1.調査目的
2002年8月5日住基ネットが「第一次稼働」した。住民票コードの付番と「本人確認情報」の市区町村から都道府県へ、そして全国センターへの送信が始まり、さらに、9月からは「国の機関等」への本人確認情報の提供が始まった。
住基ネットを「コードとカードによる国民監視」として問題にしてきた私たちの立場からは、全国センターで集中管理される「本人確認情報(住民票コード、住所、氏名、生年月日、性別、異動情報の6情報)」がどのように利用されていくかは、もっとも重要な問題である。
しかし、住基ネットの全国センターである「指定情報処理機関(地方自治情報センター)」で集中管理され「国の機関等」に提供されることになっている「本人確認情報」の利用の実態は、市民にはあまり明らかにされていない。
そこで2003年8月の住基ネット本格稼働を前に、住基法で本人確認情報の提供先とされる「国の機関等」に対して、どのように利用しようとしているのか、調査を実施した。利用機関に対して、住基ネットについての問題点や不参加自治体等の状況を伝え、利用について再検討を求めるために、問題点や状況を記した調査依頼書、および「第1次稼働」直前に朝日新聞大阪版に掲載された利用機関において利用が疑問視されているとの記事(2002年8月1日付け、第1面および第27面)のコピーを資料として送付した。
2.調査方法
(1)調査対象機関等の設定
本人確認情報の利用機関は住基法別表で規定され、具体的な利用事務は総務省令で規定されている。利用機関としては、国の機関、法人、都道府県、市区町村となっている。2002年12月の「行政手続きオンライン化3法」により、提供先事務が当初の10省庁93事務から264事務に拡大された。
調査にあたっては一覧性を考慮し、総務省のウェブサイトに掲載された次の「住民基本台帳法に基づく本人確認情報の提供又は利用事務」に関する二つのリストを基礎資料とした。
- 「住民基本台帳法に基づく本人確認情報の提供又は利用事務(現行)」(pdfファイル)
- 「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律により追加する住民基本台帳法に基づく本人確認情報の利用事務」(pdfファイル)
この二つのリストをもとに、本人確認情報を利用する264事務について「本人確認情報利用事務一覧」(送付リスト)を再構成した。
調査に際しては、対象事務については略記したり一部事務をまとめたりした。また事務によっては利用機関が複数となっているが、この場合、官庁関係についてはいずれかの省庁一つに対して送付し、法人関係についてはすべてに送付した。また都道府県事務は代表して東京都に送付し、市区町村事務は調査対象からはずした。
このような調査方法をとったのは、調査事務と経費の軽減のためだが、そのため統計的な分析には適さないものとなっている。そのため、この報告も回答内容の報告にとどめる。
調査時点においては、利用開始している機関はごく一部で、今後段階的に利用を拡大していく状況であった(総務省ウェブサイトの「住民基本台帳ネットワークシステムの展開」(pdfファイル))。
また調査時点での年間利用件数、提供方法、利用方法、メリットについては、総務省のウェブサイトに掲載された以下の資料で説明されている。
(2)調査内容
設問の大項目は以下のとおりである。詳細は「本人確認情報の利用状況調査アンケート用紙」を参照されたい。
[1]住基ネットによる本人確認情報の利用予定について
[2]①本人確認情報を利用する事務、②その事務において利用する目的、③年間の対象者(利用件数)の概数、④主な利用者(一般国民か業者かの別)
[3]利用にあたって指定情報処理機関との間で交わす協定について
[4]利用方式(一括提供方式か即時提供方式か)、端末機の他業務との共用の有無、提供された本人確認情報の保存年限
[5]データベースに住民票コードを付加する予定の有無
[6]非接続の自治体の本人確認情報の利用抑止策
[7]本人確認情報を利用するにあたっての個人情報保護のための規定・体制
[8]住基ネットについての意見
[9]担当部署
(3)調査書の送付
- 送付日
- 2003年5月14日
- 調査書送付数
- 148通(利用事務264事務より少ないのは、市町村事務を除いたこと、および機関を同じくする一部事務をまとめたため。「調査No.148 国土交通省(航空法)」については、未送付の虞れがあるため送付数から除いた。)
- 調査書を送付した機関・法人名および事務名
- 「本人確認情報利用事務一覧」(送付リスト)参照。
- 送付方法
- 「本人確認情報利用事務一覧」(送付リスト)の機関・法人名の各「事務担当者」宛とし、所管がわかるものは所管を記載した。同一の機関・法人で複数の事務を担当するものについては、各事務担当者宛の小封筒に調査書を入れた上で、まとめて各機関・法人に送付した。いずれも返信用封筒を同封した。
都道府県への提供事務とされているものについては、代表して東京都に対して送付した。
市町村が利用機関となっている事務については、特定の市が対象とされているもの(被爆者援護法について、広島市・長崎市)を除いて、調査は行わなかった。
3.回答内容
(1)回答数
- 国の機関等
- 11省庁・法人 34事務
(金融庁からは15事務、法務省民事局からは9事務についてまとめて回答された。) - 東京都
- 1機関 10事務
- 回答機関不明のもの
- 2機関 2事務
- 合計
- 46事務
(2)回答状況
「本人確認情報」利用の有無と今後の利用予定に関する回答は、次のとおり。
- a.現在、利用している
- 1事務(「東京都(旅券法)」)
- b.近く利用する予定
- 0事務
- c.利用する予定だが、時期は未定
- 3事務(「地方公務員災害補償基金」、「農林水産省(森林法)」、「不明機関その1(給付金送金)」)
- d.利用するかどうか検討中
- 4事務(「東京都(危険物取扱者免状交付)」、「東京都(消防整備士免状交付)」、「東京都(計量法)」、「東京都(不動産鑑定業登録申請経由)」)
- e.当面、利用予定はない
- 23事務(一括回答された金融庁の15事務を含む。「対象事務が廃止予定で住基法から該当個所を削除する予定にしており住基ネット利用の整備は考えていない」という「農林水産省(主要食糧需給及び価格の安定法)」事務もここに含めた。)
- f.今後も利用予定なし
- 3事務(「地方公務員共済組合(年金給付)」、「地方公務員共済組合(介護保険法)」、「地方公務員共済組合連合会(介護保険法)」)
※地方公務員共済組合の年金給付事務は実際に利用しており、誤記と思われる。 - g.不明
- 2事務
- h.無回答
- 10事務(法務省関係事務)
利用する端末機については「住基ネットとの接続のみで利用し他業務との共用やLAN接続はしない」と回答されたが、機関等で管理するデータベースに照会の効率化のために「住民票コードを付加する」ところが2事務あり(「東京都(旅券法)」と「不明機関その1(給付金送金)」)、また即時提供で端末機で本人照会する際に「住基カードを利用する」「検討中」が2事務あった(「東京都(旅券法)」と「農林水産省(森林法)」)。
利用(予定)事務が少なく、利用の協定や個人情報保護の規定体制についての回答は少なかったが、回答のあった2事務(「東京都(旅券法)」と「農林水産省(森林法)」)ではいずれも「(規定は)公開・資料提供できる」と回答された。
回答内容の詳細については「本人確認情報の利用状況調査回答結果」を参照されたい。
(3)特徴的な回答
法別表で利用事務とされながら、「今後も利用予定は全くない」(地方公務員共済組合連合会の介護保険法事務)や「利用のメドはたっておらず費用対効果を中心に検討予定」(金融庁の15事務)という機関があった。
また「利用事務そのものが廃止予定で住民基本台帳法から該当個所を削除予定」という事務(農林水産省の主要食糧需給及び価格の安定法事務)もあった(2004年4月1日、住基法から削除)。
この金融庁と農林水産省の事務は、いずれも2002年12月の法改正で追加されたばかりの事務である。
4.今後に向けて
市民団体からの突然の調査にもかかわらず、一括回答も含めて148事務中46事務から回答を得られた。実態を正確に把握するためには、市民団体による任意調査では限界があり、マスコミや議会等による調査が望まれる(調査に同封した2002年8月1日の朝日新聞以外、マスコミでの報道はされていない)。
「本人確認情報」の提供開始から1年に満たない時点で、まだ利用があまりされていない段階での調査だった。今後は、すでに利用している事務、利用予定事務、利用予定のない事務に分けて設問するなど、より内容の精査を検討したい。
不十分な調査であったが、提供事務が拡大されて半年後の調査であったにもかかわらず「利用予定がない」「利用事務そのものが廃止予定」の事務があることや、利用するか否かを含めて検討中で当面利用予定がない事務が大部分であることが明らかになった。住基ネットの利用事務の拡大という大きな問題が、どのように検討され実施されたのか、疑問を感じざるを得ない。
Copyright(C) 2005 やぶれっ!住基ネット市民行動
初版:2005年02月20日、最終更新日:2005年11月06日
http://www5f.biglobe.ne.jp/~yabure/juki-net01/report.html