(4) 産卵植物への嗜好性(March, 21, 2026)
はじめに
シャープゲンゴロウモドキは、ゲンゴロウ属(Cybister)とは異なり、浅い湿地に生息しております。では一体本種はどこに産卵するのでしょうか? D. sharpi validus(コゲンゴロウモドキ)は、ガマの葉に産卵するとの報告はありますが、D. sharpi sharpi(アズマゲンゴロウモドキ)はどうなのでしょうか? シャープゲンゴロウモドキの繁殖方法は著しく向上し、半自動的なシステムを用いることで比較的容易に繁殖することができるようになりました(Inoda and Kamimura, 2004)。また、一部のブリーダーにおいては、本種の特性を生かした画期的なシステムを用いてさらに簡便な方法で大量の幼虫飼育を行っております(Inoda,unpublished)。こういった飼育を行う以前の問題として、いかにたくさんの元気な卵を得るかがその年の繁殖成果に直接つながることになります。コゲンゴロウモドキにおいては、野外でセリに産卵していることを確認したため、飼育下においてセリを産卵植物として試したところ、産卵し、正常発生したことから、セリが本種の重要な産卵植物ではないかと報告しました。(猪田・都築、1999)。インターネット等ではシャープゲンゴロウモドキの産卵植物にセリを使うのが一般的に知られておりますが、実は我々が最初に見出したことでした。しかしながら、生息地の産卵時期にはセリ以外の水草も知られているし、セリ以外の植物にも産卵することが報告されていました。よく見かける生態学の研究例として、○○に産卵する、○○を捕食するなどの記載を論文中に数多く見ることができます。しかしながら、本当にこれで良いのでしょうか? 本質的な問題として、産卵する目的はたくさんの子孫を後世に残すことです。「○○に産卵する」だけでなく、産卵することと同時に孵化率が高くないことには、たくさんの子孫を残すことができません。もちろん、産卵基質や餌種だけの一覧表を作ることも大変重要なことですが、生物は必ずしも最適な場所に産卵するとは限りません。特に希少種においては、最適な環境がなくなった結果、不適切な場所にやむなく産卵している可能性が大いにあります。同様に、餌生物についても捕食しているから餌生物と断定するのはおかしな話です。特に成長期にある幼虫においては、立派な成虫になることが必要です。食べてきちんと成長することを確認して初めて餌生物としてのポテンシャルを持つと示唆されます。特に飼育下において、全く栄養にならない餌を捕食することもあります。サイエンスとは、一覧表だけを作るのではなく、当たり前のことですが、その本質(産卵植物や餌の意義)を明確に見極めることが重要です。
Q1. 産卵時期の優占植物種
シャープゲンゴロウモドキの産卵期に優占種となる植物は何でしょうか?
正解と解説を見る(クリック)
正解:セリが正解です。
3年間、千葉県の繁殖地、2箇所を詳細に調査した結果、本種の産卵時期(3-4月)に主に8種類の水草(セリ、ヘラオモダカ、サンカクイ、オランダミミナグサ、ミゾソバ、オオアカウキクサ、タネツケバナ、ショウブ)を同定することができました。この時期は水温が低く、植物相に乏しいですが、春の七草として有名なセリが圧倒的に多く、優占種であることがわかりました。
Q2. 産卵植物
シャープゲンゴロウモドキが産卵できる植物は何でしょうか?
正解と解説を見る(クリック)
正解:ヘラオモダカ、サンカクイ、ショウブ、セリなどが正解です。
飼育下で生息地と同様な植物環境を再現し、詳細に検討したところ、セリへの産卵嗜好性が有意に高いことを見出しました。さらに面白い事実として、生息地で確認した4種類(ヘラオモダカ、サンカクイ、ショウブ、セリ)の水草を単独で産卵植物として与え、実験したところ、これら4種類の水草にほぼ同数産卵することも分かりました。
Q3. 孵化率
シャープゲンゴロウモドキにとって孵化率が高い産卵植物は何でしょうか?
正解と解説を見る(クリック)
正解:セリが正解です。
Q2で解説したとおり、飼育下において、生息地に存在する複数の水草に産卵するが、セリに産卵した場合が最も孵化率が高いことが実験的に証明されました。
私は長年の繁殖経験から、シャープゲンゴロウモドキの産卵には、セリでなければいけないことを経験的に知っておりましたので、セリの産卵有意性を科学的に証明しようと思い、実験を行いました。3年間、千葉県の繁殖地、2箇所を詳細に調査した結果、本種の産卵時期(3-4月)に主に8種類の水草(セリ、ヘラオモダカ、サンカクイ、オランダミミナグサ、ミゾソバ、オオアカウキクサ、タネツケバナ、ショウブ)を同定することができました(Inoda, 2011)。この時期は水温が低く、植物相に乏しいですが(Inoda et al., 2007)、春の七草として有名なセリが圧倒的に多く、優占種であることがわかりました。そこで、飼育下で生息地と同様な植物環境を再現し、産卵数と孵化率について詳細に検討したところ、面白いことにセリへの産卵嗜好性が有意に高いことを見出しました(Inoda, 2011)。さらに面白い事実として、生息地で確認した8種類の水草を単独で産卵植物として与え、実験したところ、4種類の水草(ヘラオモダカ、サンカクイ、ショウブ、セリ)にほぼ同数産卵することも分かりました。ところが、セリに産卵した場合が最も孵化率が高いことがわかりました。つまり、シャープゲンゴロウモドキの産卵には、セリが産卵植物として重要であることが示唆されました。セリが無い条件では、孵化率の極端に悪いヘラオモダカにも産卵しました。最適な産卵環境が全く存在しないことで、他の手段を選択せざるを得ないことが容易に想像できます。本質的な観点から見た場合、ヘラオモダカは本種の産卵植物とは言い難いと思われます。では、一体、なぜセリが本種の産卵植物として最適なのでしょうか? 次のTriviaで紹介する予定です。
[参考文献]
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