序章 : エッジにて





 ――戦いと同じ数だけ悲しみがありました。
    戦いの中で、星に還った人達がたくさんいました。
    「悲しみと引きかえに、全部終わったんだよ」
    そう言われたのは6年前でした。
    だけどまだ、人は戦うことをやめませんでした。

    ある人は言いました。
    「大切なものがあるから人は生きて、そのために戦う。
    だからこの星に人が生きる限り、戦いが絶えることはない」。

    戦いを望まないのに、戦わなければならない人達がいました。
    彼らはいつも大切なものを背負って、戦場へと赴きました。
    そこで訪れた死を目の前にしたとき、はじめて気付いたのです。
    “星に還れない命”があることを。

    これは
    この星で最も悲しい運命を生きる命と、
    その命を救おうとした人々の物語。






 窓越しに空を見上げれば、灰色の雲が広がっている。つい先程まで青空に浮かぶ雲の色は白かったはずなのに。
「雨……かな?」
 椅子から立ち上がると少女はそう呟いて、窓辺に置かれたぬいぐるみを手に取った。

 今を遡ること6年ほど前。
 当時、繁栄の頂点にあった魔晄文明と、それを象徴する都市ミッドガルが滅んだ。後にメテオ災害と呼ばれる事変だった。
 いつしか少女の父と仲間達は、その戦役を経て英雄と呼ばれるようになった。少女がまだ幼かった当時、父が何をしていたのか? その話を聞かされ、理解できるようになったのは最近のこと。
 彼女の父が、自分のことを英雄だと言うことは一度としてなかった。
 彼だけではない、共に戦った仲間達の誰もが、自らを「英雄」だと言うことはなかった。
 自分のため、自分の大切だと思うもののために戦った。その一方で犠牲を強いた。たくさんの尊い生命が地上から失われた、彼らの――仲間であった少女も、戦いの中で命を落とし、星へと還った。
 だから決して「英雄」などではないのだと、自戒するように言っていた姿を思い出す。
 そんな彼らは強い絆で結ばれていた。
 旅を終え、離ればなれに過ごす様になっても、その絆は変わらずに彼らを繋いでいた。

「……クラウド達から連絡は?」
「ないわ」

 少女の手に抱かれたぬいぐるみを、少年は見つめていた。
 かつてそれは、人の言葉を話し、笑顔を分かち合った存在。
 けれど今は、物言わぬただのぬいぐるみに戻ってしまった。

 彼らの元にようやく訪れたと思っていた平穏。しかしそれは静かに、異変を告げた。
 沈黙によってかつての英雄達を導き、最後の戦場へと誘う使者――その名は、ケット・シー。





―ラストダンジョン:序章<終>―
 
[REBOOT] | [ラストダンジョン[SS-log]INDEX] | [NEXT]