『遺 贈』


「若い頃、お父様には大変お世話になりました。魂を救われたといっても過言ではありません。これは私の気持ちですので、どうか受け取って下さい。相続の手間は最小限になるよう、しかるべき筋に頼みましたが、処分はご随意に」

私には子どもも、近い親戚もない。わずかな財産を第三者に譲る遺言をしたためたところで、不自然に思われることはあるまいし、嘘は一言も書いていない。
なのに何度も、読み返さずにいられない。
本当に、彼の息子にすべて受け取ってもらいたいのか。
これはむしろ、意趣返しではないのか。

「誰も真相なんか、気にかけないさ」

私は一枚一枚、昔の写真を焼いていった。
裸でベッドに並んでいる、二人の男の写真を。





(2016.1脱稿、Text-Revolutions3【300字SSポストカードラリー】用書き下ろし
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Narihara Akira
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