『俺がケツから抜いてやる。』



《俺がケツから抜いてやる。》

「……協力プレイ? 俺がいちばん苦手なことなんすけど。他のゲーマーに迷惑かけるだけっすよ。前線でない、足手まとい、仲間とはぐれて迷子になって、終わりっす。現実と同じで、頭のいい奴や要領のいい奴は、ゲームもうまい。漫画みたいに、不器用な人間がゲームの中でだけヒーローなんて、ありえない話で。だいたい、なんで俺なんか誘うんすか」
「今市くん、あんまり自分のこと話さないけど、ゲームの話の時だけ興味示すから。誘われるの、厭なんだ? ひとりでコツコツ極めるタイプなんだね」
「ゲーセン通ってたのなんて十年以上前っすよ。俺、何歳だと思ってんすか、安里さん」
プライベートを話すのが厭なのは、前の職場で、友達と思ってた奴に秘密をバラされて、あげくパワハラにあったからだ。
バイク便の支店に勤めたのに、外務じゃなくて、給料安い事務バイトやってる三十路の俺は、正直、終わってる。
「あのね、クロスレーサーの十年前の筐体が、期間限定で駅前のゲーセンに復活したの。それで、部内対抗やろうって企画がもちあがって。六人でリレープレイするの。で、今市くんに、アンカーやってもらえないかなって」
「だから、なんで俺が」
「今市くん、お父さんがバイク乗りで、小さい頃はタンデムが楽しみだったっていってたじゃない。それに、普段バイクに乗ってる私たちが、総務に負けたら悔しいじゃない」
「だから俺、普段、乗ってないし」
「お願い。明日、待ってるから。ね?」
ああ。ほんとに俺は終わってる。
憧れの同僚に、誘われるままゲーセン行くとか、終わってる。
それが十年前、唯一極めたゲームだったとしても、俺はもう若くない。何もかも衰えてる。
それでも、同じ部の連中がバイク型の筐体をゆすりながら、情けない悲鳴をあげてるところを見たら、身体が自然に動いてた。
《まかせろ、俺がケツから抜いてやる!》


(2013.9脱稿/初出「クイズ・文体ドン!」佐藤さま主催・タトホン8企画。2013.10発行)

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Narihara Akira
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