『日時計』


「日時計って動くの?」
高校の中庭のぽっかり開けたところに、日時計が据えつけられていた。古い物だが金属の盤面は大きく、時刻の刻みも細かい。隣に桜の若木が、新たに植樹されていた。
「動かないだろ。季節によって盤面を動かさなきゃいけないとか……って、動かないな」
「あのね。先週の金曜に掃除当番に来た時、時間ぴったりで、意外に日時計って正確だなって思ったの。一週間でこんなにズレる?」
「植樹のために工事したのかな。それとも台座が腐食して、動かしたとか」
「日時計は陽に当たらなきゃいけないのに、隣に桜なんて植える? しかも真夏に」
掃除の後、僕も同級生もそれを誰にも話さなかった。桜の養分になりたくなかったのだ。



(2018.7脱稿、Text-Revolutions6【300字SSポストカードラリー】用書き下ろし
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Narihara Akira
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