第33章5節 : 戦線誘導 |
文字通りに天と地が何度もひっくり返り、不規則で耳障りな音と全身を伝う衝撃が収まったのを見計らって、クラウドは指先から順番にゆっくりと体を動かしてみた。ところが、どこにも痛みや異常は無く、それどころか殆どダメージを受けていない様だった。それからゆっくりと瞼を開くと、その理由はすぐに分かった。 「……防盾魔法?」 自身の周囲をうっすらと光の壁が包み込んでいる、これが衝撃を吸収してくれたのだと言うこと、その正体がシールドマテリアの作り出す防御壁だと言うことは、経験からすぐに察しが付いた。 「はぁ〜、我ながらギリギリ間に合って良かったよ」 声の方に顔を向けると、座り込んでいたユフィと目が合う。彼女の右手には、まだうっすらと光を纏ったマテリアがあった。あの状況下で魔法の発動を間に合わせたのはさすがだと感心する一方で、マテリアの出所が気に掛かった。少なくとも6年前の旅で得た物でない事は確かだ。 「それは?」 「ああコレ? さっきおっちゃんから預かったの。ホントはシェルクのなんだけどね」 お陰で助かったよと嬉しそうに続けるユフィとは対照的に、返答を聞いたクラウドは肩を落とす。 (……ここまでは用意されたシナリオ通り、と言う訳か) 思わず溜息を吐いたクラウドを見て、ユフィは首を傾げた「どうしたの?」。 「いや……」返答を濁して周囲を見回すと、頭上には大きく変形したエレベーターの扉が、片や先程までは天井だった場所が横合いに見えた。換気口を覆っていた金網は歪んだままだったが、その向こうから僅かだが外の光が漏れ入っていることに気がつくと、クラウドは躊躇なく金網を蹴破った。 こうして二人は無事、エレベーターの外に出る事ができた。 「ちょっと、これって……」 ようやく解放されて安堵したのも束の間、目の前に広がる光景を見たユフィは呆気にとられて言葉を失う。それもそのはずで、これこそ先程モニタ越しに見せられた風景――つまり建物の外――だったからだ。 後ろを振り返ると、白い壁面の新本部施設が見えた。少し顔を上げたところに小さな亀裂を確認できたが、見る間にそれは塞がっていった。どれをとっても状況が理解できない。 「アタシ達、なんでいきなり外に放り出されてる訳?!」 どういう事なのさー?! と、誰にともなく叫びまくっているユフィの混乱も分からなくはない。クラウド自身、支えを失ったエレベーターがシャフト内を落下したのだとばかり思っていた――と言うよりも、それ以外に起こりようがない――からだ。しかしクラウドにしてみれば、目を覚ましたら突然ユフィが目の前にいたという状況でこの“瞬間移動”を経験していたから、今回の出来事にそこまで動揺する事はなかった。言ってみれば、相手が手品師だと分かれば心構えができるから、何が起きてもその場でいちいち驚くことは無くなる。確かに仕掛けは気になるが、今はそれを気にしている場合ではない。 クラウドにとって問題なのは、ここまでの出来事がどんな理屈で起きた現象なのかではなく、今のところどれもリーブの描いたシナリオ通りに進んでいて、その結末が考え得る中で最悪だと言う事だった。 顔を上げたクラウドの目を引いたのは、自分達を取り囲むようにして上空にあった無数の機影だ。 「飛空艇師団? ……にしても、どうしてこんなに」 ここへ来たときには、自分達が乗っていた飛空艇以外にはいなかったはずなのに、今や編隊を成して上空を飛んでいる。この短時間にどこから集まってきたのだろうと、クラウドが首を傾げるのも無理はない。 「ああ、そっか」振り向いたユフィが思い出したように答える「クラウド達は聞いてないんだよね。おっちゃんの呼びかけで集まったんだよ、ここの空爆待機の為にこの辺に留まってるんだと思う」 「空爆!?」さらりと物騒なことを語るものだから、思わずクラウドが聞き返す。 「心配は要らないよ。上にはシドも戻ったし……」言いかけてユフィがあっと声を上げた「そう、アタシ達が頑張れば、空爆なんてしなくて済むんだ!」 ちょうど同じ頃、シドの乗った飛空艇内のレーダー要員は我が目を疑っていた。不自然なほど頻繁にまばたきを繰り返し自分の目に異常がないと分かると、次に計器の故障を疑った。整備班には絶対の信頼を置いているが、今回ばかりは計器の故障であって欲しいと願わずにはいられない。 しかし目の前の表示は変わらなかった。意を決してレーダー要員は声を上げた「レーダーに反応です!」。 彼は索敵用広域レーダーから対象までの距離と方位を読み上げた後、にわかには信じがたい状況を報告する「捕捉データによるとモンスターの大群の様です。しかも真っ直ぐこちらに向かってきます!」。 「なんだってぇ?!」 シドが叫ぶのと同時に、メインのモニタにはレーダー画面が映し出され報告内容が誤りでないことを示した。 「おい冗談だろ? 大体どっからこんな数のモンスターが湧いて出てくるってんだ!」そう言った後、シドはあることに思い至って口元を歪めると、吐き捨てるようにして言った「ケッ、好都合ってもんだぜ!」。 シド達をはじめとした各飛空艇はあの空爆要請を受けて以来、待機飛行のため新本部施設を中心にした円周上に航路をとっていた。レーダーによると本部施設から見て北側から迫ってくるモンスターの大群に対して、周回軌道をとる彼らは間隔を空けずに攻撃をする事ができた。シドの言う都合とは、こちらへ向かってくるモンスターの足止めについてだ。 『おう艇長、良かったじゃねぇか!』スピーカーからは豪快な笑い声と共に、事の次第を聞いていた燃料担当が言った『腹ん中にどっさり積んできたモンが無駄にならずに済みそうだな!』。 その言葉に通信担当のクルーは頷くと、穏やかな声で続けた。 「不謹慎ですけど、モンスターが来てくれて良かったとさえ思いますよ。……理由が何であれ、局長やみなさんのいる場所に爆弾を落とすなんて、やっぱり嫌ですからね」。 「……どう言ったらいいか分からないが」年輩の航法士は苦笑混じりに言った「空爆待機とは言え、結果的にこのルートで待機していたのが幸いしたのは間違いないな」。 その言葉にはっとして、シドが振り返る。 (あの野郎、まさか最初からこれが狙いだったんじゃ……) もし仮に、こうなる事をリーブが事前に予想していたのだとしたら、何故それを素直に言わなかったのか? 「モンスターの襲撃に備えて本部上空で待機しろ」と、そう言えば済む話ではないか。確信が無かったにしても、わざわざあんな言い回しで伝える必要は無い。むしろ誤解を招いていたずらに不安を煽るだけだ。そうすることでリーブが得るメリットを思いつかない。 (ちくしょう、こう言うのはいっくら考えたってオレ様にゃ分かりそうもねぇや!) とにかくこの事を他の連中にも伝えなければ、そう考えてシドはしまってあった携帯電話を取り出すと電源を入れた。すると、ちょうど同じタイミングで電話が鳴動をはじめた。ディスプレイには発信者の名前が表示されている。2コール目が鳴る前に、シドは通話ボタンを押した。 「おーグッドタイミングだ! クラウド、状況がちぃとばかし変わった」 『こっちもその件で頼み事がある。シド、すぐに俺のバイクを降ろしてくれ。モンスターの大群を相手にするには“足”が要る』 あまりにもスムーズに話が進むものだから、思わずシドが聞き返す。 「おいちょっと待ってくれ。お前、その事をどこで?」 『話は今さっきユフィから聞いた』ユフィはリーブに話を聞かされたと言うことと、自分達がここに来るまでの経過を簡単に補足してから、クラウドは先を続ける『確かに機動力で言えば、足止めは俺とユフィが適任だ』。 「他の連中は?」 『まだ中にいる、でも今は戻ってこのことを知らせる時間が惜しい。ここからなら、戻るよりモンスターを迎えに行った方が手っ取り早い』 クラウドの言っている通り、たしかに時間は無い。 「……分かった。すぐ降ろしてやるから待ってろ」 合流地点を告げてから通話を終えると、シドは眉間にしわを寄せた。 「艇長、どうしました?」様子に気付いた通信担当のクルーが心配そうな視線を向ける。電話の相手がクラウドだと言うことは、シドの話からも分かった。けれどなぜ不満げな表情をするのかが分からなかった。 「別に……」それ以上シドは答えようとしなかった。 クラウドがシドと通話している間、ユフィも携帯電話を手にしていた「クラウドは無事! こっちと合流したよ」。 彼女の言葉から電話の相手がティファかヴィンセントあたりとだろうと見当をつけつつ、クラウドはシドとの会話を続けた。先程ユフィに飛空艇師団の事を聞かされた時にようやく気付いた事だったが、分断された自分達がそれぞれの状況や情報を共有できていないというのは、こちらにとって不利に働いている。 「……うん、こっちは大丈夫。シドは飛空艇に戻ってる。万が一に備えて空爆待機してる。でも大丈夫、そうならないようにアタシ達がいるから安心して。それで、そっちはどう?」 ティファの話を聞いているらしく、通話の途中ユフィは何度か驚いたり、頷いたりを繰り返していた。クラウドがシドとの通話を終えてから、少し遅れてユフィも電話を切った。 すると開口一番、ユフィはこう言った。 「ティファから伝言『私は大したケガもしてないから心配しないで』だって」 「……良かった」クラウドは今までになく安堵したような表情を浮かべた。 それからユフィは、ティファがシャルアに助けられた事。今はヴィンセントと合流した3名で行動していること。それ以外には特に進展が無い事を伝えた。 「下に向かったバレットも含めて、今のところみんな無事みたいだね」ユフィは自分が見た情報も含めて、ここまでの経緯と状況をまとめた。 直接話のできていないバレットを除けば、これで今のところは情報を共有できた事になる。しかしこの先もこう上手く行くのだろうかと考えて、クラウドは不安を覚えた。 ―ラストダンジョン:第33章5節<終>―
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