学術論文(原著論文)リストとその和文要旨

(31) T. Inoda.
Behavioural effect of a short-term exposure to various wavelengths of light-emitting diode light on predaceous diving beetles, Cybister brevis Aubé, 1838 and Cybister chinensis Motschulsky, 1854 (Coleoptera: Dytiscidae). Aquatic Insects, 46: 125-137 (2025) https://doi.org/10.1080/01650424.2025.2457989.

要旨: クロゲンゴロウとオオゲンゴロウは、様々な波長の光に対してどのような反応を示すかを調べた。波長は、赤(625nm)、緑(525nm)、青(470nm)、白(色々な波長を含む)、UV(紫外線: 405nm)でLEDライトを用いた。これらの波長を12秒間照射し、照射中の行動時間と行動回数はマイクロ波ドップラーセンサー、遊泳速度はビデオ録画の画像から測定した。これら2種が最も高い反応を示した波長は青とUVであり、最も低かったのが赤であった。また、遊泳速度が測定できた波長は青とUVであり、すべての個体は光源から反対側に移動した。以上のことから、 クロゲンゴロウとオオゲンゴロウは青系の波長に感受性が高く、有害な紫外線から遠ざかる行動(退避行動)を示すことが示唆された。

(30) T. Inoda, and K. Watanabe.
Study of the food-searching activity by smell in diving beetles of Cybister Curtis, 1827 and Hydaticus Leach, 1817 (Coleoptera: Dytiscidae) including the use of a microwave Doppler radar. Aquatic Insects, 45: 298-313 (2024) https://doi.org/10.1080/01650424.2023.2258860.

要旨: ゲンゴロウ類がどのようにエサを認識しているかを調べるために、煮干しをエサとして3Dプリンターで作成したトラップを用いて調べた。83%以上の昆虫が隠蔽された煮干し入りのトラップに入った。2つのトラップ(熱湯で抽出する前の煮干しと熱湯で抽出後の煮干し)において、90%以上の昆虫が、抽出前の煮干しがあるトラップに入り、3%以下の昆虫は抽出後の煮干しがあるトラップに入った。また、抽出前後の煮干しにおいては摂食に嗜好性はなかった。マイクロ波ドップラーセンサーを用いて、煮干しから抽出した抽出液を用いて定量的に行動解析(行動時間と行動回数)を行った結果、煮干し抽出液にはエサ探索行動を高める作用があることを見出した。従って、これらゲンゴロウ類昆虫は、匂いによってエサ探索行動が誘発され、エサを見つけていると示唆された。

(29) T. Inoda, and S. Kamimura.
Metabolomic profiling upon external digestion in larvae of diving beetles: Cybister Curtis, 1827, Dytiscus Linnaeus,1758, and Hydaticus Leach, 1817 (Coleoptera: Dytiscidae). Aquatic Insects, 44: 106-119 (2023) https://doi.org/10.1080/01650424.2022.2076883.

要旨: ゲンゴロウ類幼虫は、体外消化(獲物に消化酵素を注入し、消化しながら体液を吸汁する)を行い栄養を吸収することは知られているが、消化酵素やその代謝物の素性は明らかにされていなかった。消化酵素サンプルを得るために、ハエの幼虫をゲンゴロウ類幼虫に与え、大顎で捉えた瞬間に消化酵素を注入する様子がハエ幼虫の体色変化からわかった。色が変わったハエ幼虫と何も処理していないハエ幼虫(コントロール)をサンプルに用いた。SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法)にてハエ幼虫からタンパク質成分を分離した結果、約20kDaの分子量を持つ主要なタンパク質が見つかった。このタンパク質をナノLC-ESI-Q-TOF/MS/MS(液体クロマトグラフ四重極飛行時間型タンデム質量分析計)で分析したところ、97個のアミノ酸配列を持つポリペプチドが検出された。データベース情報(MascotとBLAST)から、昆虫に普遍的に存在する貯蔵タンパク質であるarylphorin subunit C223 precursorという高分子化合物由来の部分構造であるヘモシアニンNとヘモシアニンMに相当する物質である可能性が示唆され、ハエ幼虫の体液がゲンゴロウ類の消化酵素によって分解された産物であると思われた。また、ゲンゴロウ類幼虫が何度か連続捕食すると生成する20kDaタンパク質量は、2回目までは初回とほぼ同じであったが、3回目以降の連続捕食後の20kDaタンパク質量は減っていくこともわかった。よって、2回までの捕食に必要な消化酵素は保証されているが、3回目以降の連続捕食によって消化酵素が枯渇してゆくと考えられた。

(28) T. Inoda, K. Watanabe, and S. Yamasaki.
Sequential rearing method from larva to adult water beetles (Coleoptera) using devices created with a three-dimensional printer. Aquatic Insects, 43: 269-280 (2022) https://doi.org/10.1080/01650424.2022.2046777.

要旨: 水生甲虫は完全変態を行う。生活史の中に「蛹」という期間が存在し、土中で蛹化する。よって、水生甲虫を飼育する際には、水と陸の環境が必須となる。上陸のタイミングを見誤ると、生体は溺死する。羽化後、土から這い出てきた新成虫は、速やかに水中に戻り摂食を開始するが、水に戻すタイミングを見誤ると、餓死する。そこで、3Dプリンターで幼虫飼育容器(水槽)と土を入れるための蛹化用容器を作成し、蛹になる前の幼虫は自らで上陸して蛹化し、新成虫は自らで水槽に戻ることができるような飼育システムを開発した。このシステムは7つのパーツから構成され、最終的に1つの容器(幼虫用と蛹用の2つの容器が一緒になっている)に組み立てられる構成となっている。実際に5種の水生甲虫(ガムシ、オキナワスジゲンゴロウ、オオイチモンジシマゲンゴロウ、シャープゲンゴロウモドキ、コガタノゲンゴロウ)で試みた結果、幼虫が蛹になる際、自らで蛹化用容器に入り、土中で蛹になった。羽化した成虫は、再び、幼虫用の水槽に戻ることも確認できた。餌やりと水換え以外、人の助けなしに幼虫から成虫までの期間、連続的に飼育・管理することができた。

(27) T. Inoda, K. Watanabe, T. Odajima, Y. Miyazaki, S. Yasui, T. Kitano and J. Konuma.
Larval clypeus shape provides an indicator for quantitative discrimination of species and larval stages in Japanese diving beetles Cybister (Coleoptera: Dytiscidae). Zoologischer Anzeiger, 296: 110-119 (2022) https://doi.org/10.1016/j.jcz.2021.12.003.

要旨: 国内ゲンゴロウ属全7種幼虫の頭楯(clypeus)の形状を幾何学的形態測定学(GM)の一つであるランドマーク法にて解析したところ、種によって頭楯の形状が異なっていた。また、各幼虫期においても明白な形状変異が認められたことから、幼虫の成長過程において頭楯形態が変化することが示唆された。GMによって算出されたパラメータ(重心距離及び正準変量)から、一個抜き交差試験及びクラスター解析を行うことで精度の高い種同定と幼虫の令期判定が同時に可能であることもわかった。

(26) T. Inoda.
Detection of food in immature and adult stages of water scavenger beetle, Hydrophilus acuminatus (Coleoptera: Hydrophilidae). The Canadian Entomologist, 153: 651-665 (2021) doi:10.4039/tce.2021.38.

要旨: ガムシは幼虫期は肉食性であり、成虫になると雑食性になる。エサを探す行動を制御した条件下でエサを認識する仕組みを調べたところ、幼虫は匂いによってエサ(巻貝)を探すことが示唆された。一方、成虫は匂いによって肉食性のエサ(冷凍赤虫)を、触覚 and/or 味覚によって植物性のエサ(水草)を認識していることがわかった。すなわち、幼虫期と成虫期とでは、エサを認識する機構が異なることを明らかにした。

(25) K. Watanabe, T. Inoda, M. Suda and W. Yoshida.
Larval rearing methods for two endangered species of diving beetle, Cybister chinensis Motschulsky 1854 and Cybister lewisianus Sharp, 1873 (Coleoptera: Dytiscidae), using laboratory-bred fod prey. The Coleopterists Bulletin, 63: 340-350 (2021) https://doi.org/10.1649/0010-065X-75.2.440.

要旨: ゲンゴロウ類幼虫は肉食性であり、飼育にはエサとして、オタマジャクシ等の小動物を野外から採集するのが一般的である。シャープゲンゴロウモドキのように1匹の幼虫は500匹以上のアカガエルオタマジャクシを食しており、野外のエサ生物に頼ることは、生態系に大きな負担をかけることになる。そこで、完全人工養殖したフタホシコオロギだけをエサとした人工飼育方法の検討を行った。その結果、オオゲンゴロウ及びマルコガタノゲンゴロウは、野外個体と同等のサイズを持つ成虫が得られた。よって本飼育方法は、生態系に負担をかけない生息域外飼育方法の一例としての重要性を示した。

(24) S. Sato, T. Inoda, S. Niitsu, S. Kubota, Y. Goto, Y. Kobayashi.
Asymmetric larval head and mandibles of Hydrophilus acuminatus (Insecta: Coleoptera, Hydrophilidae): Fine structure and embryonic development. Arthropod Structure & Developmen,46: 824-842 (2017) http://dx.doi.org/10.1016/j.asd.2017.08.003.

要旨: ガムシの幼虫はふ化直後から非対称性な大あごを有している。そこで非対称性構造が形成される過程を調べるために、ガムシの卵(300個)を18℃で管理し、各発生段階における胚を固定し、光学顕微鏡と位相差型電子顕微鏡を用いて大あご及び頭部の発生過程を観察した。非対称性の検出には、幾何学的形態測定学(Geometric Morphometrics: GM)のひとつである楕円フーリエ法を用い、輪郭を数学的に解析した。その結果、本種の非対称性大あごは、全発生過程(270時間)の36%以降から起こる6つの連続した過程の蓄積によって形成されることがわかった。また、大あごの他、頭蓋(head capsule)及び大あごの筋肉の構造も非対称性であることを見出した。さらに昆虫の胚発生において、非対称性構造の検出に楕円フーリエ法(GM)を適用したのは、本論文が最初の研究事例である。

(23) K. Niikura, K. Hirasawa, T. Inoda and Y. Kobayashi.
Embryonic development of a diving beetle, Hydaticus pacificus Aube (Insecta: Coleoptera; Dytiscidae): External morphology and phylogenetic implications. Proc Arthropod Embryol Soc Jpn., 48: 19-32 (2017).

要旨: ゲンゴロウ類の初期発生の記録は、約100年前の簡単な報告はあるが詳細な記述はない。今回、オオイチモンジシマゲンゴロウの卵を用い、胚外部の発生過程を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡を用いて詳細に観察した。その結果、本種の胚発生は10段階に分類できた。すなわち、1~3ステージ(初期)、4~7(中期)及び8~10ステージ(後期)とし、それぞれの特徴を詳細に記載した。ゲンゴロウ類の卵及び胚発生においてユニークな特徴的は、以下の4つである。(1)卵の前極に円形配置を示した多数の卵の小孔の存在、(2)初期胚において長い介在体節の一時的な出現、(3)体節気管口の消失と閉鎖を伴った厚く長い気管主幹の形成(第8腹節を除く)、(4)胚発生時における第9、10腹節の極端な大きさの減少及び第8腹節への取り込みに伴った第9、10腹節の融合。

(22) T. Inoda and T. M. A. Ladion.
New box trap for large predaceous diving beetles Cybister Curtis, 1827 and Dytiscus Linnaeus, 1758 (Coleoptera: Dytiscidae). Aquatic Insects, 37: 259-265 (2016) DOI: 10.1080/01650424.2016.1208827.

要旨: 大型ゲンゴロウ類の採集に適した箱型トラップを開発した。トラップの入り口にはゲンゴロウ類が入る時だけ開く蓋を備えている。飼育下において、定量的にトラップのパフォーマンスを調べたところ、従来のトラップでは、捕獲したゲンゴロウ類はほぼ全個体がトラップ内から脱出することがわかった。一方、今回作成した箱型トラップでは、トラップに入った個体は逃げることができなかった。また、野外において従来型と比較した結果、従来型では大型ゲンゴロウが全く捕獲できなかった池において、新型トラップでは希少大型ゲンゴロウ類が多数捕獲できたことから、個体数を正確に調査するためには有用なトラップと考えられる。

(21) T. Inoda, Y. Miyazaki, T. Kitano and S. Kubota.
Noninvasive sampling of DNA from larval exuvia in diving beetles of the genera Cybister and Dytiscus. Entomological Science, 18: 403-406 (2015) DOI: 1111/ens.12129.

要旨: ゲンゴロウ類の多くは絶滅危惧種であり、非侵襲的DNA採取法は分子遺伝学的研究や保全研究において重要である。ゲンゴロウ属(Cybister)としてクロゲンゴロウ・マルコガタノゲンゴロウ・ヒメフチトリゲンゴロウ・フチトリゲンゴロウ、ゲンゴロウモドキ属(Dytiscus)としてシャープゲンゴロウモドキ2亜種(Dytiscus sharpi sharpi:千葉県産とDytiscus sharpi validu:石川県産)の幼虫の脱皮殻(初令~2令)を用い、DNA採取を試みた。その結果、単一個体の脱皮殻からDNAが抽出でき、Mt遺伝子(COI)をマーカーにした種同定が可能であった。本手法は種同定が困難である幼若なゲンゴロウ類幼虫における非侵襲的かつ正確な種判別法としても有用であると考えられる。

(20) T. Inoda and S. Kamimura.
Choice of prey body parts for effective feeding by predaceous diving beetle larvae, Dytiscus sharpi sharpi (Wehncke) (Coleoptera: Dytiscidae). Journal of Insect Behavior, 28: 26-36 (2015) DOI: 10.1007/s10905-014-9475-z.

要旨: ゲンゴロウ類幼虫は1対の大顎を持ち、捕食と摂食(吸汁)の2役を担っている。従って、獲物を捕える際、捕食(吸汁)効率の最も高い部位を捕えることが最適な捕食行動となると考えられる。シャープゲンゴロウ幼虫はアカガエルオタマジャクシを捕食する際、高確率でオタマジャクシの腹部を捕える。この行動をモデルとして上記の仮説を検証した。その結果、本種幼虫はオタマジャクシの腹部を捕えることで、(1) 獲物の動きを素早く止める、(2) 摂食に要する時間が短い、(3) オタマジャクシの体液摂取量が高いことなどが証明された。よって、捕食効率の高い部位であるオタマジャクシの腹部を捕えることが、最適な摂食行動であるという上記の仮説を実証した。

(19) T. Inoda, Y. Inoda and June K. Rullan.
Larvae of the water scavenger beetle, Hydrophilus acuminatus (Coleoptera: Hydrophilidae) are specialist predators of snails. European Journal of Entomology, 112 (1): 145-150 (2015) DOI: 10.14411/eje.2015.016.

要旨: ガムシ幼虫は、右巻貝の摂食に有利な非対称性な大顎を有していることは知られている。しかしながら、本種幼虫が野外で何を捕食しているかに関しての定量的な摂食生態についての研究はこれまでなかった。そこで、ガムシ幼虫の生息地での捕食候補生物の調査並びに実験下での捕食行動を検討した。その結果、ガムシの生息地で確認できた巻貝2種(ヒメモノアラガイ及びサカマキガイ)を含む捕食候補生物5種を同定し、飼育下で詳細に調べた結果、初令幼虫は巻貝以外の生物を捕食した場合、2令幼虫に成長することができなかった。また、ヒメモノアラガイまたはサカマキガイだけを餌として与えた場合、幼虫の生存率は高く、野外成虫と同等の体格になったことなどから、ガムシの幼虫は巻貝のspecialistであることが明らかとなった。

(18) T. Inoda, S. Ohba and June K. Rullan.
Gonad development and sperm motility of the diving beetle Cybister brevis Aube, 1838 (Coleoptera: Dytiscidae) in response to seasonal changes in Japan. Aquatic Insects, 35: 39-45 (2013) DOI: 10.1080/01650424.2014.968172.

要旨: ゲンゴロウ類において、生殖生理学的研究はほとんど行われていない。特にゲンゴロウ属(Cybister属)に関しては、研究例がなかった。そこで、野生のクロゲンゴロウを用いて生殖巣の発育度(GSI)を調べた。メスは繁殖期である5月のみにGSIの増加が認められたが、オスは年間を通してGSIに差異は認められなかった。一方、精子は繁殖期を中心とした5月から9月にかけて活発な運動性を有していた。すなわち、雌雄で生殖巣の発育度に違いがあることが示唆された。また、精巣及び付属腺は年間を通して発達しているが、精子の運動性は繁殖期のみに高まっていることがわかった。すなわち、オスはメスよりも早期に生理学的に生殖可能な状態となることが示唆された。

(17) T. Inoda and T. Kitano.
Mass breeding larvae of the critically endangered diving beetles Dytiscus sharpi sharpi and Dytiscus sharpi validus (Coleoptera: Dytiscidae). Applied Entomology and Zoology, 48: 397-401 (2013) DOI: 10.1007/s13355-013-0176-4.

要旨: ゲンゴロウ類幼虫は共食いするため、これまで幼虫の集団飼育は不可能と考えられていたが、千葉県産シャープゲンゴロウモドキ(アズマゲンゴロウモドキ)と石川県産シャープゲンゴロウモドキ(コゲンゴロウモドキ)幼虫(1-3令)を用いて大量同居飼育法を確立した。餌の密度によって、幼虫の集団飼育時の共食い率は異なり、餌密度が低いと共食いが高確率で生じる。一方、餌密度が高い場合、共食いはほとんど起こらない。また、集団飼育した個体は、成虫時の体格は個別飼育個体及び野生個体のそれよりも大きく、シャープゲンゴロウモドキ幼虫は豊富なエサ(ヤマアカガエルの幼生等)が存在すれば、共食いすることはなく、多数の幼虫を単一容器で飼育するこが可能である。本研究は、絶滅の恐れの高い希少水生昆虫の飼育下での効率的な繁殖技術において重要な知見であり、系統保存を主体とした生物の生息域外保全の観点からも有意義な研究である。

(16) T. Inoda.
Predaceous diving beetles, Dytiscus sharpi sharpi (Coleoptera: Dytiscidae) larvae avoid cannibalism by recognizing prey. Zoological Science, 29: 547-552 (2012) DOI: 10.2108/zsj.29.547

要旨: 従来、ゲンゴロウ類の幼虫は盛んに共食いをすると考えられていた。本研究は、シャープゲンゴロウモドキの3令幼虫が、自分と同じ種と他種(獲物)とを認識し、極度の飢餓状態にならなければ共食いをしないことを明らかにした。また獲物を捕獲する際には、視覚的、触覚的な要因だけでなく、化学的な要因(におい:scent)で獲物を認識していることも見出した。従って、本種幼虫は、においによって自他を認識し、共食いを回避する仕組みを有していると考えられる。

(15) T. Inoda, R. Härdling and S. Kubota.
The inheritance of intrasexual dimorphism in female diving beetles (Coleoptera: Dytiscidae). Zoological Science, 29: 505-509 (2012) DOI: 10.2108/zsj.29.505

要旨: ゲンゴロウモドキ属メスには、上翅に溝のあるタイプ(有溝型)と無いタイプ(無溝型)が存在する。長い間、この溝の発現機構に関する知見は皆無であった。今回、千葉県シャープゲンゴロウモドキ(アズマゲンゴロウモドキ:DS)の2産地におけるメスの上翅の形質を調査した結果、有溝型の個体が多く生息している産地と少ない産地を見出し、これらの2系統をそれぞれ5-8年間、同条件下で累代飼育し、メスの上翅の形質の比率を調べた。その結果、溝の比率は系統ごとに、生息地の個体群とほぼ同じ比率で維持されることがわかった。また、無溝DS♀と別亜種である石川県の♂個体(コゲンゴロウモドキ)を用いて交雑種を作り、溝の発現様式を検討したところ、雑種♀の上翅の形質は、100% 有溝型であった。従って、溝の形質は環境でなく、遺伝的に決まっており、有溝型が優性遺伝であることが示唆された。

(14) T. Inoda, G. Suzuki, M. Ohta and S. Kubota.
Female dimorphism in Japanese diving beetle Dytiscus marginalis czerskii (Coleoptera: Dytiscidae) evidenced by mitochondrial gene sequence analysis. Entomological Science, 15: 357-360 (2012) DOI: 10.1111/j.1479-8298.2012.00524.x

要旨: 日本に生息するエゾゲンゴロウモドキ(D. marginalis czerskii)のメスは、これまで上翅に溝のあるタイプ(有溝型)しか知られていなかった(一型性)。しかしながら、鳥海山山麓で採集した無溝型Dytiscusメス個体の子孫から得たミトコンドリアDNAを解析した結果、エゾゲンゴロウモドキのミトコンドリア遺伝子(COI)769塩基対の配列と100% 一致した。加えて、無溝型メス個体は同じ生息地から得たエゾゲンゴロウモドキと同定されるオス個体と交配可能であり、普通型と同様に繁殖能力を有していることも確認できた。よって、エゾゲンゴロウモドキのメスは、有溝型と無溝型の二型性であることが確実となった。

(13) G. Suzuki, T. Inoda and S. Kubota.
Nonlethal sampling of DNA from critically endangered diving beetles (Coleoptera: Dytiscidae) using a single antenna. Entomological Science, 15: 352-356 (2012) https://doi.org/10.1111/j.1479-8298.2012.00523.x.

要旨: これまで生かしたまま(非致命的に)、ゲンゴロウ類の体の一部からDNAを得る手法は確立されていなかった。昨今、ゲンゴロウ類の多くが絶滅危惧種であることを考慮すると、非致命的手法を用いてDNAを得ることは有用と考えられる。本研究では、ゲンゴロウモドキ属としてシャープゲンゴロウモドキ、ゲンゴロウ属としてマルコガタノゲンゴロウ、クロゲンゴロウを用いて検討した。触覚を除去した個体では、交尾行動及び産卵数は触覚のある通常個体と統計学的に差がなかった。また、シャープゲンゴロウモドキにおいては、両方の触覚を切除した個体と通常個体とで飼育下における寿命を比較したところ、触覚切除個体でも通常個体と同等の寿命を有していた。また、生きた個体及びエタノールで保存した5-6年前の個体から得た1本の触角を用い、通常のPCRやDNA塩基配列(direct sequence)から種同定も可能であることが確認できた。よって、本手法は絶滅危惧種を含めた、ゲンゴロウ類の非致命的なDNAサンプリング法であることが示唆された。例えば、生息地で触角一本だけを単離し、エタノールに保管し持ち帰り、後日DNA解析を行い、採集した個体は即、放流が可能となる。

(12) T. Inoda and M. Balke.
Status of Japanese Dytiscus species (Coleoptera: Dytiscidae) based on mitochondrial DNA sequence data. Entomological Science, 15: 246-249 (2012) DOI:10.1111/j.1479-8298.2011.00497.x.

要旨: 日本産ゲンゴロウモドキ属全種のミトコンドリアDNAであるチトクロームC オキシダーゼサブユニット1の塩基配列(628塩基対)を解析し、遺伝的な差異を検討した。現在、Dytiscus属は国内では3種(D. dauricus、D. marinalis czerskii、D. sharpi)知られている。このうち、D. sharpiは、千葉県産と石川県産の個体は形態学的に非常によく似ているが、両者において20塩基対(3.18%)に変異が認められた。環境省では、シャープゲンゴロウモドキを1種に分類しているが、D. sharpi sharpiと日本固有種であるD. sharpi validusは進化的重要単位(ESU:Evolutionarily significant unit)として、これら両亜種の存在を考慮した上で保全する必要がある。

(11) T. Inoda.
Cracks or holes in the stems of oviposition plants provide the only exit for hatched larvae of diving beetles of the genera Dytiscus and Cybister. Entomologia Experimentalis et Applicata, 140: 127-133 (2011) DOI:10.1111/j.1570-7458.2011.01140.x.

要旨: 大型のゲンゴロウ類は、主に水面下の水草の茎に産卵する。孵化後、幼虫は呼吸をするために水面へ酸素を求めて浮上する。孵化幼虫は茎のどこから脱出するのかをゲンゴロウモドキ属としてシャープゲンゴロウモドキ、ゲンゴロウ属としてオオゲンゴロウ、マルコガタノゲンゴロウ及びクロゲンゴロウを用いて調べた。前者には産卵水草としてセリを、後者にはオモダカを用いた。その結果、ゲンゴロウ属は産卵時に口器で茎に開けた穴が孵化幼虫の唯一の脱出口であった。一方、シャープゲンゴロウモドキでは、産卵時に口器で茎に穴をあけず、産卵管で直接茎に裂け目を入れ、そこに卵を挿入する。産卵時には裂け目はほぼ閉じた状態であるが、卵の成長とともに徐々に裂け目も広がった。孵化直前には卵の直径とほぼ同等までに裂け目が広がり、孵化幼虫が茎の裂け目から安全に孵化、脱出することが示唆された。また、セリの茎は中空であるが、オモダカはスポンジ状組織がびっしりと詰まっている。産卵時に茎を噛まないシャープゲンゴロウモドキにとっては、茎が空洞の植物は孵化幼虫の生存に有利であった。一方、ゲンゴロウ属においては、あらかじめ孵化幼虫の脱出口を確保することで、孵化幼虫の生存率を高めていることを明らかにした。

(10) T. Inoda.
Preference of oviposition plant and hatchability of the diving beetle, Dytiscus sharpi (Coleoptera: Dytiscidae) in the laboratory. Entomological Science, 14: 13-19 (2011) DOI: 10.1111/j.1479-8298.2010.00407.x.

要旨: シャープゲンゴロウモドキの産卵植物嗜好性を知る目的で、産卵時期の生息地(千葉県内2か所)を3年調査し、確認できた植物種とその被度を定量的に解析したところ、8種の植物を同定し、セリが優占種であった。そこで、飼育下において、以下の3つの実験を実施し、各植物への産卵数を検討した。1)野外と同様な植物被度を水槽内にセット、2)8種類の植物を同じ被度でセット、3)単一の植物をセット。その結果、セリへの有意な産卵嗜好性が認められた。また、セリにおける孵化率は他の植物よりも有意に高いことなどから、セリは本種の産卵植物として重要であることが強く示唆された。

(9) K. Niikura, Y. Kobayashi, K. Hirasawa and T. Inoda.
A preliminary note on the embryonic development of a diving beetle, Hydaticus pacificus Aubé (Insecta: Coleoptera, Dytiscidae). Proc Arthropod Embryol Soc Jpn, 44: 41-43 (2009).

要旨: ゲンゴロウ類の初期発生の記録は、約100年前の簡単な報告はあるが詳細な記述はない。今回、オオイチモンジシマゲンゴロウの卵を用い、胚外部の発生過程を10段階に分けた。すなわち、1~3ステージ(初期)、4~7(中期)及び8~10ステージ(後期)とし、詳細に胚発生時の外部形態変化を観察した。

(8) T. Inoda, M. Hasegawa, S. Kamimura and M. Hori.
Dietary program for rearing the larvae of a diving beetle, Dytiscus sharpi (Wehncke), in the laboratory (Coleoptera: Dytiscidae). The Coleopterists Bulletin, 63: 340-350 (2009) DOI: 10.1649/1152.1.

要旨: シャー プゲンゴロウモドキは希少種ゆえ十分な個体数を得ることができず、野外において生態学的な定量解析を行うのは難しく、生態解明が遅れている。そこで、本種 幼虫が出現する時期に優占種となるヤマアカガエル幼生を餌として、その摂取量、栄養要求性、餌サイズ及び幼虫令期間等を定量的に解析し、最適給餌条件を検 討した。その結果、本種幼虫は成長に応じた最適餌サイズ及び摂食量があることを見出し、それらのパラメータを決定した。本論文において、シャープゲンゴロウモドキ幼虫の給餌面における最適飼育プログラムを提唱した。

(7) T. Inoda, F. Tajima, H. Taniguchi, M. Saeki, K. Numakura M. Hasegawa and S. Kamimura.
Temperature-dependent regulation of reproduction in the diving beetle Dytiscus sharpi (Coleoptera: Dytiscidae). Zoological Science, 24: 1115-1121 (2007) DOI:10.2108/zsj.24.1115.
Errata: Zoological Science 25: 560 (2008) (DOI: 10.2108/zsj.25.560).

要旨: シャープゲンゴロウモドキを用いて生殖休眠解除における温度並びに日長の影響を検討した。本種は水温が20℃以下になると生殖休眠が解除され、交尾行動を開始し、同時に生殖巣(卵巣及び精巣)と精子が成熟する。さらに、卵は冬期(1-2月)の低温(4-8℃)に暴露されることで初めて最終的な成熟が 完了し、早春に産卵すると考えられた。すなわち、本種の生殖休眠解除は、日長でなく、温度に依存していることが明らかとなった。水生甲虫において、温度が 生殖休眠解除の要因であるのは、本種が最初の報告である。また、温度が休眠解除の要因である昆虫において、温度の閾値が雌雄で異なることも本種で初めて発見された研究例である。

(6) Iwasaki M, Yoshimura Y, Asahi S, Saito K, Sakai S, Morita S, Takenaka O, Inoda T, Kashiyama E, Aoyama A, Nakabayashi T, Omori S, Kuwabara T, Izumi T, Nakamura K, Takanaka K, Nakayama Y, Takeuchi M, Nakamura H, Kametani S, Terauchi Y, Hashizume T, Nagayama S, Kume T, Achira M, Kawai H, Kawashiro T, Nakamura A, Nakai Y, Kagayama A, Shiraga T, Niwa T, Yoshimura T, Morita J, Ohsawa F, Tani M, Osawa N, Ida K, Noguchi K.
Functional characterization of single nucleotide polymorphisms with amino acid substitution in CYP1A2, CYP2A6, and CYP2B6 found in the Japanese population. Drug Metabolism and Pharmacokinetics, 19(6): 444-452 (2004) DOI:10.2133/dmpk.19.444.

要旨: ファ ルマスニップコンソーシアムで実施した日本人におけるSNP(1塩基置換遺伝子多型)解析の情報をもとに薬物代謝酵素(cytochromeP450 CYP)活性におけるSNPの影響を調べた。CYP1A2及びCYP2A6のそれぞれの変異体、CYP1A2(Gln478His)、CYP2A6(Glu419Asp)とCYP2A6*7(Ile471Thr)を作成し、これらアミノ酸変異体のCYP酵素活性に及ぼす影響をCYP分子種の標準基質 を用いて調べた。また、既知SNPの一つであるCYP3A4*2(Ser222Pro)についても同様にCYP3A4との活性比較を行った。今回、複数の施設で活性測定を実施したが、施設間、施設内でデータのバラツキが認められた。

(5) T. Inoda and S. Kamimura.
New open aquarium system to breed larvae of water beetles (Coleoptera: Dytiscidae). The Coleopterists Bulletin, 58: 37-43 (2004) DOI: 10.1649/591.

要旨: ゲンゴロウ類の幼虫を飼育するためには、従来から用いられている閉鎖系水槽では効率的な飼育はできない。そこで、全自動の新規開放系水槽を考案し、シャープゲンゴロウモドキの幼虫に使用したところ、比較的、楽な管理で全幼虫期間を通して高い生存率で飼育できた。しかも、このシステムで育った成虫は 野外個体と体格差がない。よって、絶滅に瀕した水生昆虫の系統維持や実験に必要な幼虫の飼育管理には最適なシステムと思われる。

(4) T. Inoda, Y. Hirata and S. Kamimura.
Asymmetric mandibles of water-scavenger larvae improves feeding effectiveness on right-handed snails. The American Naturalist, 162: 811-814 (2003) DOI: 10.1086/378903.

要旨: 動物の非対称性構造の中には種間相互作用の結果、進化したと考えられるものがあるが、その生物学的、進化的な意義が明確となった事例はほとんどない。淡水棲巻貝にはサイズや形状の良く似たヒメモノアラガイ(右巻き)とサカマキガイ(左巻き)があり、捕獲者との種間相互作用について比較しやすい特徴がある。本論文ではガムシ幼虫の非対称な大顎が、主食とする右巻貝の摂食に最適化された構造であることを実験的に証明した。

(3) T. Inoda.
Mating and reproduction of predaceous diving beetles, Dytiscus sharpi, observed under artificial breeding conditions. Zoological Science, 20: 377-382 (2003) DOI:10.2108/zsj.20.377.

要旨: シャープゲンゴロウモドキの繁殖に有効な交尾期は、11-2月頃であり、人為的に交尾期を遅らせても孵化は4月を中心に認められる。従って、交尾 後、数ヶ月間メスの体内で精子が保存されている。また、受精卵から初令幼虫初期に温度感受性の高い時期があり、北方起源の昆虫として知られているゲンゴロウモドキ属の南限種である本種が、早期に交尾、産卵することによって、温暖な地域に適応していると考えられる。

(2) T. Inoda, H. Ohtake and M. Morisawa.
Activation of respiration and initiation of sperm motility in rainbow trout spermatozoa. Zoological Science, 5: 939-945 (1988).

要旨: ニジマスの精子は、精漿のK+によって運動が抑制されている。ところが、精子をK+欠如溶液に希釈すると運動とは無関係に酸素消費(呼吸)開始が認められる。また、O2欠如溶液中でも精子は運動を開始したことから、K+は呼吸ではなく、鞭毛軸糸に直接作用していると思われる。さらにはCO2は、精子の運動と呼吸を強く阻害したことから、K+による鞭毛軸糸での運動開始機構のほか、CO2によるミトコンドリアでの呼吸開始機構の存在が示唆される。

(1) T. Inoda and M. Morisawa.
Effect of osmolality on the initiation of sperm motility in Xenopus laevis. Comparative Biochemistry and Physiology, 88A: 539-542 (1987).

要旨: アフリカツメガエルの精漿の浸透圧は250mosmol/kgであり、血漿のそれとほぼ同じである。また、精子は240mosmol/kgの浸透 圧の電解質及び非電解質溶液内では運動を開始しない。ところが、これらの溶液の浸透圧を下げると精子は一斉に運動を開始する。よって、本種の精子は精漿内 の浸透圧によって運動を抑制されており、淡水に放精されると精子周囲の浸透圧の低下によって運動を開始すると思われる。