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目次です、目次をとばします。

1.杉並区、山田区長を証人申請

2.提出された書面の内容

3.「横浜方式」についての双方の主張

(1)国・都側の主張について

(2)杉並区の書面について

4.裁判の今後について

本文はじめです、本文をとばします。

1.杉並区、山田区長を証人申請

杉並区が「横浜方式」での住基ネット接続と国賠請求を求めて国・都に対しておこした「住基ネット受信義務確認等請求訴訟」の第7回口頭弁論が、2005年11月15日10時40分から東京地裁民事713号法廷で行われました。

12月1日、杉並区のwebサイト当日陳述された書面が公表されました。杉並区は証人として山田杉並区長を申請。それに対して国・都側は「必要ない」との意見を述べました。

裁判長からは、「主張は出揃ってきたが、新たな主張もみられるので被告は検討するように。原告側も被告の準備書面(6)の検討を」との意見が示され、次回は、双方の主張と杉並区側から陳述書を提出することになりました。

また裁判長は、証人申請について「扱いを検討するが、採用しなければ次回で終結を考えている」と表明しました。

次回は2006年1月17日10時50分から、同じく713号法廷の予定。書面提出締め切りは1月11日で、原告側陳述書は12月19日提出を「努力目標」として求められています。

2.提出された書面の内容

原告杉並区からは、準備書面(5)(2005年11月8日付け)が陳述され、書証甲第33号証〜甲第40号証と山田区長を証人申請する証拠申出書が出されました。

被告国・都側からは、準備書面(6)(2005年11月15日付け)が陳述され、書証乙第1号証〜乙第8号証が提出されました。

今回は、前回裁判長が市区町村の送信義務を規定した住基法第30条の5についての双方の解釈を示すよう求めたこともあり、準備書面では「横浜方式」について双方の主張がされています。

杉並区からは、「横浜方式」採用の適法性について鑑定意見書(甲第33号証、甲第34号証)が出されました。前回の「訴訟の適法性」についての鑑定意見書と同じく、兼子仁都立大名誉教授と阿部泰隆中央大学教授によるものです。その他は、目黒区や藤沢市、川口市の審査会答申や杉並区の個人情報保護条例、自治基本条例が証拠として出されています。

国からは、旧自治省の課長補佐による住基ネット構築の研究会報告書の考え方や改正住基法の解説(乙第3号証、乙第5号証)が出されていますが、著作権の関係で杉並区のサイトには掲載されていません。

3.「横浜方式」についての双方の主張

(1)国・都側の主張について

国・都側の準備書面(6)では、「訴えの適法性」については簡単に、機関訴訟に該当することと「自己の権利利益の保護救済」ではないことについての補充がされています。

そのあと、本人確認情報送信に市区町村の裁量権はなく選択的な送信は違法であることについて、以下のとおり詳しく述べています。

全体として住基法第1条(目的)の「国及び地方公共団体の行政の効率化」を強調して「横浜方式」では全国ネットの統一的運用が阻害される、という批判で、従来の主張をまとめた内容ですが、「横浜方式」の違法性について包括的な弁論がはじめてされた点に意味があります。

国・都側は、以下のような主張です。

「住基ネットは,本人確認情報を国の機関等,都道府県及び市町村で共有することにより,行政コストの削減等を図ることを一つの重要な行政目的としているのであって,住民の一部にでも不参加があると,国の機関等をはじめとする本人確認情報の利用者において,従来のシステムや事務処理を存置するとともに,本人確認情報の提供・利用が必要な業務が行われる都度,いわゆる非通知希望者については,ネットワーク以外の手段により,当該事務に必要な氏名,住所等の情報を非通知希望者から収集するか又は非通知希望者から提出させざるを得ないことになり,住基法が予定する効果の達成は著しく困難となる。」

(国・都「準備書面(6)」12ページ)

「また,住基ネットは,市町村間をネットワーク化し,住民基本台帳事務の広域化,効率化を図ることを一つの重要な行政目的としているが,住民の一部にでも不参加があると,市町村においてネットワークによらない住民基本台帳事務の処理方法を存置せざるを得ないことになり,住基法が目的とする市町村における住民基本台帳事務の効率化が阻害されることになる。」

(国・都「準備書面(6)」12〜13ページ)

前段の主張は、結局、行政コストの削減=国民管理の効率化のためには全国民漏れなく背番号管理をすることが必要、というわけです。住民基本台帳はまずもって自治体内の住民サービスのために住民が自己情報を提供しているものだという、地方自治と個人情報保護の視点は軽視されています。

また後段は、そもそも市町村には不要な住基ネット事務が新たに発生していることや、転入転出特例処理では既存の事務処理との二重処理となり事務負担が増えるなど、住基ネットそのものが市町村事務の効率性を阻害しているのですから、何を言っているのやら。

その他、住基法に「選択的な参加」を認める規定がないことや、36条の2で市町村長に認められているのは「具体的な漏えい等の危険性」が生じている場合の応急的な切断だとか、提供先での使用済み本人確認情報の消去義務の規定等がなくても漏えいの危険はない、等の主張がされています。

 裁判でのやりとりはともかく、私たちからみれば、まさにそのような規定がないことが改正住基法の欠陥であり、だからこそ住基ネットが批判されていることを、裁判所はキチンと判断してほしいものです。

(2)杉並区の書面について

ア.準備書面(5)について

杉並区の準備書面(5)は、住基法第30条の5「住民票記載等の都道府県知事への通知」について、以下のとおり主張しています。

そして「住基法30条の5は,市区町村長に対し、住基ネットへの接続に際し、地域の特性に応じた適切な管理責任を果たすための一定範囲の裁量の余地を認めている」と、段階的参加の適法性を結論づけています。

イ.兼子鑑定意見書(甲第33号証)について

兼子鑑定意見書は、住基法30条の5や36条の2の解釈を述べた上で、住基ネットの「安全確保等」に関する比較衡量判断の「正当な判断権者が誰であるかという点が根幹的」として次の3つの解釈をあげています。

そして「(C.の場合)自治体首長の地域自治的判断として、住基ネットへの接続送信を見送るという“政策法務”的態度もありえようが、当面は希望者住民の本人確認情報のみ送信するという接続義務の履行を選択する方式を表明することが、合法的にありうる」と 杉並区の方針の適法性を述べています。

ウ.阿部鑑定意見書(甲第34号証)について

阿部鑑定意見書は、「区には例外的に住民情報を都に送信しない裁量がある」ということを以下のことから結論づけています。

これらの主張は、国・都側への反論としては有効であっても、私たちからみれば、このような合法性の主張をするなら「横浜方式」の採用ではなく、不参加の継続やあるいは(本来あるべき選択制として区が述べていた)住基ネットに参加したい人だけが参加する「オプト・イン」型の選択制を採用してもいいではないか、と言いたいところです。

なお阿部鑑定意見書では、住基ネット・システムが全国統一システムであるべき、と主張する国に対して、それなら法定受託事務にするべきではなかったか(しかし立法は自治事務とされている)と指摘しています。本質は国民総背番号制を狙いつつ、地方公共団体の事務を偽装せざるをえなかった国の矛盾をついた指摘です。

4.裁判の今後について

この訴訟では、次の3点が争点となっています。

国は、当初(1)について訴訟は不適法として却下を求めることを中心に弁論してきましたが、裁判長は(2)の国家賠償請求については国の判断を主張するよう求め、前回で、国家賠償請求に関する双方の主張が、ほぼ陳述されました。

前回、裁判長から「住基法第30条の5の解釈」について弁論するよう求められ、今回、双方から(3)の「選択的な送信」の是非についての主張がされました。これに対し裁判長は、双方に新たな主張がみられるので検討するように求めています。

全体の流れとしては、判決が「門前払い」ではなく少なくとも国家賠償請求については判断を示し、さらに「横浜方式」の是非にまでふみこむ可能性が出てきていますが、まだどのような判決になるかの予想はつきません。

口頭弁論は証人採用されなければあと1回と言われており、裁判所が証人の必要性を認めるかどうかが一つの焦点です。

(原田富弘・記)
本文おわりです。
奥付です、奥付をとばします。
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Copyright(C) 2005-2006 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2005年12月19日、最終更新日:2006年12月10日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/suginami01/court07.html
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