにして、
「休みなどいらぬ。それよりぬしが欲しい。今宵ひとばん、ぬしをゆるり、楽しみたい」
「よいのか、刑部」
「われにとってイチバンの薬は、ぬしの熱い肌ゆえなァ」
そういって、吉継は低く笑う。
三成は深い息を吐いた。
「わかった。明るくなるまで、存分に……」

互いの顔の向きをさかさまにし、楽な姿勢で横になる。
すこし寒いので、一糸まとわぬ姿ではなく、二人ともひとえだけ、軽く羽織っている。
吉継は三成のものに触れ、掌でそっと撫で回した。
「ふっ……」
ため息をもらす三成に、吉継は楽しげな声で応えた。
「あいかわらず敏感よなァ。焦らしがいがあればよいが」
「私もしてよいのか」
「好きにしやれ。どのみちわれのは、しばらくかかる」
「わかった」
許可をもらった三成も、吉継のものに触れてみる。
柔らかいそれを軽く左右にゆすぶると、芯を感じる。三成は安堵した。
「貴様の感度も悪くない。楽しめそうだ」
お互いのものを愛撫しあうのは、実は久しぶりで、佐吉・紀之介とよびあっていた小姓時代を思い出して、三成の胸に、あまやかな情感が満ちる。
あの頃は互いのもので遊ぶようにして、閨事を学んでいた。
なにしろ佐吉は、紀之介が初めてで、他を知らない。
そして、書物に書いてあることというのは、往々にして間違っている。
つまり、経験の豊富な紀之介がやり方を教えてやらなければ、佐吉は上達しないわけで、快楽を好む紀之介が、佐吉をいつまでも下手なままにしておけるわけもなく、いつもの面倒見の良さを発揮した。
触れ方、舐め方、焦らし方。
口づけ、舌でなぞり、しゃぶりつき、上の口だけでいかせられるようにする。
最初は紀之介がやってみせ、佐吉が同じようにする。
素直な佐吉である、のみこみは早かった。なにしろ、目に見えて紀之介が反応してくれるのだ、羞恥心も忘れて熱心に憶えた。
そのようにして紀之介は、自分ごのみの情人を育ててきたのである。
大人になってからは、もっぱら三成から触れるようになり、互いを同時に口に含むようなことも、ほとんどなくなっていた。病になった吉継の感度が落ち、外への愛撫よりも、中を熱いもので犯されるのを、より好むようになってきたのもある。
なのでこれは、懐かしくも心地よい行為だった。
「ん、みつなり……」
吉継の声も、もう掠れてきた。
それでも、三成の丸くふくらんだ部分を、やわやわと握りこみ、環にした指でくびれを押さえて、てっぺんをチロチロと舐める。
三成も同じように触れながら、吉継を口に含む。歯をたてないように気をつけながら、たっぷりと濡らす。
吉継の低い呻きが、三成のものを震わせた。
感じているのだ。
だが、その愛撫は途切れず、むしろ強さを増してくる。
三成は吉継の胸に手を伸ばし、包帯をずらして乳首をつまみだした。
見ると、ぷっくりと赤黒く熟れて、すっかり敏感になっているのがわかる。
掌で転がし、強めに押してやると、口腔内の吉継のものも、硬さを増す。
三成は、頭の芯が痺れてきた。
吉継が自分を楽しんでいる。
わずかな愛撫でとろけている。
自分の腰も、たまらなく気持ちがいい。
こんなにいいなら、激しい交わりで吉継を疲れさせるより、互いの口で達ってもいい。
今宵はゆっくり楽しみあうと約束して、このように始めたのだから、とにかく最初は前だけで、そう思いながら舌を動かしていると、吉継が三成のものから口を外した。
「みつなり……うしろ、も……」
三成は吉継のものに頬ずりしながら、
「どうした、うまくないか」
「ぬしは上手よ。われが淫乱なだけのこと」
「そうか。物足らないなら仕方ない」
三成は吉継の脚を開かせ、濡らした指を潜り込ませつつ、前をしゃぶる。
吉継の腿が震え、三成の腕を締めつけた。
三成をしごく掌も止まりがちで、受けている愛撫に夢中なのがわかる。
それが、三成には嬉しくもあり、寂しくもあった。
若い頃は、どんなに佐吉ががんばろうとも、紀之介の方に余裕があり、いつも先に達かされた。それでも熱が落ちつかないでいると、「やれ、仕方のない」と抱かせてくれた。紀之介の胸に甘えるようにして眠ると、佐吉の心は充たされた。
ああ、これからは、私が刑部を、甘やかせるようにならなければ……。
すると吉継が、思い出したように、三成の物に強い愛撫を加え始めた。
吉継のものも、三成の口の中で達きそうにふくらんできた。
よし、このまま一度、と思っていると、また、吉継は口を離してしまった。
「刑部、もう焦らすな」
「焦らしておるのではない。われ、ぬしのが……ぬしので……」
いれてくれ、というのだ。
三成はためらった。
「ゆっくりして欲しいのでは、なかったのか」
指をしめつけてくる吉継の様子からして、彼の絶頂も近いはずで、焦らすのも気の毒だと思う反面、いま入れたら、絶対に中で漏らしてしまうと思うと、迷いが生じる。一度ではすむまい、二度三度と続けて出してしまうだろう。そうしたら、ゆっくりするどころではない、すみやかに後始末をしなければならず、そしてまた、復活するまでやるとなれば……いや、三成はよいが、受け身の吉継には辛すぎるはずだ。
だが、吉継はイヤイヤをして、
「もうよい、よいのよ。だからぬしのを、たっぷり……注いで……」
請われてしまうと、拒否できる三成ではない。
「ああ。奥の奥まで、注いでやる」
指を抜き、吉継の腰に掻い巻きをあてがって浮かせ、大きく脚を割り広げる。
吉継は片足を三成の肩にかけた。
「はよう、三成……あ」
三成のものが、ズブズブと深く入っていく。
よいところまで犯されて、吉継も先走りをしたたらせた。
「刑部、あまり締めつけるな」
「ぬしのが、よくて、タマラヌのよ」
「私もだ。だからもっと、味わいたい」
そう囁いて、吉継が一番感じるところを、こするように腰を動かす。
「やれ、もうたまらぬ、ぬしも一緒に」
「ああ、刑部……!」
三成も我を忘れた。
ギリギリまで我慢していたが、締めつけられて達すると、どっと白濁を溢れさせた。
やはり一度ではすまず、二度、三度と達ってしまう。
頭の中で火花が散った。
この世にこんな喜びが他にあろうとも思われず、三成の腰は夢中で動いた。突いて、突いて、突きまくる。そのたびに三成の耳に聞こえるのは、吉継の喜びの声で、三成は己がすっかりとろけるまで、吉継を犯し続けた。
「……ああ」
三成がようやく身体を離すと、吉継の秘孔から精が溢れ出してきた。
吉継は朦朧とした表情で、余韻を味わっていたが、三成は再び、指を潜り込ませる。
「あっ、三成」
吉継の身が緩んでいるうちに、少しでも掻き出そうと思ったのだ。だが、それは新たな刺激であり、吉継は身悶えた。
「すまない、痛むか」
三成は後孔に口をつけ、すすり上げるようにした。
吉継はヒャア、と悲鳴をあげた。
「あとでよい、三成、そのようなこと、もう」
三成は己がだしたものを、手の甲でぬぐいがなら、
「後ではだめだ、私はまだおさまっていない。口でしてもらおうかと思ったが、私もここがよい。もっと欲しい」
吉継はため息をついた。
「今宵のぬしは、なんとも激しい」
「いやか」
「欲しがったのは、われのほうよ」
「ああ、そうだったな」
三成は再び、吉継と身を重ね、深いところでひとつになる。
吉継の脚が、三成の腰にからみついた。
「朝まで、存分に、ぬしのもので……」

一番鶏が鳴く頃、ようやく三成は熱をおさめた。
何もかも忘れて没入していたので、二人ともクタクタだったが、それでもお互い、深い喜びにひたっていた。
「やれ、ほんに朝までよな」
「貴様が、一晩ゆっくり、とねだったのだろう」
「たしかにゆうたが」
「休まずともよいといっていたが、今日は朝寝をした方がいいぞ」
「いわれずとも、まあ、起きられぬわ」
「それなら、しばらく、このままで」
三成は、吉継をゆるやかに腕の中に抱き取った。
「明け方は冷える。この方があたたかいだろう」
「そうよな、三成」
吉継は三成の腕に甘えるようにする。
やはり疲れているのか、三成はすぐに眠りに落ちていった。だが、心にかかることがあるようで、もぐもぐと寝言を呟いている。
「大坂は、大丈夫だ。秀吉様が、いらっしゃる、だから……」
吉継は、安心させるように三成の腕を撫でながら、
「そうよな。太閤がご無事であれば、われらもなァ」
だが、悔いを残したくない、といわんばかりの三成の熱烈さに、かえって吉継は不安をかきたてられていた。
己の病も心配の種だが、また各地で騒動など起これば、三成は再び、豊臣の主戦力としていくさばを駆けめぐるのだ。今の三成の腕前なら、通常は心配ないかもしれない、だが、ついていけないような場所で、もし、三成に何かあったら。
「やれ、余計なことは、考えぬが吉よ」
三成の静かな寝息と、おのれの呼吸をあわせると、吉継も目を閉じた。
いま触れている熱だけは、確かなはずで、あったから――。

(2013.4脱稿)

《よろずパロディ》のページへ戻る

Written by Narihara Akira
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/