Phoenix―生者の願いを叶える魔石
2005/06/28
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魂に、器は必要なのだろうか? 彼女が死んだと言う知らせを受けたのは、旅先での事だった。風の噂で聞いた帝国によるコーリンゲン襲撃。その話を聞いたとき、真っ先に浮かんだのは彼女の笑顔だった。 『ねえロック! 今日のトレジャーハンティングはなあに?』 ――レイチェル。 1年ぶりに戻って来た村は半壊していた。真っ先にレイチェルの住んでいた家へ向かった。何度も通った家までの道だったのに、とても長く感じた。 レイチェルの家の半分は崩れ落ちていたけれど、レイチェルのいた部屋は無事だった。急いで彼女の元へ向かう。屋根が崩れて室内の半分がむき出しになった状態で、レイチェルはベッドに横たわっていた。見た目に傷はなさそうだった。 だから俺は彼女の姿を見出した途端、構わずに大声で叫んでいた。 「レイチェル! 良かった……! 生きてたんだな」 あの日、この場所で拒絶されたことも忘れ無我夢中で彼女を抱き起こした。ずしりと手に重みを感じた。信じられないぐらいの重さだった。抱き寄せても、ただぐったりと両腕が垂れているだけ。彼女の腕は俺を抱き返すことも、拒むこともなかった。 「レ、イ……チェ……ル……」 頬に触れた肌に弾力は失われ、恐ろしいほど冷え切った彼女の身体。どれほど呼びかけても微動だにしない――まるで美しく精巧に出来た置物のようで。 彼女の肩を抱いていた手が震え出す。 「う……ウソだ……、レ……イ、チェル。レイチェル!!」 俺が抱いていたのはレイチェルではなく、その亡骸だった。 ベッドの上に横たわる彼女の姿を見るたびに、複雑な思いに駆られた。 あれから、俺はレイチェルの亡骸を保存する秘薬を手に入れ、その人の家の地下室にレイチェルを安置してもらっている。 ときどき彼女の様子を見に戻ってくるたびに、罪悪感と焦燥感に駆られた。 姿こそ生前のままの美しい状態に保たれてはいたものの、二度とその瞼が開かれる事はない。ベッドに横たわったまま動かない彼女の手に触れ、脳裏によぎった言葉に思わずレイチェルから目をそらした。 ――彼女をここに縛り付けているのは俺自身なんじゃないか? それでも俺は探し続けた、「死者をよみがえらせる秘宝」。本当にそんな物があるのかどうか分からない、それでも僅かな可能性があるのなら、信憑性のない噂話だったとしても、喜んで騙された。 ずっと待っていてくれるレイチェルを、早く自由にしてやりたい。 いつしかそう願う自分に気づいた。 信じる者は救われる。秘宝フェニックスは砕け散り、最期の力で俺の願いを叶えてくれた。 再び開かれる瞼、取り戻す笑顔――ベッドの上に横たわるレイチェルが目覚めその瞳が俺を映し出している。やがて彼女の口から出た言葉は、俺を救ってくれた。きっと彼女は……。 「この私の感謝の気持ちで、あなたの心を縛っている。その鎖をたち切ってください」 そうして彼女は、自らの意思で再び眠りについた。今度は引き替えにフェニックスを蘇らせて――彼女はようやく自由になった。 魔石フェニックスを手に入れた俺は、もう一つの大切なものを手に入れた。 「だから…… あなたに言い忘れた言葉。……ロック、ありがとう」 それはレイチェルのくれた真実。 <終> # レイチェル視点はこちら→[Phoenix―死者の願いを叶える魔石] |
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