「ちょっと聞いて。妖夢ったらおかしくって」
「あら、何かあったのかしら?」
「神妙そうな顔をしていたから、どうしたの? って聞いたらね。 『どうして幽々子さまは私のことを半人前と言うのですか?』ですって。 本当、妖夢ったらおかしくって」
「あらあら、あの子も随分面白いことを言うのね。それで、貴女は何て答えたの?」
「答えるも何も、そのままよ?」
「それもそうね。ふふっ」

 ここは幻想郷の端に存在し、そして郷内唯一の神社──博麗神社。
 その縁側で亡霊のお嬢様──西行寺幽々子と  すきま妖怪──八雲紫が、実に楽しそうに会話を交わしていた。

「……………」

 間に御茶を啜る巫女──博麗霊夢を挟んで。









巫女の憂鬱




「あの時の妖夢、今でも思い出したら笑いが止まらないわ。あはっ」
「そんなにおかしかったの? 私もその場に居たかったわ。残念」

 霊夢の機嫌はあまり良くなかった。
 何故なら、境内の掃除を終えた後の楽しみともいえる御茶の時間だったからだ。
 霊夢は一人でのんびりと御茶を飲む時間を、暢気な見た目以上に味わう性質だから。

 掃除を終え、御茶を入れ一息ついた直後に、亡霊の姫君とすきま妖怪がやって来た。
 一人は鳥居をくぐり、もう一人は境界を使い社務所の中から現れ、  二人してタイミングが良いと言っていたが、霊夢にとっては最悪なタイミングだった。

「えぇーい! 私を挟んで会話をするなるなっ!」
「すぐそういうつれないことを言うのね。えいえい」

 左側から幽々子が。

「そうよ。心はもっと広く構えなきゃ。えいえい」

 挟むように右側から紫が。
 しな垂れかかりながら人差し指で霊夢の頬を突っつく。
 それらを振り払いながら、

「重い! 突っつくなっ! それと! 何でわざわざウチに来る!」

 以前に、妖夢から全く同じ質問をされた霊夢にとって、あまり笑える話ではなかった。
 その時は面倒だったということもあり適当に相槌を打っていたが、 帰り際の妖夢の顔を見るに、疑問の解けた表情をしていたので、 恐らく答えに近しいことを言ったのかもしれない。
 もちろん霊夢は自分が言ったことが正解だとは思っていなかったし、 妖夢にとってもたまたま頭に引っ掛かっただけの些細なことだと思っていた。
 それがまさかこんな展開になるとは。

「そんなに話がしたいなら、わざわざウチじゃなくて白玉楼ですればいいでしょうが!」



 ──白玉楼。
 幻想郷の遥か風上、雲の上を越えた先に幽明を分かつ結界がある。
 その結界をさらに越えた先に死者たちの世界──冥界が存在する。
 冥界の中心にあり、且つ西行寺幽々子の家と言える場所が白玉楼。

 西行寺幽々子と八雲紫は、亡霊と妖怪という間柄だが、旧知の仲でもあった。
 二ヶ月前に起きた(起こされた)異変により顔を合わせた霊夢と幽々子の様な短い関係ではなく、 寿命の短い人間という存在では想像出来ないような、それぐらい旧い関係だった。
 尤も、それを知っているのは紫だけで、幽々子は生者から死者になる際に生前の記憶を全て無くしたのだが。



「あら、私は神社で御茶をご馳走になろうと思って来ただけよ? 紫がいたのは偶然」

 そう言うと、幽々子は先と同じように霊夢にしな垂れかかり頬を突っつく。

「私は霊夢にちょっと悪戯しようと思って来ただけよ? 幽々子がいたのは偶然」

 紫も同じように反対側からしな垂れかかり、頬を突っつく。

「もう嫌……」

 笑う亡霊と妖怪に挟まれながら、それにしてもと霊夢は思う。
 分からないときは人に聞くと言うが、数週間前は敵だった人物に相談を持ちかけたのは如何なものか。
 先刻までは些細なことだと思っていた妖夢の悩みも、 案外彼女自身にとっては大きなものだったのかもしれない、と。
 そして、その妖夢にとっては大きかったかもしれない悩みも、 妖夢の主にとっては笑い話にしかならない。
 不謹慎だけど、幽々子らしいと言えば幽々子らしいわ、と霊夢は思った。







 そんな三人のことなど知る由も無く、博麗神社へと近づく黒い影があった。
 文字通りの黒い帽子を被り、黒地の服の上に白いエプロンをつけ、箒に跨った影が。
 近くまで来て境内からいくつかの声が聞こえると、口の端を斜めに吊り上げ。
 ニヤリという擬音が実に合いそうな表情を浮かべ、降下していった。
 境内へと降り立ち、縁側で両脇から頬を突っつかれ疲れた表情をしている巫女を見て。

「えらくご機嫌じゃないか、霊夢」
「どこがっ!!」

 その正体は、魔法の森に住む魔法使い──霧雨魔理沙だった。



 魔理沙が神社にやってきてから数分。
 今この場には霊夢と魔理沙しかいない。
 魔理沙が話しに加わったのを期に、

「それじゃあそろそろ私は帰らせて貰うわ。妖夢が心配しているかもしれないし」

 と告げて、ゆっくりと風上の方へ去っていった。
 紫の方も、藍が呼んでるとのことで境界へと身を沈め去っていった。



「で、何の話をしてたんだ?」

 本来ならこういうことは他者に話すべきではないのかもしれない。
 しかし、紫と幽々子が知っている時点で。
 そして当事者であるはずの幽々子が惜し気もなく言いふらしている時点で、 別に隠すようなことでも無いのかも知れない、と霊夢は思った。

「まぁ、こんなところかな」
「へー。あの半人半霊も一人前に悩んだりするんだな」

 しかし、よくよく考えれば判ることだったのかも。
 幽々子は確かに何を考えているのか判らないところがあるけど、 妖夢のことを大事に思っているに違いない……気がする。

「そうは言うが、あの幽々子だぜ? そこまで深く考えてるとは思えないぜ」
「まあ……」
「安心なさい。幽々子もそこまで馬鹿じゃないわ」

 消えたはずの声に振り返ると、そこには案の定のすきま妖怪がいた。

「紫……」
「お前、帰ったんじゃないのか?」
「また来たのよ」
「お呼びじゃないわ」
「まあ聞きなさいって。幽々子はちゃんと判ってるわ。それに、妖夢のことも大切に思ってる」
「胡散臭いけど、幽々子のことを一番知っている紫が言うんだから、きっとそれが正しいのよね」
「そうそう、あとこの間、霊夢が言っていたことも正しいわよ」
「そう、それなら良かっ──良くない。まさか、あんた覗いてた……?」
「ご名答。なかなか面白かったわよ」

 そう言うと、妖夢が霊夢の元を訪れたときのことを細かく説明してみせた。

「なんだ、そんな面白い妖夢が見れたのか?」
「それはもう」
「残念だぜ。私もその場に居たかった」
「あんたらねぇ……」
「博麗の巫女の言うことは正しい。良かったじゃない、あの子のもやもやを消せて」
「代わりに私のもやもやが増えたけど」
「良かったじゃないか」
「良くない!」

 言いたいことだけ言うと、「それじゃあねぇ〜」と手を振りながら紫は再び境界に身を沈め去っていった。
 途中で紫様と叫ぶ声が聞こえた気がしなくも無い。きっと藍がきまぐれな主人に怒っているに違いない。

「伊達にあいつらは長く生きてない。幽々子が妖夢のことを大事に思ってなかったら、 いくら西行寺付きの庭師とは言え、妖夢だってあんなに幽々子のことを慕ってはいないんじゃないか?  紫の話を鵜呑みにした場合だけどな」
「それはそうだけど」
「最初からお前が心配するようなことじゃなかったってことさ」
「別に心配なんかしてないわよ」
「そういうことにしておくぜ」

 魔理沙の言うとおりだ。
 あの時だって、幽々子が妖夢のことを信頼していたからこそ、 幻想郷中の春を集めるなんてことを命令したのだろうし、 妖夢も幽々子に絶対の信頼をおいていたからこそ、無茶だと判りきっていたその命令を聞いたんだろう。
 そのせいで春が遅れ私が迷惑を被ったのだけれど。
 ……………。
 まあ、いいけどね。

「にしても、なんか癪に障るわ」
「妖夢も随分アレだったが、霊夢もアレだったからな」
「アレって何よ」
「アレはアレだぜ」

 最初から答えが判っていた筈なのに、相談しにやって来た妖夢。
 そんな当たり前のことを、と笑い話にした幽々子。
 何の気無しに幽々子がわざわざ笑い話をしに来る訳がない。
 恐らく妖夢が何かに悩んでいて、それを霊夢に相談したことを知っていたのだろう。
 若しくは紫づてに聞いたのかもしれない。
 ともあれ。
 二人の関係は霊夢なんかには想像もつかないほど強い絆で結ばれているのだから。
 だから、博麗の巫女に相談などせず、最初から主に聞けば良かったのだ。
 もちろん、それは主にとって愚問にしかならなかっただろう。
 でも、きっと──。

「それで良かったのかもしれないわ」
「何がだ?」
「何でも無いわ。……ねえ、魔理沙?」
「あー?」
「久しぶりに、一戦やらない?」
「珍しいな。霊夢がそんなこと言うなんて」
「今は、そんな気分なのよ」
「私は別に構わないぜ。……何を賭ける?」
「そうね、じゃあ──」

 そして二人は同時に空へと翔け、弾幕ごっこを始めた。







 その遊びを、遠くの空から見下ろしながら。

「ありがとう、霊夢。あの子に気付かせてくれて」

 西行寺幽々子が一人呟いた。

「貴女も──」

 突然の声に振り向く。そこには境界から半分、身を乗り出した紫がいた。

「妖夢には甘いんじゃないかしら?」

 その問い掛けに微笑を返し、

「そうね……そうかもしれないわ」

 視線を神社へと戻す。その幽々子につられ、紫もそちらを見る。
 そこには幾つもの符を展開する神社の巫女と、それに向かって星弾を放つ魔法使いがいた。

「そうそう」

 思い出したかの様に言う幽々子へと視線を戻し、

「いい和菓子が手に入ったのだけれど、どう?」
「ふふっ、頂くわ」

 そうして八雲紫は白玉楼へ向かい、西行寺幽々子は白玉楼へ戻っていった。
 西行寺付きの大事な庭師──魂魄妖夢の待つ白玉楼へと。




 勢いに任せて。本当に勢いだけ。だからタイトルと内容が合わない。
 短い上にやっつけ感があるのは仕様です。是非ともノータッチで。(コピペ)
 会話部分だけ先に書いて、後から描写を肉付け。道理でおかしい文章。
 以前に書いた【半人前の庭師】の続きとでも言うべきでしょうか。
 幽々子は妖夢のことを笑っていますが、本当に大事だと思っているのだと思います。
 えいえいぷにぷにな、そんな妄想の博麗神社の1日。えいえい。


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