『しおり』


この気持ち、どう伝えていいか、わからない。
私は言葉の専門家なのに。
というか、伝えていいとも思えない。
「貴女をずっと見ています。読書ブログ、読んでます。素敵な感想ばかりでため息が出ます」では、ただのストーカーだ。
しかし、カウンター越しとはいえ、図書館で週に一度は顔をあわせているのだから、返却期限の栞に一言添えるぐらい、かまわないのでは?
「貴女の本の選び方、素敵ですね」と。


彼女はいつもどおり本を返し、新しい本を借りていった。私が栞を挟んだ本には、別の紙が挟まっていた。
「司書のアルバイト、お疲れ様です。あなたの本、今後も買い続けます」
完敗だ。
そんな訳で私と彼女は、今も司書と読者のままだ。





(2015.10脱稿、Text-Revolutions2【300字SSポストカードラリー】用書き下ろし
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Narihara Akira
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