『緋色のルージュ』
老舗百貨店のコスメコーナーに、商品券を握りしめた女が来た。着ているものも、店に並ぶ服の十分の一、いや、百分の一の値段か。
「このルージュの400番はありますか。なければ401か402でも」
「ございますが」
券を使うまでもない値段だが、凜とした店員はおくびにも出さず、
「秋の新色もこちらに」
女は地味な色には目もくれず、
「アナスイは発色がいいので、きれいな赤をつけたいんですよね」
「ありがとうございます」
店員の声がはずんだ。それからはずっと笑顔で、店の外まで貧しい女を見送った。声には出さず、祈りの言葉を唱えていた。
《私も休日は同じ色をつけています。あの美しい緋色が、これからも貴女の装いを彩りますように!》
(2020.10脱稿、300字企画(遠隔版)用書き下ろし。
企画ページ→
https://300.siestaweb.net/?p=6009
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Narihara Akira
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