エゾゲンゴロウモドキ(Dytiscus marginalis czerskii)
東北産で、日本版レッドデータリスト「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されています(2012年)。大きさは35mm程もある大型種です。シャープゲンゴロウモドキやゲンゴロウモドキのような色合いとは違い、ブロンズ系の魅力的な色をしています。個人的にはお気に入りのゲンゴロウです。北方種であるため、都内の屋外で飼育するのは難しいと思いましたが、繁殖に成功しました。日本に生息するエゾゲンゴロウモドキ(D. marginalis czerskii)のメスは、これまで上翅に溝のあるタイプ(有溝型)しか知られていませんでした(一型性)。しかしながら、鳥海山山麓で採集した無溝型Dytiscusメス個体の子孫から得たミトコンドリアDNAを解析した結果、エゾゲンゴロウモドキのミトコンドリア遺伝子(COI)の769塩基対の配列と100%一致しました。加えて、無溝型メス個体は同じ生息地から得たエゾゲンゴロウモドキと同定されるオス個体と交配可能であり、普通型と同様に繁殖能力を有していることも確認できました。よって、エゾゲンゴロウモドキのメスは、二型性であることが明らかとなりました(Inoda et al., 2012)。個体数はかなり少ないですが、知り合いの情報によると、鳥海山山麓以外でも無溝メスを確認しています。ゲンゴロウモドキ属メスの溝の発現は生息環境でなく、遺伝的(不完全浸透説: incomplete penetrance hypothesis)によって決定されていることが示唆されているため(Inoda et al., 2012、ある特定の地域でのみ無溝個体が高確率で発生する可能性が推測されます。また、無溝個体を累代飼育すると、無溝と有溝の両方のメスが出現します(incomplete penetrance による遺伝のため)。この無溝個体は、今後、ゲンゴロウモドキ属はもちろんのこと、他のゲンゴロウ類のメス2型性の発現メカニズム・遺伝様式及びその進化を探る大変貴重なサンプルとなるはずです。同時に、無溝個体の生息地は極めて少ないため、そっと見守ってあげたいと思います。