「わけのわからないこの気持ち」 |
「あんた、女のくせにわかんないの!?」 投げ掛けられた言葉は、俺に向かってきている。 そう言われたって、俺は女じゃねーからわかんねーよ。 ・・・今は外見が女である以上、そうも言ってらんねーけど。 俺が居候することになった先、天道道場の末娘「あかね」は、一応俺の許婚なんだそうだ。 だがこいつときたら、俺が女の姿してた時には満面の笑みで「仲良くしようね」なんて言ったくせに男だと分かった途端に手のひら返しやがって、しかめ面ばかり見せる。 そんなあいつが、今、すげー呆けた顔してる。 その前は泣かせちまった。 心配してくれてたのに俺が余計なこと言っちまって、あいつは目に涙を溜めて怒ってた。 そして、そのせいで・・・。 あいつの長かった髪が、切られた。 いや、誰も切ろうとして切ったんじゃない。けど、切られたあかねはしばらく言葉もなく、ただ呆然としてた。 目に焼きついた、あいつの呆けた顔。 家に戻っても、すぐ部屋にこもるし・・・。 相当怒ってんだろうな・・・いや、泣いてるかも? 心配して部屋へ行ってみたが、相手にされなかった。 俺は落ち着かなくて、家中をうろうろしながら、女子たちが言ってた 「女の子が髪切られるってものすごいショックなのよ」 このことについて考えてみる。 そう・・・だろうなあ。 「髪は女の命」って言うぐらいだしな。 なんかあいつの落ち込みようを見たら、それだけじゃねーような気もするけど・・・。 そんな顔すんなよ。 胸が痛くなる・・・・・・。 ・・・謝らなくちゃ。 俺はあいつが東風先生のとこに行ったって聞いて、追いかけた。 髪を短くしたあかねは思わず人違いかと思うほど、雰囲気が変わってた。 別人みたいだった。 「どうせ近いうちに、切るつもりだったんだから」 そう言うあかねは、俺を責めない。 責めてくれた方がまだ楽かもしれない。 それだけあいつが、辛そうに見えるから。 無理してるように、見えるから。 東風先生のとこに着くと、俺はすぐに違和感を覚えた。 いつも以上に、あかねが緊張している。 無理に笑うその表情に、痛々しささえ感じた。 そしてそれは東風先生の ・ ・ 「また短くしたの」 という言葉によって、さらに深まった。 またってことは、昔は短かったのか。 しかもそれに、あかねが変な反応をしてる・・・。 あかねが先生の前で激しく泣き出した。 それは、俺に見せた怒りの涙とは全然違う。 あんな泣き方することも、知らなかった。 東風先生は、ルックスもまあまあだし、医者としても名医だし、何より強い。 本気で闘うとこを見たことないけど、もしかしたら俺でも敵わねーんじゃって思う位。 そんな人が間近にいたら、誰だって好きになるだろう。 あかねもそうなんだし。 わかってたことだけど・・・わかっちゃいるけど、・・・なんかいやだ。 あかねの涙も、心も、全部先生のものだと思うと、妙にイラッとした。 けど、あかねを前にすると、そんな気持ちもすぐに消える。 泣き腫らした目が真っ直ぐ見れなくて、俺は精一杯の言葉を掛けた。 「かわいい・・・って、先生いってた・・・よかったな」 俺の言葉は全く気にせず「気持ちの整理がついた」と言うあかねの横顔はとても清々しくて、心底この髪型が似合ってるって思った。 そのせいで調子が狂ってつい俺の好みなんか口走ったけど、あかねは更に 「ありがとう。嬉しい」 そう言って笑った。笑顔が最高に可愛かった。 今までこんな可愛いコ見たことねー。 ・・・と思ったのも束の間、俺はまんまと川に落とされたのだった。 なんなんだ。なんなんだよ。 出会ってからずっとだが、最近ますますひどくなってる。 俺への態度にイライラしたり、泣き顔見て胸が苦しくなったり、笑顔見て鼓動が大きくなったり・・・わけわかんねーことばっかりだぜ! 「かわいくねえっ!!」 ずぶぬれになった女の体でひとまず悪態をついてみるものの、わけのわからない気持ちはまだムズムズしてる。 あー! 俺らしくねえ!! もうぐだぐだ考えるのはやめだ!! このモヤモヤがなんなのかなんて知ったこっちゃねえ! とにかく! この可愛くない許婚と、もう少しだけ一緒にいてやるよ! |