『二年後』


その夜、ウォンは刹那のベッドに座り、本を読んでいた。
すると刹那がふらりと自室に戻ってきた。
白いスーツを脱いで椅子に放り出し、大きくのびをすると、シャワーを浴びにいく。
そして白の部屋着に着替えてくると、レンジでミルクをあたため、TVをつけた。
生あくびをしながら椅子に座り、コップに口をつけた刹那に、ウォンはベッドから声をかける。
「いいのですか、それで」
「なにがだ?」
刹那はふりむきもしない。その身体はひどくリラックスしている。
「今日はあんたに仕事を頼まれてないし、訓練結果も異常なかった。だから報告しなきゃならないことは、別にないよな?」
「いえ、そうではなく、あまりに無防備すぎませんか」
「ここは俺の部屋だ。すこしぐらいくつろいでも、かまわないんじゃないか?」
「しかしいいんですか、私にそんな、がら空きの背中を見せて」
「なにをいいだすかと思えば。あんたは一瞬で、俺の背後がとれるだろ?」
刹那はニュースを消すと、コップをもったまま立ち上がって、ベッドに近づいた。
「あんたは人のベッドで何をよんでんだ? そんし、ってなんだ」
「兵法の基本を記した中国の古い書物ですよ。ああ、なんです、白いヒゲなんかつけて。ちいさい子どもじゃあるまいし」
ウォンは刹那の口元に手をのばし、牛乳の跡をぬぐう。
刹那はコップを置くと、ベッドにもぐりこむ。
やはり身体はリラックスしている。このまま眠ってしまうのではないかと思うぐらいだ。
「やはり無防備すぎますよ、刹那」
「いけないのか? ここは軍の秘密部隊にあてがわれた個室で、しかもあんたが一緒にいるんだ。万が一ノアの連中に襲撃されたとしても、危険なわけがない」
「私がいちばん危険だと思いませんか」
「さあなあ。それより、あんたが寝るにはこのベッド、狭すぎるんじゃないのか」
「このまま寝てしまう気ですか」
「ああ。俺は眠いんだ。あんた、人殺しの本を読んでるようじゃ、ここに寝にきたんじゃないんだろ? 俺はいちにちのおつとめはちゃんと終わらせたし、よく、休むのも仕事のうちだって、いうじゃないか」
そういって毛布をひっぱりあげ、ウォンの腰のあたりに顔を埋める。
「あんたの前では、無防備でいいんだろ? だいたい、まだまだ勝てないってことぐらいは、俺だってわかってるからな……」
それはつまり、無条件の信頼。
ウォンは本を置き、刹那の蜜いろの髪に指をいれた。
「あなたを連れて、私のベッドに戻ってもいいんでしょうかねえ」
刹那は眠そうな声で答えた。
「ふん、最初からそのつもりだったくせに……。いいぜ、ウォン」




* 本妻へ *


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Written by Narihara Akira (2010.11)
http://www5f.biglobe.ne.jp/~Narisama/