思うことがある。
 正直言ってあまり難しいことを考えるのは得意じゃない。
 私は当たって砕けない派だ。
 勿論、薬の調合とか魔法の研究などは別の話。
 好きでやっているということもあるし、何と言っても私は魔法使いだからだ。
 魔法使いが魔法の研究をしないでどうする。

 私が言っていることはそういうことじゃない。
 薬の調合とか魔法の研究とか、知識を必要とするものじゃない。
 以前、あんたは悩みが無さそうね、と神社の巫女に言われたことがる。
 その時は、お前だってそうなんじゃないか? 私の目にはそう見えるぜ、と 返しておいたが、そんなことはない。
 新しい魔法が上手くいかなかったり今日の晩飯はどうするかなど、悩み事はそれなりにある。

 しかし、最近になってどうしても分からないことがある。
 今まではそんなことを考えもしなかった。
 それが普通だと思っていたから。
 でも違う。
 今になってよく考えてみると、それは違うんだ。

 私が神社の巫女と弾幕ごっこをする理由は無い。
 最初に仕掛けてくるのはいつも巫女の方からだが、
 そういう風に仕向けているのは私だ。

 だから思う。どうして私はこいつと──

「この状況で考え事とは余裕ね、魔理沙?」

 博麗霊夢と、こんなにも弾幕ごっこをしたがるのだろうか。









一途な魔法使い




 向かってくる幾つもの札を、帽子を押さえながら跨った箒を動かす。
 あらゆる方向から飛んでくる札の弾幕も、今となっては見慣れたものだ。
 最後の札を避けると同時に魔力を練り上げ放出する。
 形成された魔法陣からいくつもの魔力弾が巫女へと向かって飛んで行く。

「その弾幕はもう見切ったわ」

 発した言葉通り、巫女は掠りさえもしなかった。
 魔力弾が巫女に通用しないことは知っている。
 にも拘らず私はまず最初に必ず魔力弾を撃つ。
 弾幕を避けながら袖から1枚のカードを取り出す姿が見えた。

「──夢符『夢想封印 散』!」




 きっかけはいつも些細なこと。
 2割が意見の相違。残りの8割が食べ物の恨み。
 羊羹が手の届くところにあったら誰でも食べるだろう?
 でも勝手に食べられたら怒るのは当たり前だ。
 私だって怒る。
 そう考えると私が原因と言えなくも無い。
 いや、あんな目に見える場所に羊羹を置いておく霊夢も悪い。
 本当に食べられたくなかったのなら戸棚の一番奥にでもしまって置けば良い。
 それでもきっと私は探して食べてしまうが。




 圧縮された霊力の塊がスペルの名前の如く散らばり、辺りを埋めていく。
 弾けながら向かってくる塊を、回り込むように移動しながら避ける。
 同時に懐から取り出したスペルカードに魔力を篭める。




 意見の相違。
 これも当たり前のことだと思う。
 巫女や魔法使いとはいえ人間であることに変わりは無い。
 妖怪や幽霊だって揉める幻想郷だ。人間が揉めないわけが無い。
 でもどちらかが食い下がればそこで論議は終わる。
 無駄な時間も費やさなくて済むはずだ。
 だが私と霊夢が食い下がるはずが無い。
 そして最後には、勝った方が正しい、となる。
 いつもその科白を言っているのは私な気がしなくもない。
 だがしかし、だぜ?
 論議の時点で弾幕ごっこをするのが嫌ならば食い下がればいい。
 それをしない私が原因と言えなくも無い。
 いや、それは霊夢にも言えることだ。食い下がらない霊夢も悪い。




「そんなに弾幕ごっこが楽しい?」

 その言葉は、私がカードに魔力を篭め終わり、宣言しようとした時だった。

「なんでそんなことを聞くんだ?」
「別に、あんたはいつも笑みを浮かべてるけどさ。
 作り物に見えてしょうがないそれが、今のあんたは作り物に見えないからよ」

 そこで始めて自分が笑っていることに気付いた。いや、気付かされた。
 それに気付かないぐらいに、私は見るのに夢中だった。
 ……夢中? 何を見るのに? 避けるための弾幕? それとも──

「改めて聞くけど、そんなに私と弾幕ごっこやるのが楽しい?」

 霊夢の言葉に妙な引っ掛かりを憶えた。でも答えはもう決まっている。

「ああ、楽しいぜ。楽しくて楽しくてしかたがないぜ! 恋符──」

 言い終えると同時にスペルカードを発動させた。




「惜しかったわね、魔理沙。
 ……何よ、負けたって言うのに、随分と嬉しそうじゃない?」

 嬉しい? 馬鹿言っちゃいけない。
 悔しいに決まってるだろう?
 私がどんな努力をしても追いつけない。
 努力をしないとさらに置いていかれそうになる。
 努力をしない霊夢には分からないだろうな。

「まああんたが何を考えていようと、私には関係の無い事だけど」

 言ってくれる。
 ああそうだ。いつもそう。こいつは人と距離を置きたがる。
 いや違うな。
 来る者は拒まず、去る者は追わず。他人の中に入らず、また入らせず。
 多分、だからこそ……だからこそ? だからこそ何だって言うんだ?

「あれ、私たち何で弾幕ごっこしてたんだっけ。
 まあいいわ。今度来るときは茶菓子の1つでも持って来なさい」

 それが負かした相手に言う言葉か?
 ……そうか。だからか。
 唐突に私は理解した。
 複雑な理由でも何でもない。


 私は霊夢の言葉が聞きたかった。
 私は霊夢の声が聞きたかった。
 私は霊夢と話したかった。


 霊夢との繋がりが欲しかったんだ。
 ただ私は一緒に居たいだけだったんだ。
 霊夢に私の存在を知って欲しかったんだ。
 それが弾幕ごっこという選択肢でも。



 ああそうか、これがきっと「好き」って気持ちなんだろうな。




 リハビリも兼ねてのアップです。
 長い間書いていなかった+初めて最後まで書けたSSというのを言い訳に。
 短い上にやっつけ感があるのは仕様です。是非ともノータッチで。
 霊夢と魔理沙……と言うか魔理沙のお話です。霊夢は引き立て役的な扱いにしましたので。
 元ネタの東方シリーズを知らない人にはアレでコレな作品ですが、読んで頂ければこれ幸い。


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