先生と患者 から 患者様とお医者様 へ

以前は、病院へ行くと、白衣に身を固めた、いかにも威厳のありそうな 「先生」 が、これまた威厳を象徴するような立派な椅子に鎮座まして、
  「どうしました?」
などど、おごそかにおっしゃるのでありました。 そして、患者の訴えが何であろうと、斟酌せず、体温と脈拍・血圧を測り、さりげなく手先、首周りを触り、時には瞼をクリッとひっくり返したものです。

こうなると、患者は蛇に睨まれた蛙のような物で、「生きて帰るも、二度と家族に会えなくなるのも、ここが先途」 と思い、まな板の上の鯉のような気分になったものです。

脈拍は親指側の手首を中三本の指先で押さえ、神妙な顔をしながら、一分間の心臓の拍動数を勘定していたのですが、名医になると、同時に脈動の強弱、リズム、浅深により、各臓器の健常度を推し量り、さらに同時に肌のつや、爪を観察し、体全体を観察していたのです。
特に爪は、過去数ヶ月間の体調の履歴書のようなもので、長期的総合的観察に欠かせないものなのです。
首周りを触るのは、助平だから、ではなく、リンパ節の状態を確認し、瞼の裏は血管の状態が明瞭に見える数少ない場所なので、しかも糖尿病などの場合は早い段階から症状が現れるので、早期発見にこれ努めていたのです。

たかだか、2、3分間、患者と接しているうちに、患者の懐具合まで見通して、どんな治療をしようか、と戦略立案完了となるのです。

かくも 「偉大なる先生」 と対面していると、患者も日参しようなどという気持ちは消えうせて 「早く治らなくちゃ!」 と謙虚に 「人生をやり直そう」、と心に深く思い、実際にその効果あらたかで、帰り道には早くも治った気分となり、「さすが、あの先生は、名医やなぁ、、、」 と途中で出会った知人に語ったりしたものです。

さて、時移り、時代は変わって、
日本全国、津々浦々に、特に田舎に行けばいくほど、目立つ巨大な白亜の建物は病院、ということになりました。

そこに出入りする主役たちは、患者様とお医者様、なのです。
だいたい、
昔から有名な湯池湯、草津温泉の草津節にも唄われているように、

    ♪お医者様でも 草津の湯でも、
        こぉりゃ 惚れた病(
ヤマイ)はなおりゃせぬよ
                     チョイナ チョイナ♭

お医者様、という言葉はあまりいい時に引き合いに出されない。
名医、に対して、藪医者、と言うように。

現代では、テレビ、新聞は言うに及ばず、日夜、チマタには役に立たない医学知識が溢れかえっております。
田舎の場末の本屋でも、漫画本と健康・医学関連の本は、文字通り幅をきかせております。
しかぁ〜〜し、
病人は増え、治らない病気も活況を呈し、医療機関は人手不足、赤字経営で世の中の非難を浴びております。
私の友人も、看護師、介護士の求人にやっきになっており、頼まれていますが、全然紹介できていません。

今や、日本は世界史上最高クラスの長寿社会を謳歌しており、経済的に豊かです。つまり暇な病人が多いのです。
と言うと、怒られるのですが、何十万人が、10年、20年と、週に2、3回、何時間かかけて透析をしている余裕があるのですから、世界の貧乏人たちからみれば、「何と余裕シャクシャクたるもの!」 と感心されるのです。

こういう人たちは、病院から見た固定客で病院経営の安定したおいしい客でもあります。 しかも、長年の親しんだ患者仲間と言うかベテラン患者のネットワークを持ち医者以上に経験に基づいた情報を持っております。
さらに、氾濫する情報から、自分の得意分野限定の医療情報を、何年も継続して学んでおりますから、下手な医者よりも、経験もさることながら、知識も遥かにうわ手という人も少なくない。

もっとも、
別に書きますように、何十年ものベテラン患者でありながら、全然勉強しないだけならともかく、反省しない患者も居るんですが。

それはともかく、
こうなると、お医者様でも迂闊な相手をしていられない、といって特定の病気だけを勉強していたんじゃ食っていけない。

ということで、専門知識を振りかざす専門家の立場は、往々にして逆転するのであります。
まして大病院の場合、患者様の苦情が上司である主任医師や院長に伝わったり、個人の開業医でも保健所に苦情を持ち込まれたりした日には、「やってらんねぇ」 ということになる。

だから、医者歴ン十年の人は、「この頃の患者は生意気だ」 などと言いだす。

以前は、滅多になかったことですが、保健所に 「お恐れながら、、、」 と駆け込む例も増えているようで、保健所でも内情は理解していながらも、苦情を受けた以上は病院に対し、何らかの 「指導」 をしなけりゃ、となる。

そして、患者様とお医者様、という関係になる。

しかし、同じ病気を何年も、何十年も、となれば、お医者様とよくよく相談し、患者の方も考え直せばいいのだが、こういう固定客は治さなくても現状維持なら文句を言わないので、お医者様もそれなりのお付き合いをする、ということになる。

さて、患者のあなたなら、この先どうする?

今回は参考文献はありません。 なかなか、ここまで書けませんよ。

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